第3話 失敗勇者と異世界
執事の後に付いて行き、部屋に案内をされる。
後ろからは、さっきの部屋に居たメイド達も付いて来ているようだ。
部屋に向かう途中ですれ違う人たちが皆頭を下げるものだから、こちらも頭を下げたら驚いた顔をされた。
どこかの国の偉い人とでも間違えられたのかな……でも服装はバイト帰りのTシャツにジーパンという普通の恰好なんだけどな。
「こちらがお部屋になります」
さっきの部屋から結構――体感五分程歩き、場所的に最上階の角部屋と思われる部屋に案内された。
案内をしてくれている執事が扉を開け、中に入るよう促された俺は「ども~」と言った感じで部屋に入る。
「す、すげー。まじでこの部屋に泊まっていいの」
「はい、国王陛下よりこの部屋へ案内するよう承っております」
語彙力の無い俺の言葉に丁寧に返事をしてくれる執事さん。
部屋の中は現実世界ではテレビでしか見たことがない豪華な部屋だったから、突然の驚きで語彙力を紛失したのさ……たぶん。
それはさておき、部屋のサイズは俺の部屋の十倍くらいあるんじゃないかこれ。
俺は普通の一般家庭なので、部屋は六畳ほどの広さだった。
予想外の部屋の広さ――それに想定以上の豪華さで驚きを隠せない。
部屋でまず目につくのは天蓋付きの巨大なベッド。
そもそも天蓋付きのベットとかファンタジー物のアニメとかでしか見たこと無いし、大きさも作画崩壊したアニメみたいな大きさなんだが。
それに、執務を行うような重厚な机は俺が使う事はなさそうだし、豪華なダイニングテーブルとさっきの部屋にもあったようなソファーとテーブル――どこのスイートルームだよって感じの家具が揃っている。
部屋の一部にちょっと変わった感じでカーテンが引かれている場所があり、そこは壁が鏡になってて化粧台のようなものも置いてある。
「そちらは、お召し物を着替えて頂く場所になります。そちらの扉を開けて頂きますと、そちらにいくつかありますので、会食の前にはそちらのものに着替えて頂きたく存じます」
扉の中は、いくつあるかわからないほど服が並んでいる。
男性用女性用どちらもあるようだ。
――ふむ、これはもしや高貴な方向けの宿泊場所なのではないか?
ここが王城であれば他国の王侯貴族が宿泊する場所があるはずだしね……ってそんな部屋借りていいのか?
まあ、向こうから割り当てて来たのだから問題は無いと思うけど……うん、下手に物を触らないようにしようそうしよう。
汚したりしたら大変そうなので、衣裳部屋を覗くのをやめて窓の方を見てみるとそこからは街が見えた。
全体は見ることができないが、窓から見える街はかなりの広さであった。
ファンタジーによくある、石壁でできた家や道路は街中は石畳で舗装されており、人や馬車が行きかっている。
街のはずれには城壁が連なっており、すっぽりと街全体を覆っているようだ。
「すげー、こんな景色初めて見た。流石異世界って感じだ!」
「お気に召されましたでしょうか」
「感動した、これを見れただけでもこの世界に召喚されてよかったと思うよ」
「ありがとうございます。まずは、この後のご予定をご説明させていただきます」
執事から説明された予定は、夜七時頃から会食になり会食までの時間は部屋に居てほしいとのこと。
今の時間は二時過ぎとのことで、時間もあるのでとテラスでお茶と軽めのものを食べると良いと勧められた。
ただし、テラスに出る際は服を着替えてから出てほしいとのこと。
何かのきっかけで、ばれるといけないからね。
「皆、こちらへ」
執事がそう言うと、メイド達が執事の横に並び、そろってお辞儀をしてくる。
「この者たちが、勇者様の帰還までお世話させていただく者たちになります」
「初めまして勇者様。私達一同が勇者様のお世話をさせていただきます。なんなりと御用を申し付け下さい」
「私はこれにて失礼させていただきますが、何かございましたらこの者達にお言いつけください」
「あ、はい。わかりました……」
そう言って、執事は部屋を退出していった。
残ったのは、俺とメイド達……何この状況。
男女比一対五とか、今までに生きてきた中でこんな状況に陥ったことがない。
どうしよう、というかどうしたらいいんだこの状況……。
「え、えーと、とりあえず、お、俺の名前は志倉 十誠と言います。志倉でも十誠でも好きに呼んでくださいね。それで――ええっと、皆さんの名前は何になるのでしょうか」
なんとか話題を絞り出すが、言葉遣いが意味不明だ。
だってこんな事になったこと無いんだよ!
ラノベのハーレム主人公みたいに、俺はあんな鋼鉄の心臓を持ってねぇよ!
「私はカトレアと申します。そう緊張なさらずに、私たちはシクラ様の為に居るメイドなのですから」
「えっと……どうゆうこと?」
「私たちは、過去の召喚された勇者様が、言いつけられたことになるのですが。勇者様達の側仕えは、勇者様の外見に近いものにせよと。見慣れた顔つきのほうが、新たに現れる勇者様も安心されるだろうから、との事でして。そのため、側仕えになる物は勇者様の血を引いた者たちになります」
「勇者の血を引いてるって、子孫ってことなんだよね。なるほど、それで皆日本人顔なの……か?」
一応皆日本人っぽく見えなくも無いけど、どちらかと言うと西洋人とのハーフの様に顔が整ってて微妙に違和感がある。
あ、でも、さっき俺にコーヒーを淹れてくれた子は超絶美少女って感じの日本人顔だな。
「左様でございます。私共は、いつ勇者様がお越しになられても良い様に、集められた者たちになります。シクラ様にお仕えができる私達は、皆から羨ましがられる位なのですよ」
「でもそうだよな、見慣れた顔のほうがやっぱり落ち着くしね。」
本当は微妙に違和感があるが、それでも日本に居た頃もハーフの人とか普通に居たからそこまで酷い違和感はないかな?
「勇者の血を引く人って、この世界には結構いるのかな」
「血だけ引いた者だけであれば、それなりに人数はいるかと思います。ただ、外見が似ているものはそれほど多くないかと」
「この世界って、国王様みたいな外見の人が多い感じなのかな」
「一般的には、国王様の様な外見が主になりますが、他にも色々な
「そうなんだ、他の人種も帰るまでに会ってみたいな」
メイドは、
と言う事は――だ、エルフとかドワーフなどの種族や獣人種とかも居るかも知れないし、ぜひとも会ってみたい。
「一度確認して参ります、なにぶん私共では判断が出来かねますので」
「あ、無理そうなら全然良いからね! 変にうわさが立って迷惑をかけてもいけないからさ」
「畏まりました、アイリスお願いしても良いかしら」
「わかりました、では行って参ります」
アイリスと呼ばれた子が、伝達に行くようだ。
ちなみに、アイリスと呼ばれた子がさっきの部屋でコーヒーを入れてくれた可愛い子だ。
女性に淹れてもらうコーヒーは美味しいが、美少女に淹れて貰えば気分的には更に美味しい。
「カトレアさんに、さっきの子がアイリスさんね。そう言えば、ほかの子の名前聞いてもいいかな」
さっき、自己紹介の途中で違うこと聞いちゃたから自己紹介が終わってないんだよね。
まあ数日だから実際は聞かなくてもいいんだど、名前がわかった方が良いだろうしね。
メイド達は年齢順に自己紹介をしていく。
一番年上の今回のまとめ役のカトレアで年齢は二十二歳。
身長も高く、スタイルも良い色っぽい女性だ。
二人目は名前はアネモニで、年齢は十九歳。
身長は高めだが、カトレアよりも少し低い。
見た目は美人系でだが、性格はおしとやかなようだ。
三人目はさっき出ていったアイリス、年齢は十七歳。
見た目は可愛い……というか、今まで生きてきた中で一番のタイプの子だ。
四人目はダイアンで、年齢は十五歳。
今はメイドなので、おとなしくしているが結構おてんばらしいとカトレアが暴露していた。
性格と同じく、見た目も元気系だ。
最後が、リリーという女の子だ。年齢は十二歳でまだかなり子供っぽい、というか子供って感じだ。
年齢や容姿がばらけていることを聞いたら、召喚される勇者は肉体が最高潮の頃に戻されるかららしい。
俺みたいにそもそも若い場合はそのままだが、過去には召喚前は老人だった人もいるらしい。
普通は二十台後半から十代前半位とのこと。
それに、勇者の好みがあるので色々な年齢容姿の者を側仕えにするらしい。
いやまじで、ほんと至れり尽くせりだな。
そりゃあ自分の好みの子に言われたら、頑張って世界を救おうと思うわ。
後多分――これは血を残してくれれば万々歳って事も含まれるんだろうな……。
ちなみに勇者が女性の場合は、イケメン執事とメイドをそれぞれ連れていき、その中から勇者が何名か選ぶらしい。
過去の経験から、男性の場合は側仕えは殆どが女性を指名するからいいが、女性勇者の場合側仕えが男性だと落ち着かない人が多いから選べるそうだ。
自己紹介をしてもらった後、少し小腹が空いていたので着替えをしてテラスで軽食でも食べようとしたら。
着替えを手伝おうとされて、頑張って固辞したのだが……着替え方がわからなくて結局手伝ってもらった。
ズボンとシャツは自分で着たからな。
着替え終えたころ、アイリスが戻ってきた。
帰還する予定日――神殿に行く前に街を周る許可が取れたとのこと。
この国では、日本人顔の人がいてもそこまで気にされないとの事でよっぽど大丈夫だそうだ。
それに一般人には勇者が召喚された事は公開されていないので、一日であればどこかの貴族と勝手に勘違いするからとの事。
着替え終えた俺はテラスで紅茶とサンドイッチを食べながら、この世界のことをいろいろ聞いてみた。
ちなみに、今俺の側に控えているのはカトレアだ。
「そうですね、まずシクラ様には召喚された勇者様に、この世界を理解していただく際にさせていただいてるお話を致しますね」
この国には過去の勇者が、新たに来た勇者に説明するための事柄を、書き溜めたものがあるらしい。
簡単に説明すると……おおよそ、中世ヨーロッパ位の文明との事。
科学はそこまで発達しておらず、変わりに魔法が主流との事。
そこはよくあるファンタジーと同じなのだが、一部の国では科学を進めている国もあるらしい――が、この国から遠いため詳しくは分からないとの事。
過去に訪れた勇者がなにかしら残していったのかもしれないが、戦争など起こさず科学研究者の集まりの国との事。
人間種以外の種族もかなり居るらしく、勇者達に有名なのはエルフやドワーフ等の妖精種。
見た目が人とあまり変わらないが、動物の耳や尾が生えている獣人種。
そして、勇者達が一番よく間違える、
その理由は、見た目がファンタジーによく居る魔族なのだとか。
しかし、魔人種の人々は魔法の力は強いが人種であり、魔王崇拝とかはしていない普通の種族なのだとか。
魔族と間違えるって言うくらいだから鬼みたいに角が生えているのか、それともファンタジーあるあるの黒い体にヤギの角って感じなのかな?
