第14話 失敗勇者と野営訓練後編 ~魔物討伐~
今日から本格的にボウズの特訓が始まったけど――なんだよあれは。
スモールビーが木っ端みじんに吹き飛んじまうし、大穴まで開けるしどんな力してるんだよ。
見た感じ、それなりには鍛えているがあれほどの力が出せるような体格ではないし、何か魔法を使った感じもしなかった……やっぱりあれは勇者なのか?
この間依頼を受けた時も剣って言ってたから剣の勇者だろうから、あんな馬鹿力が出せるんだろうな。
ブラウンボアまで一発で仕留めちまいやがった……やっぱり勇者って規格外だよな。
この森に入ってからも緊張はしていたが怯えた様子はない。
むしろ少し楽しんでいるかのようにも見えるな……そもそも、この訓練必要ないんじゃないかと思うんだけど。
まあ、依頼だから最後までやるけどな。
byハルレクター
「流石にこの程度ではどうってこと無い様だな。とりあえずは――ブラウンボアを処理しちまおう。こいつは一部分を除いてうまくはないが、食肉として売られている位だから解体して野営地に持っていこう。あ……ボウズ、できれば次からは足とか頭を落として倒してくれないとうまい所がつぶれる、あとちょっと手伝ってくれ。アルル、適当にその辺に穴掘ってくれ」
アルルさんため息を付きながらも木の根元辺りに魔法で穴を掘り、ハルさんと俺はアルルさんが掘った穴の上にブラウンボアを吊り下げて血抜きをする。
ある程度血抜きが終わったら解体し、良い部分だけ切り出して穴に埋めるんだとか。
流石に解体は抵抗があったけど、今後の事を考えると慣れておかないといけない気がしたので、ハルさんに教えてもらいながら一匹だけ解体を手伝った。
うん、倒すよりも解体するときの方が色々と精神的に来るな。
「うっし! とりあえず戻ってからまた狩りに行くぞ。そしたらまた戻ってきて、今度こそ池に行くぞ。さっきより強い魔物とか、数も多いだろうから頑張れよ」
魔物の解体と事後処理をしていると、バサバサと音を立てて鳥達が池の方へ飛び立っていく……血の匂いがして逃げて行ったのかな。
解体されたブラウンボアは解体後、アルルさんの魔法で冷却してある。
狩猟に関してはこちらの世界の方が色々と便利な気がした。
一度野営地に戻りトラオウさん達に肉を渡し、また道を戻っていく。
渡したときにトラオウさんはブラウンボア状態に苦笑いを浮かべていた。
そして今度は魔物と遭遇することなく池の近くまで行くことが出来た。
「この先の池には色々な魔物が寄ってくる。たぶんボウズなら大丈夫だと思うが、一応注意しないといかん魔物も居るから教えておく」
ハルさんから注意された魔物は、よほど居ないと思うが四種類。
ブラッドウルフ、この森にでるブラウンウルフやグレイウルフの上位種で、単体での難易度は鉄級ではあるが基本的に配下のブラウンやグレイウルフを連れている為、難易度は銀のパーティークラスだとか。
クイーンビー、始め倒したスモールビーの親玉でこれは単体では銅らしいのだが、引き連れてくるスモールビーの数次第で難易度は鉄級から銀級まで変わるとの事だ。
「まあこの辺りは、状況を見てやばそうなら俺達がフォローするから良いんだけどよ……出ることは無いだろうけど――残りはまずはドラゴン。ドラゴンは流石に今の装備では太刀打ちできないし、よほどの事が無ければ向こうからは襲ってこないから良いんだが。最後は悪魔だ、これは見つけた瞬間に全力で逃げる。こんな王都の近くの森で出会う事は無いだろうけが奴らは神出鬼没で強さもけた違いだ。名前も無い様な下級悪魔なら問題ないが、爵位持ちの悪魔なんて出会ったらトラオウ達が居ても勝てるかどうかだろうから即座に逃げるないとだめだ」
その後小さな声で完全武装ならギリギリ何とかなるかもしれないが――と言っているのが聞こえた。
それはともかくとして、今の話で俺は良く分からない所が合った。
「悪魔って魔王の事じゃないんですか?」
前に聞いた話だと、悪魔が魔王で魔物とかを率いてくるような話を聞いた気がしたんだけど。
