第7話 First Fellow『S&W M34』

 森で助けた少女、ミーヤの今後のため、彼女をサポートする事にした俺。宿に彼女も泊めてもらい、体力を回復させるために食事を取り、冒険者登録も済ませたものの、狙いをつけていた依頼が思っていたより安かった。それでも彼女や自分のためにお金が必要で、俺は今日もゴブリン討伐のために、宿にミーヤを残して森へ向かった。



 依頼を受けた俺は今、森の中を歩いていた。両手でM1911A1を握り締め、周囲を警戒しながら歩く。今日からミーヤの事などを考えると、ゴブリンは最低でも討伐5匹狩るしかない。


 ギルドにあった農家の手伝いの依頼が当てにならない以上、彼女は別の仕事を探すしかないが、その間にも生活費が必要だ。そのためには、もっとお金が居る。


 しばらくゴブリンを探して森の中を索敵しながら歩いていると、声が聞こえてきた。ゴブリンのだっ。

 俺は素早く近くの木陰に身を隠し、周囲を見回す。声がする方向は、あっちか。数を狩る必要上、行くしかない。俺は声がする方へと姿勢を出来るだけ低くしたまま近づいていく。……が、連中の声が少しずつ遠ざかって行くっ!くそっ!進行方向が俺と同じなのかっ!こうなったら、行くしかねぇっ!


 俺は姿勢を低くした状態から立ち上がり、ゴブリンの後を追って走り出した。しかしそうなれば当然、茂みをかき分ける音や枯れ枝、枯れ葉を踏む音が鳴り、ゴブリンどもに気づかれるリスクが高まるが、背に腹は代えられないっ!

 だがおかげで距離を詰められたっ!前方っ、槍や斧のような物で武装したゴブリンッ!数は5匹っ!


『ギッ!?ギギャァッ!』

 そして走り、連中に近づく頃には最後尾を歩いていたゴブリンが気づいたっ!すぐに声を荒らげ他の連中も振り返り、俺に気づいて声を荒らげるっ!が、やるしかないっ!!

 

 俺は連中からの投擲攻撃などを防ぐために、近くの木陰に駆け込み、そこからM1911A1を構え、発砲っ。銃声が響き渡り、放たれた銃弾が1匹の胴体を撃ちぬいた。

『ギアァァァァアッ!』

 悲鳴を上げながら1匹倒れたっ!次っ!


 そこから2発、3発、4発と放ち2匹目、3匹目と続けざまに撃ちぬいていく。

『『ギィィィィィィィッ!!!』』

 だが、4匹目と5匹目が向かってくるっ!狙うは、武器を持ってる4匹目っ!

「そこだっ!」

 幸い動きが直線的だったので、4匹目は運よく腹部に命中し倒れた。だが。

『ギィィィィィッ!!』

「しまっ!ぐっ!」


 武器を持つ4匹目に集中し過ぎたっ!5匹目の飛び掛かりに対応できず、岩を使って跳躍してきた奴の飛び蹴りで、俺はその場に蹴り倒された。クソっ!咄嗟に腕を振って手の甲で奴を殴ったが、俺もゴブリンも相打ちとなって地面に倒れたっ。そして、立ち上がりが早かったのは、ゴブリンの方だった。


『ギアァァァァァッ!!』

「ぐっ!?」

 起き上がろうとする俺の腹部に馬乗りになり、その両手が俺の喉を押さえつけてきたっ!

「ぐ、あっ!!」

 圧迫される喉の痛み、息が出来ず、視界が明滅する。ゴブリンの勝利を確信した下卑た笑みが視界を埋め尽くす。

『ギヒヒヒヒッ!!!』

 奴の薄汚い笑みが聞こえてくる。だが……。


「うっ、がぁぁぁぁっ!!!」

 M1911A1は今も、俺の手の中にあるッ!それにこんだけ近けりゃッ!狙う必要もないっ! 右手に握ったM1911A1を、奴の腹に突き付けるっ!

『ギッ!?』

「くた、ばれっ!」

 視界が明滅する中で、引き金を引いた。

『ギアァァァァァァァッ!!!』

 放たれた銃弾が奴の腹部を貫通し、奴が俺の上から転げるように退くっ。腹から噴き出た血が俺の服を汚すっ。

「うぇっ!えほっげほっ!!!」


 奴の首絞めから解放され、せき込む。数回呼吸をするが、まだ終わってない。俺は酸欠で少し痺れた手足に力を入れて立ち上がり、のたうちまわる5匹目に近づき、トドメの1撃を頭に叩き込んだ。


 5匹目が動かなくなったのを確認すると、近くの木に背中からもたれかかる。

「ハァ、ハァ、ハァッ」

 何とか呼吸を整えつつ、チャンバーチェックとマガジンチェックを挟む。残りは薬室の1発とマガジンの1発だけ。仕方ないのでマガジンを替え、一度周囲を警戒してからゴブリンどもの耳を回収する。


「ハァ、ハァ、クソっ。何とか、なったが……」


 耳を回収し終えた俺は、一度その場を離れ、適当な木陰に座り込んだ。そこで息を整えるためだ。しかし、呼吸を落ち着けようとしても、今さっきの事がフラッシュバックする。


 ゴブリンに首を絞められた時感じたのは『死』だ。もし、ゴブリンがもう1匹でもいたら、俺は死んでいたかもしれない。そう思うと背筋を冷たい物が走る。あと少しで俺は、俺の魂は、死神の鎌に刈り取られていたかもしれないと思うと、冷や汗が吹き出す。今更になって手足が震えやがる。


 その時、ふと俺の中の悪魔が囁く。『こんな死の恐怖を味わってまで、ミーヤのために仕事をする意味なんてあるのか?』と。だが次の瞬間、俺は俺自身を、そんな事を考えた自分自身を殴った。


 そうだ。俺は俺の意思で、あの子の今後に関わったんだ。今更後ろに下がれるかよ。あの子の未来は、今俺の肩にかかってるんだ。男として、引き下がれないし、何より自分で決めた事を今更反故に出来るかっ。そんなのはミーヤへの裏切りだ。俺を信じてくれている彼女を裏切る行為だ。そんなこと、出来るかっ!


 俺はM1911A1をホルスターに戻すと、両手で頬を数回叩いて気合を入れなおすっ。

「っしっ!!!まだまだやってやるぞっ!!」

 気合を入れなおし、次なる獲物を探して俺は森の中を歩き回る。



 その後、俺は森の中を歩き回り、3匹ほどの集団を2回目撃し、これを奇襲で撃破。これで集まった耳は11個。本当ならもっと狩っておきたい所だが、弾の数にも限りがある。それに森の中でハンドガンチートを使っての補充も危険だ。だからとにかくマガジンの予備があるうちに俺は森を出て、町へと戻った。


 血に濡れた上着を着たままなのは気持ち悪いが、着替えに戻ってギルドと宿を往復するのもめんどくさい。なのでそのままギルドで換金してから、俺は宿に戻った。今日は死の恐怖に直面した事もあって、疲労感がヤバい。俺は重たい脚を動かしながらなんとか部屋に向かった。


「ただいま~~」

「あっ!おかりなさ、ッ!?ば、バレットさん血がっ!」

 部屋に入るなり、ミーヤが笑みを浮かべながら出迎えてくれた。しかし俺の服に着いた血を見るなり、彼女の笑みは瞬く間に蒼白の表情へと切り替わってしまう。

「もしかしてバレットさんどこか怪我をっ!?だ、大丈夫なんですかっ!?」

「あぁごめんごめん。確かに服に着いた血の汚れはまぁ盛大だけど、俺の血じゃなくてゴブリンのだから。安心して」

「えっ!?そ、そうなのですか?よ、良かった」


 話を聞くと、驚きながらも直後に安堵の息を漏らすミーヤ。しかし彼女はふと何かに気づいたように俺の顔を、いや、正確にはその少し下を、ッ!やべっ!これ首の所見られてっ!

「ッ!」


 俺は即座に首元を手で隠したっ。

「バレット、さん?今、首の所少し何かの跡が、あったように見えたんですが?」

「ッ」

 首の所を聞かれ、あの時、首を絞められた恐怖がぶり返す。恐怖で手がカタカタと振るえる。それでも……。

「あ、アハハッ、あ、あぁこれねぇ。いや~ちょっとゴブリンと取っ組み合いになっちゃってさぁっ!いや~大変だったよマジでぇ~!」

 

 彼女に要らぬ心配をさせたくなかった。だから俺は無理やり笑みを浮かべ、自分自身の恐怖を吹き飛ばそうと、必死に笑い声をあげる。

「バレット、さん」

 ミーヤは今も心配そうに俺を見つめている。分かってる。こんなのきっとバレバレだって。 でもそれで良いんだ。ここで彼女に恐怖をぶちまけたって仕方ない。恐怖を乗り越えるためには、戦って慣れていくしかない。なぜなら俺のこの力は、戦う以外には役に立たない。


 そして今の俺に出来る金を稼ぐ方法は、冒険者として戦うという事だけなのだから。それにこの世界に転生して、ハンドガンチートを貰った時からこういう事はあるだろうって、分かり切っていた事だ。


「さっ!食事にしよっかっ!ミーヤさんもお腹空いたでしょ?」

「あ、は、はい」

「じゃあ食堂行こっかっ!は~夕飯何かな~」

 俺は精一杯の空元気を浮かべながら彼女を連れて食堂へと向かう。


「……ごめん、なさい」

 その時俺は、必死に元気な自分を演じていた。だからこそ後ろで小さく呟く彼女の謝罪の言葉なんて、聞こえないふりをした。



 それから数日、俺はゴブリンの討伐と並行して、ミーヤの職探しを手伝った。ティレットの町郊外の農家などを当たってみて、彼女を住み込みでなくても良いから雇ってくれないか?と聞いてみた。しかし結果はダメだった。


 『今はそこまで人手が必要じゃないから』とか、『奴隷がもういるから』とか、『雇ってもそこまでの給料は払えない』と言われてしまう始末だった。他にもオレが泊っている宿の女将さんに、『ミーヤをここで雇ってくれないか?』と聞いていた。しかし『もう間に合ってる』、『これ以上雇っても払う給料が増えるだけ』と言われてしまった。


 そうして結局、ミーヤの仕事探しは色々手詰まりな状況になりつつあった。とはいえ、だからと言って俺のゴブリン討伐を疎かにする事も出来ない。今はこれが俺と彼女が生きていくために必要な金を稼ぐ唯一の方法なのだから。


 とはいえ、ゴブリンを狩る数は俺が一人だった時よりも単純計算で倍。当然疲労度も桁違いだ。

「た、ただいま~~」

「あっ、おかりなさいバレットさんっ」

 毎日毎日、ヘロヘロになりながら帰ってくる様はまるでブラック企業のサラリーマンだ。

「だ、大丈夫ですかバレットさん?」

「あ~、平気平気。ちょっと疲れたけど、これくらいならね」

「そう、なんですか?」

 ミーヤが心配そうに俺を見つめてくる。が、彼女に無用の心配をさせる訳にも行かないので、俺は何とか笑みを浮かべて誤魔化す。しかし、それも彼女は嘘だと見抜いている気がする。だって彼女は今も、心配そうに俺を見つめているのだから。

 

 そんな日々が続いていた。ある日。

「それじゃあ今日は休もうか。明日も俺はゴブリン討伐だし」

「……」

「あ、あれ?ミーヤさん?」

 夜、後は寝るだけって時に俺が声を掛けるが彼女はなぜか無言で俯いたままだ。更に声を掛けるが、彼女は無言のままだ。


「あの、バレットさん」

 しかしやがて、彼女は何やら重々しい空気を纏ったまま静かに口を開いた。

「何?どうかしたの?」

「私、私っ。バレットさんにはとても感謝しています。バレットさんが助けてくれたから。私は今ここでこうして生きていられる。美味しい食事を食べていられる。そのことは、とても感謝しています。でもっ!」


 俯いていた視線を上げた彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。どうして?と俺は思わず思った。俺は何か、彼女を悲しませたか?とすぐに頭の中で自問自答を始めてしまう。


「でも私、怖いんですっ」

 しかし彼女の声が俺の意識を引き戻した。いや、それにしても、怖いって?

「何が、怖いんだ?」

 俺は分からなかった。だから静かに問いかけた。


「以前は、夜が怖かった。夜眠る度に、お母さんやお父さんの事、奴隷商人に捕まった時の事を夢で思い出して怖かったんです。でも、バレットさんがそばに居てくれたから、そんな悪夢は見なくなりましたっ。でも、今は別の悪夢を見るんですっ」

「別の悪夢?」

「はいっ、ば、バレットさんが、私の前からいなくなってしまうんですっ。その悪夢を見る度に、私は怖くなるんですっ!今度はバレットさんが、私のために無茶をして、大けがして、死んじゃうんじゃないかと思うと、私はそれがたまらなく怖いんですっ!」

 彼女はひどく怯えた様子で悪夢の内容を語る。そしてガタガタと震える彼女の体が、恐怖の度合いを示していた。


「私がここにいる間、出来るのはただ祈る事だけですっ!でも、それだけじゃ何にもならないっ!だからバレットさんっ!教えてくださいっ!私にできる事はありませんかっ!?私、なんでもしますっ!だからっ!」

「じゃあ君は、戦えるのか?」

「えっ?」


 その時、俺の口から出た言葉は、正直反射的に出たと言っても過言ではなかった。俺の言葉に彼女は疑問符を浮かべている。


 なんでもします、という彼女の言葉を聞いた俺の本能が、反射的に答えてしまったんだ。俺の、仲間を欲する心がそう問いかけてしまった。

 俺は数回深呼吸をしてから、改めて口を開いた。


「なんでもする、って簡単に言うけど。じゃあ質問させてくれ。ミーヤ、君は戦えるのか?」

「それ、は……」

 俺の問いかけに彼女は言葉を詰まらせた。その様子を確認しつつ、俺はホルスターからM1911A1を取り出す。


「バレットさん?」

 彼女を一瞥しつつ、俺はM1911A1からマガジンを抜き、スライドを引いて薬室に入っていた弾を抜き、セイフティを掛ける。念のためにな。

「ミーヤ、俺にはこの銃って言う武器を召喚する力があるんだ。そしてこの銃は、個人の格闘センスとか一切関係なくある程度の威力を発揮できる。俺にはこの銃って言う武器を君に用意してあげる事が出来る力がある。君だって練習すれば、銃を扱えるようになる」

「わ、私、が?」

「あぁ」


 俺は頷くと、M1911A1をテーブルの上に置いた。

「でも、ただ戦えるってだけじゃダメだ。冒険者になるのなら、覚悟がいる」

「覚悟?」

「そうだ。冒険者って言う職業は、まして魔物討伐とかをやろうって言うのなら、当然死ぬリスクは存在している。実際俺だってゴブリンと戦うだけだって、死を感じた事はあるくらいだからね。……それほどまでに、戦うって事は危険な行為なんだ。……でも、じゃあミーヤはそんな危険な行為をするだけの覚悟がある?戦場で戦うだけの覚悟がある?ほんの数日前まで、村娘だったのに?」

「………」


 ミーヤは俺の言葉に答えず、沈黙し俯いている。


 正直に言えば、彼女の提案はありがたいと思った。けれどここで彼女が俺と同じように戦うって事は、当然死のリスクを背負うって事だ。そうなったら覚悟無しで出来るもんじゃない。だからこそ、聞かなきゃいけない。

「世の中には、仕事なんてたくさんある。だからもっと探し続ける方が、賢明だと俺は思う。冒険者なんて危険だ。俺はそれを覚悟の上で冒険者なんてやってるけど。そうじゃないのなら、やめた方が良い」


 それが俺の言葉だった。だが……。

「仰ってる事は分かります。危険だという事も、いつも疲れた様子で帰ってくるバレットさんを見ていれば分かります。私なんかに出来るか?って思う自分も居ます。でも、それでも私は、今の私は……。『バレットさんを失いたくない』っ!」

「ッ!」


 俯いていた彼女が視線を上げた。そして今の彼女は、目尻に涙こそ貯めているが、強く何かを決意したような表情で俺を見つめていた。


「私は、本当にバレットさんに感謝しています。何度口でお礼を申しても、足りないくらい。あなたが、私を絶望の淵から救ってくれたんです。でも、だからこそ怖いっ。お父さんとお母さんたちが亡くなったように。今度はバレットさんが私の前からいなくなってしまうんじゃないか、って。そう思うと、居てもたってもいられないんです」

「……だから、戦うと?」


「はい。戦う事なんて、ろくに知らない私に何が出来るのかも分かりません。でもここにいると、いつも考えてしまうんです。バレットさんが私を助けてくれたように、私もバレットさんの助けになりたい。バレットさんの力になりたい。何より、またあんな悲しい別れを、経験したくないってっ!」

「ッ」

 彼女は今、大粒の涙を流していた。家族との理不尽な死別。確かにこれ以上の悲しい別れは無い。そんなもの、もう二度と経験したくないだろう。それは俺も分かる。


「バレットさんが戻って来るのを待ってる時間は、いつも怖かったです。もう戻ってこないんじゃないか。森で何かあったんじゃないかって。いつもいつも、恐怖と不安で胸が張り裂けそうでした。だから、だからこそっ!私をバレットさんの傍にいさせてくださいっ!」


 彼女は俺に歩み寄ってきて、そして俺に抱き着き、涙を流し始めた。『行かないで』と、『そばに居させて』と縋るように。

「もう、待ってるだけなんて、耐えられませんっ。いつも、恐怖と不安で押しつぶされそうでっ!お願いしますっ、傍に、傍に、いさせてください」


 彼女は泣きながら縋るように俺を見上げている。……家族との理不尽な死別を経験した彼女にとって、失う恐怖はこれ以上ないほど、大きいのだろう。


「……良いんですか?とても、危険ですよ?戦場で戦うというのは。いくら俺から武器を与えられたからと言って、生き抜ける保証は、無いんですよ?」

「はい。それでも、構いません。戦うのも、死ぬのも、怖くないって言ったら、嘘になるけど。でも、でも今はそれ以上に、バレットさんを失うのが、怖いんですっ」

 

 彼女はそう言って、俺に縋りつくようにしながらも、すすり泣いている。

「お願い、します。傍に、いさせてくださいっ。あなたの、傍にっ」

 ……正直、俺は悩んだ。どうするべきか。断固として拒否するべきか。ここまで言わせたのなら、受け入れるべきか。


 分からなかったからこそ、更に問いかけた。

「戦うのは、辛く苦しいですよ?時には痛い思いだってするかもしれません」

「それでも、構いません。今の私に、バレットさんを失う以上の恐怖なんて、ありませんから」


 涙で顔を濡らしながらも、俺を見上げる彼女の瞳には、確かな決意が見て取れた。……この決意があるのなら。俺はそう思った。そしてだからこそ俺は選んだ。

 彼女の意思を、決意を、尊重する道を。


「分かりました。なら、ミーヤ。頼みがある」

「え?」

「俺と一緒に、冒険者をやってくれ」

「ッ!良いん、ですか?」


 彼女は信じられない、と言わんばかりの表情で俺を見つめている。

「そりゃまぁ、女の子にあそこまで言われちゃぁねぇ。でも、これだけは言っておく。決して楽じゃないぞ?良いんだな?」

「ッ!はいっ!」


 俺が問いかけると、彼女は涙をぬぐい決意に満ちた表情で頷いた。どうやらどれだけ言っても彼女の決意は固いらしい。


「分かった。そんじゃまぁ、これだけは渡しておこうかな?」

「え?渡すって、何をですか?」

 小首をかしげるミーヤ。

「まぁ見てなって。≪メニューオープン≫」

 

 俺が起動ワードを告げると、ハンドガンチートのウィンドウが展開される。

「ッ!?そ、それってっ!?」

 お?どうやら彼女にもこれが見えるらしい。となれば、これを見る事が出来るのは俺だけ、って事は無さそうだな。まぁ今は良い。


 俺はリストを進み、とあるリボルバーを見つけ、それを召喚する。ウィンドウからあふれ出した光が収束し、一つのリボルバーとなる。


「受け取ってくれミーヤ。そいつはまぁ、俺の仲間になった証みたいなものかな?」

「これ、が?」

 俺はそれを手に取り、グリップの方をミーヤに差し出した。彼女は戸惑いながらも、そのリボルバーを受け取る。


「これ、って?」

 彼女はマジマジとリボルバーを見つめている。


「そいつは銃。俺の使ってるM1911A1と同じカテゴリの武器だ。それを渡すのが、俺の仲間である証って事さ」

「ッ。じゃあ、今日から私がっ」

「あぁ。俺の仲間だ」

 嬉しそうに笑みを浮かべる彼女に、俺も笑みを浮かべながら右手を差し出す。


「改めて、今日からよろしくな、ミーヤ」

「ッ!はいっ!」

 彼女はリボルバーを左手に持ち替え、笑みを浮かべながら俺と握手を交わした。


 窓から差し込む月明かりに照らされながら、俺たちは握手を交わして仲間となった。


 そして彼女の左手に握られたリボルバー、『S&W M34』が月明かりに照らされ、鈍く輝いていた。


 こうして俺は『最初の仲間First Fellow』とパーティーを結成するのだった。


     第7話 END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る