まあ種族事に仲がいい悪いはあるらしい。
小競り合い等も――まあまあ結構あるらしいが、大規模な戦争するほど仲が悪い種族は居ないらしい。
まあ、大規模な戦争でもして他国を脅かしたりしたら、勇者が召喚されるためよほどのことがない限りしないそうだ。
しかし、過去には大規模な戦争が何度かあったとの事。
人種以外では、ドラゴン等の竜種や幻獣種や魔物達である。
ドラゴンは言うに及ばず、この世界でも最強の存在との事。
知性がある個体も居るが、知性がある物は基本的に人里に降りてきたりしないそうだ。
他の幻獣種も知性がある物も居るが、ほとんどが知性はなく魔物と同等な扱いをされるとの事。
他には死種と悪魔がいる、いわゆる死種はそのままアンデットだ。
ごく一部を除いて、知性はなく見境なく襲ってくることが多い。
そして悪魔は――勇者が召喚される一番の原因である。
そもそも悪魔は不死だが一度倒されると数百年復活はしてこないらしい。
悪魔達は魔物達を操りこの世界の人々を襲ってくるため、魔王と言えばこの世界では悪魔達の王を指す言葉であるそうだ。
悪魔達が世界を襲うのは、魂を集め自分の階級を上げる為に襲ってくる。
ただ神達も黙っておらず、信仰心を集めて悪魔達がこの世界に入ってこない様にしているらしい。
平和になり数百年経つと人々の恐怖や恐れが薄くなり、信仰心から集める力が足らず悪魔の進行を許すのだそうだ。
なんだか聞いていてなにか違和感がある感じがするけど、何がおかしいのかよくわからないので気にしないでおく。
まあとりあえず王道ファンタジーでありがちな、魔族じゃなくて魔人種は敵じゃないのは驚きだ。
そのかわり、悪魔の王が魔王ポジションに居るようだが。
悪魔って俺が居た世界では堕天使だとか、異教の神が認定されていたから世界を脅かせる存在なんだろうな。
「世界や種族に関して、このあたりに致しましょう。細かい所まで説明いたしますと、日が暮れてしまいます」
「そうだね、じゃあ次は何の話になるんだ」
「そうですね、次に勇者様達が喜ばれる事柄は、やはり魔法でしょうか」
「おお、魔法は俺の世界には物語の中くらいしかなかったから、教えてほしい」
「アイリス、こっちに来て」
俺は、カトレアが魔法と言う言葉に食い付いた。
ついに来たか魔法、これが一番楽しみだ。
たぶんアイリスがコーヒーを入れる際に使ったのも魔法だろうし、詳しく知りたい。
「シクラ様、魔法については私よりアイリスのほうが得意でございますので、ご説明を代わりますね」
「それでは、魔法のご説明を致しますね。勇者様達は、魔法がない世界なのに魔法について博識な方が多いようなので、シクラ様は魔法についてはご存知ですか」
「元の世界ではなかったけど、物語の中の魔法なら知っているよ。」
アイリスはにこやかな笑顔を向けたまま説明してくれるが、俺は頬掻きながら少し目線を外しながら話を聞く。
この笑顔の破壊力はやばい――いやマジで。
「それでは、簡単に説明致しますね。魔法は、基本的に誰でも練習したら簡単に扱うことができる基礎魔法、修練しないと使用できない応用魔法、最後に高度な知識や修練が必要な超越魔法があります。魔法が得意な勇者様方は、超越魔法が使えるそうです」
勇者とはチートが使える存在ばかりということか……まあ俺はなりそびれたけど。
「基礎魔法は、魔法を使う際に使う魔法の素がないと使用できません。水がない所で水は出せないですし、火がない所に火は出せません。応用魔法は、魔法の素がなくても使用できますが、使う人によってかなり違いがでますので、火種が出せる程度から火球を出せる人まで色々です。しかも、魔法の素になる物がある場合は、使える力が大きくなります。火種しか出せない人も松明の近くだと、小さな火球がだせるようになったりしますね。そして、超越魔法ですがかなり凄いことが出来るそうです」
かなり凄いって、それだけじゃわからんって。
「勇者様以外でも、身の丈よりかなり大きい火球が使えたり、風の刃で木を切り倒したり出来るそうです。勇者様が使う超越魔法は、炎のドラゴンを作ったり、土からゴーレムを作ったり出来るそうです」
基礎魔法は誰でも使えるが、魔法の素になる物が必要。
応用魔法は練習しないと使えないが、素が無くても使える。
素があれば、威力増加。
超越魔法は俺がイメージするファンタジーの魔法って感じかな、勇者は別枠っぽいけど。
「私も応用魔法までは使えるのですが、流石に宮廷魔術師クラスじゃないと使えないんです」
「でも応用魔法まで使えるんなら凄いんじゃないか。そう言えばさっきコーヒーを入れる際に魔法使ってなかったか」
「お気づきでしたか? あれは応用魔法になるのですが、水を温めて沸騰させる魔法です。これでも私、前の勇者様の従者として魔王討伐に参加したんですよ」
「え、まじで……」
アイリスの誇らしげな口調とは裏腹に、俺はかなりの衝撃受けた。
そして……重大な事に気が付き、十誠はアイリスの言葉に呆けた顔をしたまま固まった。
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