あれ?悪魔の王が魔王だっけ?とにかくその辺りの詳しい事が良く覚えていないんだよね。
「魔王は普通の悪魔じゃなくて、爵位じゃなくて王としての悪魔が魔王なんだよ。貴族と一緒で爵位と王が居て、その王がこの世界に降りてくると魔王と呼ばれる。そして、勇者が召喚されて大戦に発展する……と言われている。まあ、数年前に魔王が討伐されたからよほどの事が無ければ悪魔達は身を潜めているが、何かしらタイミング悪く遭遇するとよほどの事が無いと逃げられないし……勝つこともかなり難しい。ミモザの腕がなくなった原因も、たまたま古代の遺跡調査していた際に居た悪魔と遭遇戦になって、何とか討伐は出来たが爵位無しの悪魔でその強さなんだから今の装備の俺達じゃ絶対に無理だ」
ミモザさんの腕の原因は悪魔だったのか。
下級悪魔で白虎の人達が重症になる程協力なら、爵位持ちとか魔王とかはレベルが違う強さなんだろう。
それにしても、前勇者は凄いな。
そんな悪魔の王を討伐するなんて、今の俺だとプチッと潰されて終わりになりそうだし。
「ま、ドラゴンも悪魔もこの辺では見たことないだろうし、魔王が居る時ならまだしも今は向こうも下手に手を出しては来ないだろうから、遺跡や辺境の地にでも行かない限り会う事は無いだろうけどな」
「前回は地形の問題もあって、向こうもこちらも全力を出せていなかったから勝てた様な物でしょ。流石に遺跡で大魔法はお互い使えないので、そのおかげで勝てただけなので慢心は禁物です。いくらシクラがトラオウ並みの力を持っていても、当たらなければ意味は無いですから」
「わかりました、とりあえず全力で逃げることにします。と言うか、会いたくない相手ですね」
珍しくアルルさんからの指摘もあったことだし、注意しよう。
まったく、そんなフラグが経ちそうな言い方は止めてもらいたいものだ。
まあ、今の俺の技量はヒューズさんよりもかなり格下だろうから、この辺りの魔物でも十分脅威を感じるレベルではそんなものとは戦えないだろうな。
ま、この辺りでは出ない様なのであまり気にする必要はないかな。
「じゃあ、気を取り直して行くか。ここから先は、魔物が居ても居場所は教えないから索敵にも気を付けて戦えよ」
そう言ってハルさんは、俺を先頭にして後ろに下がった。
そっか、そうだよな。
索敵も出来なければ旅をするのもままならないね。
俺はキョロキョロしながら進み、後ろからクスクス笑い声が聞こえるが気にしないことにした。
流石にハルさんやトラオウさんのように索敵は出来なから、自分の五感を頼りにしばらく進んでいくと開けた場所に出て、目の前には大きな池が現れた。
「で、でかい池だな……」
目の前の池は、過去に見たことがないほど巨大な池で、対岸まで下手したら一キロ程あるじゃないかと思う程巨大な池だった。
異世界の大自然の雄大さを感じながらも、魔物と言う危険生物がいる事を忘れない。
俺は周囲を見渡してみるが、周りには魔物は居なかった。
「何かおかしいな」
ハルさんが怪訝な顔をしながら近づいて来た。
さっきまでの飄々とした雰囲気から一転、急に真面目な――と言うか本職の雰囲気が漂いだす。
「何がおかしいんですか。特に何もありませんが?」
「何もないのがおかしいんだよ。この池はマヤシカの森最大の水場なのに、見渡す限り魔物が一匹も居ない。この広大な水場に全く何も居ないなんて今までなかったことだ」
ハルさんが周囲を警戒しながら水辺を調べに行くが、特に問題が見つからなかったようだ。
水辺には風で波を立てる水の音と木々のざわめきしか聞こえて来なくて、なんだか異様な雰囲気がしている気がする。
「動物や魔物が一切いないとなると、何かこの森で異変があるのは確実だが……どうしたものか」
「これだけ何も居ないのは確かにおかしいわね。ハル、索敵使ってもいいかしら? 」
「それしかないか……とりあえずは、池周辺までで頼む」
アルルさんの提案に一瞬考えた後、頷きアルルさんに同意する。
「わかったわ、ソナー」
アルルさんが魔法を唱えた瞬間、コーンと音が響き何かが俺を通り過ぎたような感じがして背筋がぞくっとした。
ソナーの魔法は術者を中心に索敵用の波動を打ち出し、相手にも気付かれるが精度が高く周囲の地形まで読み取れる魔法だが……森は静まり返ったまま何も反応はしなかった。
「やっぱりおかしいわ。対岸茂みの先まで放ったのに、動物すら反応しないなんてありえないわ……どうする、範囲を更に拡大して調べる? 」
アルルさんの問いにしばらく考えていたが、ハルさんは頷き再度索敵する指示を出す。
「野営地までの範囲で頼む。トラオウ達にも来てもらいたいから、あっちの方で頼む」
アルルさんは頷くと、先程とは違い集中してから魔法を使う。
「っく……
アルルさんが魔法を唱えると、コ、コ、コーンと音が響き渡り先程と同種の感覚が物が三度通り過ぎるが、やはり周りは静まり返ったままだった。
「アルル、ボウズ、とりあえずさっきの茂みの所まで戻るぞ」
周囲を警戒していたハルさんが茂みの向こう側に走って行き、俺とアルルさんも続いて茂みに入って行く。
ハルさんの焦り様が思った以上に事態の深刻さを物語っている。
「ありえないくらい何も居ないわ。トラオウとミモザは感知できたから、何かの魔法とかで妨害されている様な事も無いけど……いくら何でも異常だわ」
「ああ……ここまで何も出てこないとなると、今この森には何か厄介な者が居るはずだ。しかし村の人々も特に何も言ってなかったから、ほんの数日――もしくは数時間での出来事なのかもしれない。トラオウ達もしばらくしたら合流できるだろうから、どうするかはそれから検討しよう」
俺とアルルさんは頷いて肯定する。
流石にこの世界に慣れていない俺でも、今の状況が異常と言う事だけはわかる。
さっきのソナーの魔法を受けても鳥一匹飛び立たず、静まり返る森は異常としか考えられないのだけど。
「ハルさん。俺がブラウンボアを倒したときは異常は感じませんでしたよね?」
ハルさんは、ハッとした顔をして俺を見る。
「ああ、さっきボウズが戦っていた時は、周りに動物は居たし離れた所には魔物の気配も感じられたが、今は一切感じられない。さっきの戦闘で逃げたものだと思っていたが、それにしては魔物だけではなく動物の気配も一切消えている。そう言えば……ブラウンボアを処理して戻るときに鳥が飛び立って行ったな……もしかしてあの時か」
「あの時は、血の匂いがしたから逃げて行ったのかと思ったんだけど、もしかしたら何か別の原因があるのかも……しれないですね」
「嫌な感じだな。とりあえずは二人を待とう」
しばらく待っていると、野営地の方からトラオウさん達が走ってくるのが見える。
二人は随分焦った様子でこちらを見つけると駆け寄ってきた。
「ハル、アルル、何かあったのか」
「少しばかりまずそうな状況だ」
ハルさんは合流した二人に状況を説明する。
アルルさんの魔法の探知範囲に、魔物や動物が一切いない事。
ブラウンボアが出てきたときは特に問題なかったが、戻ってくると一切魔物達が居なくなっていた事を伝えた。
「二人ともどう思う?」
「何かがこの森にいる事は確実だな。周りの魔物達が消えるとなると、大規模討伐依頼されるような悪魔か、ドラゴンくらいしか思いつかないな」
「トラオウ、これはドラゴンではありえないわ。ドラゴンの存在を感知して逃げ出すにしては、私たちが感知できないのはおかしいわ。そうなると……悪魔しかいないと思うわ――最悪ね」
「それしか考えられないわ。私の探知外までとなると人間業じゃないわ」
ミモザさんの意見にアルルさんが頷き同意する。
トラオウさん達も今の説明を聞いて悪魔が居ると言う事に同意し、これからどうするか相談し始める。
ふむ、悪魔か。
アニメとかでは度々出てくる姿は、角が生えてて蝙蝠の様な翼が生えている者が多いけど、本物もあんな感じなのかな。
それに本物の悪魔が居るんだったら、サキュバスみたいなのも居るのか?
