第13話 失敗勇者と野営訓練中編 ~魔物討伐~

 世の中面白い事もあるもんだ。

 生きているうちに、二回も勇者と関わり合いを持つなんざそうそうないだろうな。

 ミモザの件で世話になったボウズに挨拶に言ったら、実戦経験を積ませるために森で訓練する依頼をヒューズがするなんざ何事かと思ったら勇者だとは驚きだ。

 まあ、アイリスが護衛についていたし雰囲気から何となくそんな感じはしていたがな。

 訓練を見ていた感じだと人間相手ならそれなりに戦う事は出来そうだが、魔物との戦闘は数をこなしていくしかない感じだな。

 目で追って剣で対応している感じから、まだまだ技術的な物は無いだろうから苦労しそうだな。

 それにしても文字が読めねぇとは予想外だし、いくら村の食事が上手くないからと言って顔に出過ぎだな。

 まあ、明日からの森の訓練で何かつかんでくれればいいんだがな。


byトラオウ




昨日はなかなか寝付けなくて困ったが、この世界では夜が早いので何とか睡眠時間の確保は出来た。

 まだ少し眠たいが既に日が昇り始めており、窓からは朝日が射し込んできている。

 周りのベットは既に空で、誰も居ないのでもう朝食に行ってしまったのだろうと思い、素早く身だしなみと装備を整え階下の酒場へ向かう。


 酒場へ向かうと白虎の面々は大きめのテーブルを占拠しながら朝食を食べており、俺に気が付いてトラオウさんが手招きしながら俺の朝食も頼んでくれた。

 俺が席に着くと直ぐに店員さんが朝食を持ってきてくれる。

 朝食は種類がないらしく、昨日と同じパンとスープと何かの乳がセットのみたいだ。

 どの道味は……と言った感じなので、ぱぱっと朝食を食べ終えて宿の前に集合し装備などの点検をする。


「今日は、これから森までしばらく歩いて野営場所を確保する。昨日説明した通り、ハルとアルルがボウズのサポートをして魔物討伐の訓練をする。ここから先は魔物か動物しか出てこないから魔物だったらシクラが、動物だったら俺達が仕留めるから気を引き締めておけよ」


 トラオウさんの言葉に俺は頷き返す。

 

「まあ、狩人の俺が居るから不意打ちなんてものは無いけど、気合を入れすぎたり抜けすぎたりしてると怪我するから気を付けてな」


「でもあんた、たまにポカするから気が抜けないわ」


 かっこよく決めようとしたハルさんは、ミモザさんに突っ込まれて「あいたー」っとふざけていた。

 アルルさんは特に何も言わず目を合わすとそらされた……俺何かしたかな……?

 トラオウさんはやれやれと言った感じで呆れていたが、行くぞと言って先頭を歩いていく。

 

 村の囲いを抜けてしばらく歩いているが、平原が広がっているだけで特に襲われることは無く平穏だった。

 たまに遠くの方に動物が居たりするが、こちらが気が付いた時には既に向こうにも気が付かれているから、そのまま逃げられてしまい狩りをする事は出来ない。


 そのまま何事もなく歩き続け、昼過ぎ辺りにようやく森の入り口に付いた。

 そのまま森に入らず、一旦昼食を軽く取り休息をとることになった。

 保存食と水分を体に補給をし、しばらく休憩してから森の入り口に入って行く。

 森は想像以上に木々が生い茂っており、植生も濃く昼間なのに薄暗く不気味な感じがする。

 しかも遠くから変な鳴き声とかも聞こえてきて緊張してきた。


「まずは野営地にできそうな場所を確保するぞ。それにボウズは緊張してるようだが、まだ森に入ったばかりだから魔物との遭遇はまだ無いからもっと力を抜け」


「そうだぜ、俺が居るんだから魔物が近づいてきたら教えてやるからもうちょっと気を抜いても大丈夫だぜ」


「あんたは集中しなさい。シクラは初めての魔物との戦闘だから緊張してるのはわかるけど、今のままだといざ魔物が来た時にすぐに対応できないわよ? 私やトラオウとアルルが居るんだから大丈夫よ、それにアルルは魔導士だから怪我しても治してあげられるからもうリラックスしなさい」


「は、はい」


 返答はしたものの――そう簡単に緊張が取れない俺を見て皆は肩をすくめるが、まあ初めてならこんなもんだろうと言って森をずんずん進んでいく。


 ふと視線を感じて振り返ると、そこにはアルルさんがいて「なにか?」みたいな顔をされた。


「あ、いえ。何か視線を感じたので……たぶん気のせい……ですね」


 アルルさんは少しジト目をした後進むように促してくるが、その後も何度か後ろからの視線を感じる。

 緊張しすぎと言う事にして気にしない事にした……けどかなり気になるけどね。


「――止まれ」


 急にハルさんの小さな鋭いがして、皆立ち止まり周囲を見回す。


「どれだ」


「魔物。右前方約五十メートル木の陰。小型のスモールビーだな……どうする?」


「ボウズ、あそこの木の陰に魔物が居る。ハルがおびき出すから、お前が仕留めろ」


 一瞬の迷いもなくトラオウはそうシクラに指示を出す。

 俺がうなずくと、トラオウさんとハルさんは目を合わせる。

 何かしらのアイコンタクトをしたハルさんが動く。

 地面から石を拾い魔物に向けて投げつけると、ギッと鳴き声がしてブーンと羽音が聞こえてくる。


 三十センチ位ある巨大なハチが茂みから飛び出してきて、こちらに恐ろしい羽音を響かせながら飛んでくる。

 魔物が飛び出てくると白虎のみんなは俺の後ろまで下がり、俺の戦いを観戦するようだ。


 俺は剣を抜き――へっぴり腰になりながら剣を構えて魔物が来るのを待ち構える。

 俺の周りは木が二、三メートル間隔位に生えていて剣を振るうのには問題ないが、動き回るには多少手狭な感じの空間だが、逆に魔物も動きが阻害されるから案外戦えそうだ。


 不穏な羽音をさせながらスモールビーが近づいてくるが、大きな体が邪魔をして木々の間を縫うように進み、思ったより早い動きは出来ない様だ。

 特大のハチが近づいてくる恐怖で体が震え、ぞわりと鳥肌が全身に立った。

 これが恐怖なのか殺気のような物なのかは分からないが、本能的にこれは危険だと告げられている。


 五メートルほどの距離まで近づいたとき、スモールビーは急速に加速して俺の方に突撃してきて、俺は反射的に剣を魔物に振りかざす。 


「うおら!――う、ごほごほ。」


 力いっぱい振り切った剣は、スモールビーを斜めに真っ二つに切り裂いた――

が、勢いを付け過ぎた剣は地面に、盛大な土ぼこりを巻き上げた。


 もうもうと立ち上がる土埃をかき分けながら皆と合流するが、合流する皆は半笑いのような顔をしていた。


「え、えっと。一応倒せました…… 」


 想定外の出来事に頬掻きながらそう言っていた。

 皆は顔を見合わせて呆れている様だが、トラオウさんが歩み寄ってきて手を振り上げて――俺の頭に拳骨を落とす。 


「何するんですか! 」


「何をするんだとはこっちが言いたいぞ! 何でびびって、あんな低級の魔物に全力で切りかかっているんだ。おまえが全力で剣を振ったらどうなるかくらいわからんのか! 魔物と戦闘するときは、目の前の敵だけではなく周りにも気を配らないといけないのにそれをせず、一撃で屠れるような雑魚に全力で切りかかり、あまつさえ土埃で視界を塞ぐなんて阿呆のやる事だ! 」


 その後も魔物との戦闘の仕方や冒険者とは何ぞやと思いっきり説教をされ、いつまでも終わらない説教をミモザさん達が止めるまで続いた。

 俺も流石にやり過ぎたと思って反省していたが、初めての戦闘なんだからもう少し何か……と思ったけど流石に言えなかった。


「まあこんな事だろうとは思ったけど、今の一撃が普通の剣だったら一撃で折れてるぞ……」


「ん? 俺の剣って、普通の剣じゃないんですか」


 今持っている剣はいつもの訓練用の刃が潰してある剣ではないけど、同じ様な形をした見た感じ何の変哲もない鉄剣に見える。

 剣を抜いて眺めてみるが持った感じも特に変な感じはしないし、特に変わったところと言えば……今の一撃で一切刃こぼれや刀身が曲がったりしていないことだろう。


「気が付いたようだな、それはヒューズが用意した魔法鉄の剣だ。その剣は強度を強化されているだけだが、さっきの一撃を受けても折れたり曲がったりしない。強度のみを重視した特別製の剣だ。そんなものでもないとボウズの一撃には耐えられないと思ったんだろうが……予想通りだったようだな」


 トラオウさんは事前にある程度の情報を貰っていたのか、俺の剣についてスラスラと説明をしてくれる。

 とはいえ、魔法鉄って言うのは初めて聞いたが――この剣がそんなファンタジーな剣だとおは思っても見なかった。


「それにしても、凄い威力の一撃だったな」


「そうね、金クラスの前衛の一撃よりも重そうな一撃よね?」


 ハルさんとミモザさんが称賛してくれて、アルルさんはコクコク頷いている。

 

「一撃の重さは俺よりも受けかもしれないが、頭の賢い魔物やましてや悪魔達なんかには通用しないぞあれは。あれらなら一撃を片腕でわざと受けて、土煙が晴れるまでの間に反撃されて終わりだ」


 腕のある冒険者や賢い魔物等であれば俺の攻撃は脅威でも何でもないらしい。

 まあ、悪魔なんて化け物と戦うつもりは今の所ないので大丈夫だと思う。


「ま、そうだな。速さはそれなりにあるけど、只の棒振りなら俺でも避けられる。技術を伴わない攻撃は格好の的だから、とりあえずはその辺りは実践と練習だな」


「今回はそれを学ぶための訓練でもあるんだから、力加減や配分をしっかり考えながら戦えるように気を付けなさい」


 みんなから注意を受けたけど、人との戦い方と魔物との戦い方では違いがあり過ぎてなかなか難しい。

  騎士団員との訓練では動き出しを見てらかでも対処できるんだけど、さっきのスモールビーは大きさも剣と比べると的が小さいし動きもトリッキーだ。

 空を飛んでいるし、ゆらゆら飛んでいるかと思えば急加速してくるしで、想像以上に戦いずらかった。


「とりあえず、アルル。ボウズが空けた穴を塞いでおいてくれ。他の奴が何かの拍子ではまったらたまらんからな」


「わかったわ。アースクリエイト」


 トラオウさんに言われてアルルさんが魔法を唱たると、俺が空けた穴が見る見るうちに塞がって行く。

 そして、他の地面と同じような高さに均されていった。


「凄いですねアルルさんは」


 俺が声をかけるもアルルさんはプイッと顔をそむける……いやほんと、俺何かしたかな……流石に悲しいんですけど。


「先に進むぞ」


 そんな様子をトラオウさんは眺めていたが、皆に先に進むよ指示をして再度隊列を組み森を進んでいく。


 その後は魔物と遭遇することなく、しばらく歩いた先に小さな岩山が目の前に現れる。

 岩山にはそれほど大きくないが洞窟のような穴が開いていて、焚火の様な後もあって他の冒険者が野営場所として使用していたことがわかる。


 「ここが良さそうだな、洞窟の中を見てくる。アルル来てくれ、他は周囲の警戒をしていてくれ」


 トラオウさんが指示を出し、アルルさんと洞窟の中に入って行く。

 洞窟は少し屈めば入れそうな高さで、幅はトラオウさんの様な体格だとギリギリだが普通の人なら問題なさそうなサイズだ。


 アルルさんが魔法で洞窟を照らして中に入って行くが、中を照らすとすぐに行き止まりだった。

 魔物が潜んでいる様子も無い様なので、ここを野営地にすることになった。


「ここは俺とミモザで野営の準備をしておくから、ボウズは訓練を続けてこい。……さっきみたいなことはするなよ」


 トラオウさんは指示を出しながら、ちょっと呆れた様な感じで俺に言った。


「しませんよ! ハルさん、アルルさん行きましょう」


 そうは言った物の、流石にさっきはちょっとやり過ぎたと思っていたので、次からはもう少し自重しないといけない。


「よっぽど大丈夫だと思いますけど、気を付けて行ったらっしゃい」


 がははと笑うトラオウさんと気を掛けてくれるミモザさんを背に、俺は森に入って行く。

 流石にさっきみたいに取り乱さないようにするって。


「まてよ。ボウスが先にってどうする、俺が先頭で行くから後から着いてこい。アルル、なにかあったら援護を頼むよ」


 揶揄われてちょっと気が逸っていた様だ……気を取り直して三人で森に入って行く。

 ハルさんは所々で木に目印と付けながらずんずん森を進んでいく。

 周りの気にも同じような傷が幾つもあり、他の冒険者も同じように通ってきたルートを残しているのだろう。


「ボウズ、もう少し進むと池があってな、その辺りは魔物も動物も結構いる事が多いから気を引き締めておけよ。さっきみたいに一体でいる事の方が少ないから、集団で襲われても危なくなるまで俺達は手を出さないから注意しておけ」


「わかりました。池の周りにはどんな魔物がいる事が多いんですか?」


 集団で襲われても手を出さない――か。

 白虎はヒューズさんもびっくりの超スパルタ仕様のようです。


「基本的には動物型の魔物が多いが、さっきみたいに虫や植物型の魔物とかも居るな。この森は頭の賢い魔物はあまり居ないから、ある程度戦い方を学べばなんとでもなる……止まれ」


 静かにハルさんが手を上げ一同は静止し、ハルさんが腰を落としたのを習って俺も屈み周りを伺う。


「――居るわね」


「ああ、そうだな。恐らく四足型の動物が数匹、まだこちらに気が付いていないがもう少し近づくとばれるな」


 俺は見聞きしても何もわからないが、ハルさんとアルルさんはどこに魔物が居るか分かる、二人とも進行方向の左前を注視している。


「ボウズ。あの藪の奥に魔物が数匹いる。色合い的にブラウンボアの親子だろう。注意点は、突進時の牙と噛みつきにさえ気を付ければ特に問題ない。一気に倒そうとせず一匹ずつ丁寧に倒していけよ」


「わかりました、行ってきます」


 俺は頷きハルさんが示した藪の方へ向かって行くが、どこに魔物が居るのか全く分からない。

 慎重に近づいて行くと、少し歩いたところで藪の方からフゴフゴと音が聞こえた――直後にガサガサと茶色い物藪から顔を覗かせる。


 そこには体高は一メートルほどのイノシシが顔を出してきて、俺を見つけると一瞬動きを止める。


「フゴォオオオオ!」


 唸り声をあげてこちらへ突進してくる。

 先頭のが出てきた藪から、さらに三匹のブラウンボアが飛び出してくる。


 後から出てきた三匹の内二匹は先頭と同じようなサイズだが、残りの一頭は二回りほど大きい個体だが、体が大きくて重たいのか動きは他の三匹より鈍重でドスドス走っていてとても遅い。


 この状況なら先頭をさっさと倒して残り二頭の突進を回避して一匹ずつ退治した後、最後の大物を退治する感じで行けそうかな。


 先頭のブラウンボアに向け、剣を構えて迎え撃つ。


 ブラウンボアはまっすぐにこちらへ体当たりしてくるが、さっきのスモールビーよりも迫力はあるけど距離が近くて速度出ておらず、横にサッと跳躍て通り抜け様に振り上げた剣で叩き切った。


 ブギャっという鳴き声と共に、真っ二つになったブラウンボアはしばらくすると動かなくなった。

 

「まずは一匹、残りもササッと行こうか」


 それ程力を込めたつもりはなかったが、ブラウンボアはが真っ二つに切れて驚いたが、気を引き締め直して残りの討伐を行う。

 仲間がやられたブラウンボアは吠えながら突進してくる――だが、さっきと同じようにすれ違いざまに一撃を入れて仕留めることが出来きた。


 最後の大物は先ほどよりも速度を上げて突っ込んでくる……だけど体が重く鈍重なのは変わらない為か、小走りしてるかのように遅く、まっすぐにしか来ない為対処は簡単そうだ。


 そう思って先ほどと同じように避けて切ろうとしたが、ブラウンボアは首を曲げて牙を俺に向けて突き刺そうとしてくる。


「――っちょ、あぶねえ!」


 振り上げた剣を体ではなく牙に合わせると、ボキンと音がしてブラウンボアの牙が折れたけが、さっきみたいに一撃で仕留めることが出来なかった。


 通り過ぎたブラウンボアは俺の方を振り返り再度突進を始めるが、俺は残っているもう一方の牙を叩き折って怯んだ隙に何度も斬撃を加えて倒した。


 よく肉を断つ嫌な感触が残るとラノベとかで見るけど、今の俺にはそう言った感覚が全く残っていなかった。

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