第11話 失敗勇者と王都キザオカの街~後編~
少し前に、ミモザが腕を失う程の怪我をした。
少し厄介な仕事だったが、そこまでの魔物が居るとは思っていなかったのが悪かった。
最近少し気が弛んでいたんだろう、簡単な遺跡調査だからと言ってももう少し緊張感を持たないといけなかった。
とは言え、あれ程の敵に対して死人が出なったのは不幸中の幸いだ。
過去の大戦時に戦闘したことはあったが、自分たちで討伐したことは今回が初めてだな。
依頼の報酬だけでは完全に赤字になってしまったが、ミモザの腕を治す魔道具は手に入ったので良しとしよう。
あのボウズが居なければ、手に入れることが出来なかった。
感謝してもしきれないな。
それにしてもあのボウズは何者だ、変な魔道具持っているわ――女の子ふたりもはべらせてるわ……一人は恐らく大戦の頃に合ったあいつだろう。
髪色や立ち振る舞いから貴族のボンボンか何かだろうが、やはりイオリゲン王国の貴族は他国と比べてマシな奴が多いな。
by獣人冒険者
「いやー流石シクラ様、なかなか面白いものが見られましたよ」
店の外には衛兵と一緒に来ていた騎士団員とダイアンがおり、騎士団員に賛辞のを頂いた。
実際にはいきなり面倒を起こして面白奴だなって思われている様だが……。
実はあの店主前々から問題が多い人だったらしく、毎度毎度逃げられていたそうだ。
しかもそこそこの貴族と懇意で、証拠がないといつも逃げられてしまっていたらしい。
それに今回はいつもの冒険者とは違い、俺が証人で証拠もあるので逃げることは出来ないし、貴族でもかばう事は出来ないだろうとの事。
そして、今回揉め事の原因となった魔道具だが、証拠として衛兵が持ち帰っており、数日後には正式な金額を払えば冒険者の物になるとの事だ。
アイリスからその事を冒険者達に告げてもらい場を離れようとしたのだが、今回の騒動の詫びとお礼を兼ねて俺たちを酒場へ強引に誘って来た。
アイリス達は断ろうとしていたが、俺が良いんじゃないかといったら呆れ方顔をしながらも「しかたありませんね」と言って引き下がった。
「さあさあ、三人とも好きなだけ飲み食いしてくだせえ。三人のおかげで目的の魔道具が手に入る事だし、恩人には礼をしないといかんからな」
「あ、ありがとうございます。でも大丈夫なんですか、魔道具の支払いの金額はかなり高いそうですけど」
「全然問題ないぞ、あの強欲店主はいつもああやって値上げしてくるもんだから、通常の料金より割増しで持っていたからな。今回は元の金額の倍額を吹っかけてきたもんだから、俺達もどうしてもあの魔道具が必要だったから喧嘩になっちまって」
「へー、それってどんな効果がある魔道具なんです」
「ん、まあいいか。ちょっといいか、あの魔道具はな……」
冒険者はそう言いながら、俺の肩に腕を回し小さな声で言った。
「ダンジョンの深い部分で発見された特別な魔道具でな、その効果も併せて金額は金貨百枚だ。俺たちの仲間で一人ドジを踏んで腕をなくした奴がいてな、あの魔道具は一度限りしか使えないが――腕が治るんだ」
腕が治るとは、再生医療もびっくりな効果だ……魔法がある世界では良くありそうなんだけどね。
でもパーティーメンバーの為とは言え、金貨百枚なんて大金を出すなんてすごいな。
「そんな魔道具があるんですか、凄いですね」
「まあだからこそ、どこかから情報を仕入れて高額で売れると思ったんだろうな。まあ、今回はボウズのおかげで助かったがな。っとおーい、ミモザこちに来いよ」
ミモザと呼ばれた人がこちらへ歩いてくる。
猫耳と尻尾のついた獣人で、スタイル抜群の猫耳獣人だ。
ただしその右腕は二の腕あたりからなくなって包帯をまいてあり、この人が件の人なのだろう。
「なにやら騒がしいわねハル。こんな騒ぎしているって事は、魔道具は買えたの?」
「おう! このボウズがあのくそ店主から、魔道具を買うのを手伝ってくれたんだぜ。しかも、あのくそ店主も衛兵に取っ捕まえてくれたんだぜ」
「へーそうなの。ありがとう。あたしはミモザ。ん? ……そっちに居るのはアイリスじゃないの、ひさしぶりね! 」
「おひさしぶりですミモザさん、魔王討伐依頼ですね」
「あれ、アイリスの知り合い? 」
「ええ、前の勇者様と魔王を討伐した一団に居た人です」
予想通りアイリスの知り合いだったようだが。
ミモザさんはアイリスと一緒に魔王討伐に参加した人らしい。
勇者が魔王と戦えるように、ミモザさん達冒険者の人達が魔物を抑える役割をしていたんだと。
流石に魔王の一団と戦うのに勇者のパーティーのみでは戦えないので、結構な数の騎士団や冒険者が参加していたとの事だ。
「へー嬢ちゃんがあのアイリスか」
「なにか?」
「いやなに、噂によるとかなりの勇者ファンって事だったから、どんな娘さんなのかと思ってな」