「……ズ。おいボウズ! 聞いているのか! 」
「すみません、聞いてなかったです」
「ぼーっとするな。今がどんな状況なのかわかってるのか! もう一度説明するからちゃんと聞いておけ」
俺が考え事をしている間に、今後の方針が決まったようだ。
一旦さっきの野営地に戻って荷物を回収して、王都まで急いで撤収して騎士団長のヒューズさんから国王にこの件を伝達してもらう事になったらしい。
その後は――恐らく調査隊と討伐隊が組まれ、この森の大捜索することになるから一旦訓練は中止との事だ。
来た時と同じく隊列を組み、野営地まで急いで戻っていく。
帰りの荷物を軽くするため、食料などは大半洞窟に押し込み投棄して森から出るルートに向かった歩きだそうとした所……。
「――止まれ。……何か来るぞ」
ハルさんの一言で、全員背負った背嚢を捨てて戦闘態勢に移る。
「ハル、どっちからだ」
「っち、俺達が向かう方角だ。恐らく待ち伏せされたな」
全員に緊張が走る。
相手は恐らく悪魔……ミモザさんの腕を切り飛ばした様な強大な力を持つ相手で、そんな相手がこの先に居るとなれば緊張しない方がおかしい……んだけど、なんだろう怖さを全く感じないぞ。
白虎の一同は緊張して周りを見渡したりしているが、実感が無いせいか俺は全く緊張も恐怖も感じていなかった。
ガサガサと音が近づくにつれ、皆の緊張は一層高まる。
「なんだあれは……獅子の姿をしているな」
「ああ。だが、間違いなくあれは悪魔で間違いないだろう。この重圧……前回あった悪魔なんて比べ物にならんぞ! 」
「そうね、たぶん前回の戦争でも戦った爵位持ちの悪魔でしょうね。まいったわね。」
「それでどうするの? 戦うの? 逃げるの? 逃げるにしてもあの相手から逃げきれるものかしら」
「俺とハルが時間を稼ぐから、ミモザとアルルはボウズを逃がせ」
「ちょと! そんなことできる訳ないわ! 仲間を見捨てて逃げるなんて出来ないわよ! 」
「良いから聞け! 俺達も隙を作って逃げ出すが、ボウズは絶対に逃がさないとまずい。今後この世界で必ず必要になる力だ……それにあいつはいろいろとまずいだろうが。時間は稼ぐ――準備しろ」
トラオウさんとミモザさんが問答している間にも、相手はどんどんこちらに近づいてきている。
アルルさんは既に俺の前に立ち、いつでも逃げられるように準備している様だ。
さっきまで遠くて良くわらかなかったけど、近づいて来るとその大きさがわかった来たけど……でかいな。
見た目は獅子だけど、大きさは動物園で見た獅子の四、五倍ほどありそうな巨体がのしのしとこちらに向かって歩いてくる……と言うか、あれ……俺に向かって歩いてきているような気がする。
巨大な獅子は、視線を俺に向けたまま歩いて来る……そして数メートル手前で立ち止まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます