第7話 失敗勇者と神セクメトリー
あらあら、アイリスったら手が早い事。
流石に私でも、初日に夜這いを掛けるなんてこと出来ないわ。
一晩中護衛するというのは、実はそう言うことだったのかしら。
まあ、アイリス実際行動を起こすことは無いでしょうけどね。
あの子は、ちょっと異常な程勇者という存在を崇拝してますからね。
シクラ様の部屋に行ったらアイリスは見当たらないのに、服だけ見つけたときは本気で夜這いをしたのかと考えてしまいましたが――シクラ様とアイリスの反応からするとまだそう言ったことは行っていないようですし、今回はからかうだけで良しとしましょう。
それにしても、アイリスも少しは自分の事を考えられるといいのですけれど。
あの子意外とモテるのにもったいないわ。
byカトレア
バタバタした朝食を終えた後、昨日王子に許可をもらったスマホの充電をしようと応接室に行ってもいいかカトレアに確認してもらう。
本日は使用する予定が無いとの事で許可が下りたので絶賛充電中である。
俺がハンドルを回しているのを見ていたリリー達が、楽しそうとの事で俺の代わりに充電してくれている。
俺はコーヒーを飲みながら、アイリス達と昨日きけていなかった世界の話を色々聞いていた。
この世界は大まかには、七つの地域に分かれているらしい。
分かれている理由は簡単で、神様が七人居るそうでどの神を信仰しているかによって分かれているとのこと。
この辺りはセクメトリー様の地域になるそうだが。
他の地域とも隣接している事もあるし、なによりセクメトリー様は調和の神との事で勇者召喚がされるのがこの国だと言う。
セクメトリー様は第四神で、第一神――所謂主神と言われるのが何故か日本の神であるタケミカヅチ様との事。
同一神なのか只の同じ名前の神様なのかはアイリス達ではわからないとの事だが、勇者様達はセクメトリー様の後必ずタケミカヅチ様の所に行くとの事だ。
タケミカヅチ様は主神であり、尚且つ正義と軍事を司る神との事だから必ず拝謁に行くそうだ。
うろ覚えだが、たしか日本でもそのような神様だった気がする。
どのみち俺が会うことはない神様なので、どちらでも良いんだけどね。
アイリス達と色々話していると、ドアがノックされ来客が来た。
来客は昨日召喚について説明してもらった大臣達と司祭だ。
しかし――なにか二人とも様子がおかしい、何か焦っているような感じがする。
「シクラ様、ご歓談中申し訳ありません。火急の要件の為先触れも出さずに訪問した事、ご無礼をお許しください」
司祭がそう言いながら頭を下げて、メイド達を大臣が下がらせる。
アイリス達も何事かと心配そうにしていたが、大臣の指示通りに部屋から出て行く。
「先程明日のシクラ様の拝謁の為にセクメトリー様にご報告をしたのですが……明日ではなく今からシクラ様を連れてきて欲しいと申されまして……」
「予定とかは無いので問題はないですけど、何かあったんですか?」
神様直々のお呼び出しが合ったなら行くしかないが、そもそも準備が居ると言われていたのに急遽今日と言うのはどうなんだろう。
「私ではセクメトリー様のお言葉が、断片しか分からないものですので詳しく分からないのですが。」
司祭のシュレルさんが聞き取れたのが、『ゆうしゃ』『き』『ふか』『すみ』『くる』だそうだ。
勇者と来るしか分からないが、セクメトリー様が呼んでいる事がわかった為急ぎ来訪したんだと。
しかも既に別の人から国王にも報告してあり、馬車を準備している最中との事。
教会の方では既に簡易的な拝謁の準備はしてあるとの事で、大臣と司祭と共に向かう事になった。
――まあ断ることはできないしね。
教会に向かうのは、大臣と司祭そして俺と護衛としてアイリスと騎士団数名になった。
初めて城の外に出たが、馬車のカーテンは閉められており街の様子をうかがうことが出来なくて残念だ。
馬車は意外にも揺れは酷くないが、流石に車に慣れている俺ではかなりきつかった。
馬車が止まり教会に付いたようで、降りて周りを見渡すと塀で囲まれた裏口のような場所だった。
司祭の先導で室内に入り、石でできた重厚な通路を歩いていく。
「これより先は聖堂になりますので、騎士団の方はここでお待ちください。大臣殿とシクラ様、それにアイリス様はこちらへ」
ここから先は、儀式をする聖堂という場所との事で護衛はまでのようだ。司祭が扉を開けて、中へ入るよう先導する。
聖堂はそれ程広くはないが、天井は高く正面には巨大な壁画があった。
恐らく神セクメトリー様の絵だとおもわれる、金髪の神々しく美しい女性の壁画が描かれている。
部屋は窓がないのに魔法の光か何かでほのかに明るく、埃臭い感じはせず清浄な空気が漂っている。
「シクラ様こちらへ。私がセクメトリー様を及び致しますので、シクラ様はそのままでお待ちください」
司祭は俺を部屋の中心の所で待たせ、俺の数歩前の所で跪いて祈りを捧げるような仕草をする。
大臣とアイリスも司祭同様に、俺の後ろで同じように跪いているようだ。
「主よ。我らが神セクメトリー様よ、我らの呼び声にお答えください」
司祭の言葉が聖堂内に響く。
部屋を照らしていた光が消え、天井から淡い光が壁画を照らしどこからか声がする。
「ようこそ勇者よ。私はセクメトリー。世界の第四神にして調和の女神。此度は急な呼び出しに応じて頂き感謝します」
「初めまして、俺は志倉十誠と言います」
神様相手にどう対応していいかわからないため、一応名前を名乗りお辞儀をしてみる。
「そう畏まらなくて良いわ、この度はこちらの不手際でシクラには迷惑をかけたわね。さて、今回呼び出した件ですが。シクラ、あなたが元の世界帰るのが難しいわ」
「――え?」
明日には元の世界に帰れると言われていたのに、急に神様から帰れないと言われ、俺の思考が固まってしまった。
「か、帰れないのですか! 勝手に呼び出しておいて、帰る手段が無いとかおかしくないですか! 」
帰れると思っていたのに帰れない告げられ、相手が神と言う事を忘れて叫んでしまう。
「落ち着きなさい、私は帰れないとは言っていないわ。帰るのが難しいと言っただけです。ですからまずは話を聞きなさい。あなたは今回の召喚について、あなたはどこまで理解していますか?」
神に諭されて何とか落ち着くが、体が震えて止まらない。
震えた声で、昨日聞いた内容を神に話す。
勇者召喚の際に一人しか召喚されず、一人で魔王討伐してしまったこと。
失敗したと思われた召喚が成功しており、俺が数年経った後に召喚された事。
司祭達に神様が元の世界に帰してくれると聞いていたこと。
「そうですか……まあ勇者以外に私の声は聞き取りずらいですから、正しく伝わっていないのでしょうね。まずはあなたの置かれている状況説明致しましょう。勇者召喚とは神々の力を使い、異世界から勇者になり得る者を召喚する儀式。神でもそうそう行えるものではないのです。帰還にもそれ相応の力が必要となり、今あなたに帰還を行える程の力が私には残っていないのです」
「今はと仰いましたが、どの位で力は溜まるものなのでしょうか。」
焦りを感じながらも、セクメトリー様の言葉から直ぐに戻ることは難しいが時間があれば出来ると言うニュアンスを受け取り、ちょっと落ち着きを取り戻す。
「今の状態ですと、数十年から長くて百年程かかるでしょうね。『今の私では』と言うことになりますが。勇者の召喚や帰還が、それ程行えないと言うことは分かりますね」
俺は頷くことしかできなかったが――先程のポジティブイメージが
消え去った。
早く数十年、遅ければ百年って俺もう帰れない様なものだよな。
だけど、前の勇者は魔王討伐して直ぐに帰還しているのはなぜなのだろう。
毎回力が溜まりきってから魔王が現れる訳は無いだろうし、勇者が魔王を討伐する事に何か意味があるのだろうか。
俺が考えていると、セクメトリー様はクスクス笑いだす――いやいやこっちは真剣なんですけど。
「あなたが考えていることは間違っていませんよ。あなたは神の力とは何かわかりますか」
「えーと、良くある人々の信仰心とかですか」
神様と言えな信仰心。
そして、それを糧に階位を上げて神としての位を上げるって感じが俺のイメージだ。
そして、そのイメージは間違っていない様だった。
「ええ、そうれもあります。神々の力は、人々の信仰心の塊。私への信仰心が力となり神の奇跡を起こすことが出来るのですが、それ以外にもう一つあります。それは、この世界の外側からやって来た者の力です。勇者が召喚される主な目的は魔王討伐です。魔王――悪魔達の王はこの世界の外側からやって来て、この世界の人々の魂を駆り集める存在。その魔王が倒されると、魔王が持つ力が世界に拡散されます。その力を神々が集め、勇者が帰還する為の力にするのです。しかしながら、あなたの場合は倒すべき魔王が存在しません、そのため帰還に必要な力が私には存在しないのです」
「二人の帰還じゃなくて、一人だったのに力が足りないのですか。」
「一人でも二人でもさほど大差はないのですよ。人数ではなく世界同士を繋ぐ事に力が必要になるのです。そして、魔王がこの世界にやって来たと言うことは、世界を守る殻に綻びが生じている状態であり、それを修復する事が最重要になるのです。その修復の為、今の私ではあなたを元の世界に帰す力が足りないのです」
何となくわかってきた。
前回の勇者も俺と同じ世界から来た人なのだろう。
そしてそれを帰還の為に既に魔王から得た力を使い果たし、今は世界を守る力に全て回していて余剰が無いというのだろう。
それにしても、神様が魔王の力を使うってどうなんだよ。
「それで、俺が帰れるのは神様達の力が戻る数十年後しか帰れないって事ですか」
理屈としては理解したが、それ以上に俺が帰還できるそれを知りたいんだよね。
「今のままではそうなります……但し私の力を早く溜める方法があるのは分かっていますか?」
ふむ、さっき話していたことが合っているのであれば――集める方法は無いわけではない。
「信仰心を集めればいいのですか?」
「そうです。神々への信仰心が多くなればなるほど、世界を守る殻の修復が早く終わり、あなたが早く帰れるようになるのです。ただ、信仰心強い者が多い今以上に多くの信仰心を集めるのは至難の業です。そのためあなたには二つの道があります。このままこの世界の住人として暮らしていくか、険しい道を進み元の世界に戻るために動くかです。あなたがどちらを選んだとしても、私が出来うる助けをあなたにしたいと思います。この世界の住人として暮らしていくのであれば、元の世界程ではないですが、普通以上の良い生活ができるよう支援させて頂きます。もし信仰心を集めるために動くのであれば、真の勇者程ではないですがあなたに加護を授けさせて頂きます」
この世界の人として暮らせば、それなりの生活が約束されると。
但し、元の世界には帰れない。
帰るために信仰心を集めようとすると、加護はくれるけどいつまでかかるかわからないか。
実際、元の世界に帰りたい気持ちは強い。
一応友達もいるし、家族もいる、それに……この世界ではアニメやゲームなどの娯楽が無い。
でも――元の世界に戻ってもこれから就職が上手くいかずフリーターになったり、ニートになったりする可能性もある中で、この世界なら人並み以上の生活が送れるか。
この世界で俺って家族作ったりするのは――難しそうだよな。
常識も違うし身分も無い、この世界で生きるすべ自体も持っていないわけだし。
生活が保障されているとはいえ、一人で娯楽もなくヒキニートとかつらすぎるよ。
「今すぐ決める必要はありませんよ、数日考えてまた私を訪ねて来なさい。あなたの元の世界は、文化や技術が発達していますし、家族が居る為戻りたい気持ちがあるのは分かります。ただ、あなたならこの世界で家族を作るのは難しくありませんよ」
「え? 俺は元の世界では一度も彼女とか出来たことないから無理だと思いますよ」
普通に考えたらオタクである俺に彼女が出来るとは思えないし、実際この年齢まで彼女居ないしできる事が想像できない。
見た目も別段良いわけではないし、話が面白いわけではないし……どう考えたらできるとおもうんだ。
「まあいいでしょう。シクラ、アイリスに触れてもらえますか。アイリスと少し話したいことがありますので」
何かよくわからんけど、あんまりいい予感はしないな。
だけど、流石に神様に指示されてそれを無視するのは――ちょっと怖い。
「あの――アイリス。セクメトリー様がアイリスに聞きたいことがあるみたいなんだけど、俺がアイリスを触れって言われたんだけど……大丈夫?」
「わかりました、どこでもどうぞお触り下さい。」
おい、どこでもどうぞってどうなんだよ。
俺が変なところ触ったらどうするつもりなんだ?……まあ流石に変なところを触ったりしたらセクメトリー様に怒られそうだしそんな度胸もないし……頭とかで良いのかな。
「頭でも肩でも大丈夫ですよ、あなたと接触していることが重要ですから」
なんか頭の中読まれてて嫌な気分だな、とりあえず頭にしよう。
十誠手を置いたアイリスの頭は、アイリスのさらさらした髪が手にあたり昨日の夜と今朝の事を少し思い出してしまう――何とか平静を保つよう努力する。
「セクメトリー様、これでいいですか?」
平静を保ちながら何とかそう答えるが、多分思考が本当に読めるのか少し楽しそうな返事が返ってくる。
「あらあら――それで大丈夫ですよ。それではアイリス、私の声が聞こえますね」
「はい、セクメトリー様。お声を聴かせていただき光栄です」
セクメトリー様とアイリスが会話をすると、十誠は不思議な感覚に襲われる。
神の声はそのままだが、アイリスの声とは別にアイリスの考えていることが伝わってきていた。
アイリスは返事をした際の考えは、「セクメトリー様にお声をかけて頂いけて名前まで呼んで頂けた、直接声をかけて頂けて声まで聞こえるなんてなんて光栄な事なのでしょう」と、声に出したことと考えたことが二重に聞こえ来るのだ。
これって……本当に大丈夫なのか?
すっごく不安なんですけども……。
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