「そうですか。勇者様は感謝していますし、尊敬もしていますが、あの方は帰られてしまいましたし」
ハルの言葉をアイリスは気にしていない様だが、ミモザは違和感を感じて肘打ちをする。
同じパーティなのにハルはあまりアイリスの事を知らない様だ。
「ま、今日は助かった。好きなだけ飲み食いしてくれ。そう言えば、他の二人はどこに行ったんだ」
「あの二人は、あの子の所に行っていわよ。私はこの腕だから――心配させちゃうから行かなかったけど。たぶんそろそろ戻って来るわよ」
珍しい食べ物を食べながら酸っぱいエールで乾杯して、ハルさん達の冒険を聞きながら騒いていた。
大味な鳥みたいな味のする串焼きや、香草を効かせた少し硬めの肉など、様々な食べ物を味わった。
どれもこれも食べたことのない味だったけ、それなりに美味しい物ばかりだった。
どれだけ現代の食生活が恵まれていたか、こういったところに来るとよくわかる。
ハルさん達は四人のパーティーで、冒険者としてはかなり長くやっているそうだ。
ハルさんの名前はハルレクターで、長いからハルって呼んでいるそうだ。
他の国々を周りながら、ダンジョンや遺跡発掘の護衛、魔物の退治など色々と手広くやっている。
毎年、この時期にはこの国に寄って知り合いに顔を出しに来ているが、今はミモザさんが腕を負傷したこともあり、魔道具探しに来たついで少し早めに来たらしい。
「おう!ハルにミモザ! もう先に始めてるのか」
「トラオウにアルル、帰って来たのか。まあこっちに座れよ」
白黒模様の虎の獣人と、とある部分はスレンダーな女性がハルさんに呼ばれて席に着く。
見た感じ獣人の方はがっしりとした体系なので前衛で、もう一人の女性は線の細さから魔法を使う感じだろう。
「ボウズはシクラっていうのか、迷惑かけて悪かったな。俺達は冒険者だから出来ることは少ないが、何かあったら言ってくれ」
「わかりました。その時はよろしくお願いします」
トラオウさん達も合流して、楽しい宴会が再開された。
様々な国々の美味しい食べ物、ここらじゃ見られない絶景、危険な魔物達との戦闘、たぶんトラオウさん達の鉄板ネタと思われる面白い話をたくさん聞けた。
俺はトラオウさん達と何度も乾杯をしながら、お酒とおつまみを飲み食いしまくっていたが、アイリスとダイアンは仕事中と言う事で、お酒は飲まず色々な食べ物をちびちび食べていた。
トラオウさん達はアイリスの事を知っているみたいだけど、彼女の態度からあまり話しかけない様にしている。
それに――俺に対しても何者なのかとか一切聞いて来ず、結構気を使ってくれている様だ。
魔王討伐に参加しているだけあって、本当にやり手の冒険者って感じがした。
それにしても、これだけ酒を飲んだのに多少の酩酊感はあるが、そこまで酔った感じがしなくて不思議だが、まあ異世界だからなで済ませてしまって、大変なことになるのはまだ先の事だった。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、いつの間にか日が沈みかかって来ていた為、宴会は終了となった。
どんちゃん騒ぎをしたのは、この世界に来て初めてだったのでとても楽しい一日だった。
トラオウさん達は十日ほど街に滞在する予定との事だが、俺はまた訓練の日々だと思うので会えないだろうな。
「シクラ様、本日はあまり周れませんでしたがよろしかったのですか」
「良いんじゃない、また次に行けるときに行けばいいさ。それに、こんな一日が在っても良いんじゃないか」
「それなら良いのですが……」
アイリスは少し何か言いたげだったが、それ以上何も言わなかった。
教会から城に馬車で帰り、久しぶりの休日は終わりを告げた。
翌日から地獄の訓練は複数人と戦うものにランクアップされ、騎士団員にぼこぼこにされてヒューズさんにお叱りを受けた。
あれから五日後――ヒューズさんはまだ来ていなかったが、いつもどおり騎士団員と訓練していると練兵場の隅に見たことがある一団が入って来た。
その一団は、数日前に宴会をしたトラオウさん達だった。
一直線に俺の方に向かって来ることから、多分俺に対して用事があるのだろう。
「おう、ボウズ数日ぶりだな。なかなかハードな特訓してるな」
「トラオウさん、良く俺がここに居ることがわかりましたね」
「この間の騒ぎの時に居た騎士に聞いたら、ここに居るって聞いてな」
「シークーラ君、ありがとう! おかげて腕もこの通り治ったよ! 」
「うわわわ!」
トラオウさんの陰から出てきたミモザさんに思いっきり飛び付かれて、ドスンと言う音がする勢いで抱き合う感じで押し倒され、猫が頭をこすりつけるように俺の顔に何度も頬をこすりつけてくる。
耳と尻尾以外は普通の美人のお姉さんに飛びつかれて嬉しいんだけど、今までこんなことをされて事も無いし、周りに大勢の騎士団員達が居る状況でされて、俺は顔を真っ赤にしてどうしていいか困ってしまう。
すると急にミモザさんの感触が消え、ミモザさんも俺の目の前から消えた。
「あらあらミモザさん、シクラ様に何をなされているのですか。シクラ様に感謝をするのは当然ですが、今の行為はいささか行き過ぎではありませんか?」
顔は笑顔なのだが――目が全く笑っていないアイリスさんは、体に赤い靄を纏いながらミモザさんを片手で持ち上げて文句を言っている。
恐らく身体強化を使ったのだと思うのだけど、人を片手で持ち上げられるのは凄いなと感心していたら。
「シクラ様も抱き付かれて、何をまんざらでもなさそうな感じなのですか。時と場合を考えて行動して下いね?」
「「ごめんなさい!!」」
俺達の状況を見ていた騎士団にも、アイリスは噛みついた。
「あなた達もなんですか、ミモザが暗殺者だった場合笑っていられるのですか。魔王の脅威は去ったとはいえ、まだ魔物の被害はありますし、魔王の配下たちがすべて倒されたわけではないのですよ。あなた達はこの国を守る騎士団ですが、要人の守護もあなた達の仕事でしょう。もう少し日々に緊張感を頂きたいと思うのですが、いかがでしょうかね」
騎士団員がガクガクと頭を振っている様子は少し面白かったが、ここで何か言うと藪蛇になりそうなので控えることにした。
「あん?お前ら何してるんだ。訓練はどうした訓練は。それに、お前らは白金の白虎のパーティが何故ここに居る。そしてアイリス、その腕に捕まえているのはなんだ」
状況が全く分からずに来たヒューズさんは、なんだこの状況みたいな顔をしながら近づいてくる。
ヒューズさんに、今の状況を説明する。
「なるほどな。とりあえずアイリス、そいつをそろそろ離してやれ」
「忘れていました、申し訳ございません」
いや忘れる訳は無いはずなのだが、アイリスはしれっと返事をしてミモザを離した。
アイリスがミモザさんを離すとヒューズさんは、騎士団員に説教を始めた……そして全員に拳骨をプレゼントしていた。
「ふむ……シクラ殿と白虎は知り合いか――ちょうどいいかもしれんな。シクラ殿、それと白虎達、ちょっとこっちに来てくれ。そしてお前らは、さっさと訓練を始めないか! 」
ヒューズさんに叱責され、騎士団員は訓練に戻った。
呼ばれた俺達は練兵場の一室に一同入って行く。
部屋の中は長机と椅子があるだけの質素な部屋だで、ヒューズさんに言われて各々席に着く。
長机の端っこに立つヒューズ、その右手側に白虎の人達、左手側は俺とアイリスが座る。
「それにしてもトラオウ、久しぶりだな。魔王討伐の謁見以来か」
「そうだなヒューズ、いや騎士団長殿とお呼びした方が良いかな」
「やめてくれ。腕はお前の方が立つんだ、ヒューズで構わん」
二人はニヤリと笑い合った。
この二人は意外と仲が良いのか、お互いに呼び捨てで呼び合っている。
「それでなトラオウ、お前さん達今仕事の予定は入っているのか」
「いや、特に何も受けては居ないが何か仕事か」
「ああ、それなりに腕の立つ冒険者を探していてな」
「内容次第だ、あまり危険な依頼は今は難しい」
「そこまで難しい仕事じゃないさ。まずは、近場の森に行ってシクラ殿が魔物達と戦えるか試してほしい」
そうか、旅をするには魔物との戦闘もあるわけだし、教官としてトラオウさん達がついて来るわけか。
うまく戦えるかわからないけど、練習しなければ何事も出来ないからな。
「近場だとマヤシカの森辺りか。ただあの辺りは、弱い魔物しか居ないが良いのか?」
「魔物の討伐自体が目的ではなくてな、一週間野営しながら討伐もする訓練をしたいと思ってな」
ヒューズさんは俺に対して、含みのある様な笑顔を向ける。
恐らくトラオウさん達と一緒に森を探索し、探索、野営、魔物の倒し方などを教えてもらえって事だろう。
でも一週間も森の中とか、結構ハードそうだな。
「それくらいなら問題ないが、ボウズは剣か魔法かどちらなんだ」
「……剣だ。技は訓練中だが、力と体力なら俺よりもあるだろう」
トラオウさんは、目を丸くしてヒューズさんと俺を見た。
ヒューズさんと違い、俺は見た感じ筋肉モリモリマッチョマンって感じではないし、たぶん見習いの騎士位に思っていたんだろうな。
騎士団員って、みんな筋肉ダルマだし。
「ま、ヒューズがそこまで評価しているなら問題なさそうだな。依頼料はいくらだ」
「野営装備や食料はこちらで支給で、一人金貨一枚でどうだ」
「いいぜ、その依頼うけたぜ。いつから行くんだ」
「今晩からだ」
「マジか!」
いきなりの状況に付いて行けない俺をしり目に、にやりと笑い合うヒューズさんとトラオウさんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます