第6話 失敗勇者と朝のひと時?
簡単なあらすじ
召喚に失敗したシクラ様は、魔王が討伐された後の平和時代に来てしまわれました。
私達メイドは、シクラ様の身辺のお世話をさせて頂いております。
少しやり過ぎてしまったようで、のぼせられたシクラ様を部屋にお連れし私が護衛として残ったのですが……。
シクラ様の基準がよくわかりません。
何故かご自身より私の様な使用人を優先したり、女性が寝ないのに自分が寝られない?とよくわからないことを言われてしまいますし。
それにしても、変なところだけ鋭い方ですねシクラ様は……。
でもこっそりと護衛をさせて頂きます。
シクラ様と同様に条件で寝たふりをしたらいいわけですから。
これでシクラ様の指示には反しませんので、問題ありませんね。
byアイリス
アイリスが部屋を出たことを確認した十誠は、疲れもあったのか直ぐに眠気に襲われた。
眠気に襲われながら、十誠は自分のアイリスに対する態度が間違っていなかったか考えるが……やはり自分は間違っていないと思う。
ちょっときつく言ってしまった気もするが、俺の為にもアイリスの為にもあれが最善だと思う。
そして、そのまま眠りに付くのであった。
薄っすらと部屋に朝日が射し込んでくる。
どうしたものでしょうか。
アイリスは今非常に困った状態になっていた。
何が困った状態かと言うと、十誠の護衛として一緒のベットに入ったのはいいのだが、眠るつもりではなかったのだが……少しの間寝てしまっていたのだ。
そして、目を覚ます原因となっているのが、今の状態なのだが……十誠がアイリスの頭を寝ぼけて抱き寄せていたのである。
十誠は気持ちよさそうに寝入っているが、アイリスの頭はいま十誠の胸に抱き寄せられ身動きが取れなくなってしまった。
予想外の事態であった。
そもそも自分が眠ってしまうとは思っておらず、明け方にこっそり着替えをして何食わぬ顔扉から入ろうとしていたのだが、今の子状態で抜け出そうとしたら起きる危険もある。
しかしながら、このままでいる事も他の誰かに見られる危険がある。
今の状態を見たら、他の子たちに何を言われるかわからない。
私は今寝間着ですし、シクラ様も寝間着を着ていらっしゃる状態で、しかも抱き寄せられている状態では……何もなかったと思う方がおかしいでしょう。
カトレアならわかってくれるかと思いますが、あとで面白おかしく周りにいろいろ言うでしょうね。
でも他の三人だと、確実に勘違いをして後々面倒なことになりかねない。
まだ明け方なのか、既に日が昇ったのかがわからない……どうしよう……。
十誠に頭を抱えられ、顔が布団の中に入り込んでしまい視界が真っ暗な状態なのだ。
コンコンコン
突如、扉をノックする音が聞こえる。
アイリスは体を硬直させ聞き耳を立てる。
「うう~ん、バイトは昼からだからまだ寝てるよ」
やばい、シクラ様は寝ぼけているのか意味が分からないことを言っていますが……誰かが来たとなると何とか抜け出さないと。
無理にでも、もがいて抜けだろうとしていると。
「シクラ様カトレアです。失礼致します」
カトレアが部屋に入ってきた。
ど、どうしよう……カトレアこっちに来ないでよ……。
ま、まだ、カトレアならまだ何とか話せばわかってくれる……と思いますが……。
まだ距離が離れており、更には十誠が横を向いて寝ているから気が付かれてない。
ですが、近づかれたら膨らみがおかしいので確実にばれてしまいます。
しかし、アイリスの願いはことごとく叶わないのだった。
「シクラ様。アネモニ、ダイアン、リリーです。失礼いたします」
実は、カトレアの後ろに他の三人のメイド達も一緒に来ていたのである。
アイリスからは見えていないが、カトレアは十誠の服を取りに衣装室へ、アネモニとダイアンは台車に朝食を載せてテーブルへ、そして十誠を起こすのは最年少のリリーである。
「あら、これって」
カトレアは衣装室の入り口に何か置いてあるのに気が付いて呟きを漏らす。
あるものとはアイリスのメイド服なのだ。
誰の物かはわからないカトレアは首をかしげながら部屋を見渡し――そして気が付いてしまった。
何かというと、アイリスが一番危惧している十誠の布団が異様に膨らんでいることを。
リリーを止めようかと一瞬悩むカトレアだが、今さら止めても不審がるだろうしメイド服を持ったままベットの方へ向かう。
ああ、ダメだ。もう逃げられない……どうしたら……。
アイリスは涙目になりながら考えるが、部屋に四人もいる状態で逃げだせるわけもなく……。
「シクラ様〜朝ご飯ですよ〜おきてくださ〜い。シクラ様〜」
少し間延びした話し方のリリーが、ベットの脇から十誠を起こそうと呼び掛ける。
すると――なんと、十誠が抱いていたアイリスの頭から背中へ手を回して抱き替えて、うんうん唸り出したのだ。
(シ、シ、シ、シクラ様! )
心のなかでアイリスは叫ぶが、声は出さずに堪えている。
「うんしょ。シクラ様ー、朝ですよ? あれー? 」
リリーは自分の背ではベットに寝ている十誠に届かない為、ベットに上り十誠を起こそうとした。
しかし、十誠一人で寝てるにしては膨らみ方が大きいことに違和感を覚え――てしまった。
どう見ても膨らみが二つあるように見えるのだ。
「カトレア様、シクラ様何か変なの」
「どうしたのかしらリリー、何がおかしいか教えてもらえる?」
「ええっとですね、シクラ様が二人いるみたい? 」
「あらあら、シクラ様二人いるのかしら、それともシクラ様以外に誰かが居るのかもしれないですね。」
カトレアは笑顔で、くすくす笑いながら近づいてくる。リリーは、頭にはてなマークを浮かべながら首をかしげている。
ああ、もうダメ。
カトレアは今の状況を楽しんでいるし、リリーがすぐ横に居るから動けないし。
「リリーとりあえず、二人とも起こしてもらえる。とても良いお話が聞けそうですから」
「よくからないけど、起こせばいいんだね。シクラ様ー起きてー」
流石の十誠も室内でゴソゴソ動くメイドや、直接揺さぶり起こそうとしている聞き慣れないリリーの声に徐々に意識を覚醒させる。
「ん、朝?あれここって――ああそうか今は城に居るんだっけ」
「シクラ様ー、朝ご飯が出来ていますので冷めないうちに食べ下さいね」
「わかった……よ……え? 」
目の前には俺を起こしたリリーが居た、横にはカトレアがとてもいい笑顔で立っており、机の所でアネモニとダイアンが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
その事にも多少の驚きはあったが、体の前側と手に柔らかいが温かいものがある事に気が付いた。
……布団の膨らみに隠れているが、俺からは頭が見えている。
おそるおそる布団をゆっくりと上げると、顔を真っ赤にして涙目なアイリスが居た。
いったん布団を下ろして、再度布団を上げるがやっぱりアイリスが居る……。
何が起きたのか視線周りに向けると、リリーは俺が起きたのでベットから降りて朝食の準備している方へ歩いていく、カトレアは笑いが堪えられないのか顔を横に向けて小さく笑っている。
俺もアイリスもどうする事も出来ず、お互い固まっている。
「シクラ様、そろそろ起きられたらどうでしょうか」
そして、周りに聞こえないような小さな声で。
「そろそろ離してあげてください。アイリスもこっそり出てきなさい、皆を外にだしておきますから」
カトレアはくすくす笑いながら、布団の隙間からアイリスの服を潜り込ませる。
「あなた達、シクラ様の朝食と着替えは私でやりますから、先に朝食を済ませて来なさい」
パンパン手を叩き指示をするカトレアの言葉に従い、他の三人は礼をした後部屋を出ていく。
扉が閉まる音がして三人が出て行ったのを確認して、アイリスはもがいて布団から顔を出してくる。
「シ、シクラ様、できれば早く起きて頂きたいのですが」
「ご、ごめん、直ぐに起きるよ! 」
「きゃ、シクラ様落ち着てください!」
俺は脱兎の如く布団から跳ね起き、衣装スペースに駆け込もうとしたのだが。
アイリスを抱きしめたままということを忘れていて急に起き上がろうとしたため、アイリスを胸元に抱きしめた状態で起き上がってしまった。
急に俺が起き上がったせいでアイリスは、横向きで寝ていた状態でそのまま起き上がってしまい、俺の上に凭れるような形になってしまった。アイリスの顔は、完全に真っ赤になっている――尚且つ泣き出す直前のような顔だった。
俺は急いでアイリスから体を離して、着替えるために移動する。
「それでは、何があったか教えてもらえるかしらアイリス。昨日シクラ様の護衛をすると言っていたので、朝になったら何故一緒のベットで寝ていたのかしら。なにをしていたのかしら、アイリスならある程度何をしても問題ないと思いますけどね」
そう問いかけるカトレアの声は問い詰めるような言葉遣いではなく、どちらかと言うと同年代の女子を揶揄う様な声色だ。
「そ、そんなことはしていません! シクラ様が目覚められるまで側に居たのですが、私が寝ないと眠らないと言われてしまいまして――ソファーとかでもダメと言われて一度部屋まで戻ったのですが……シクラ様は、ベットで寝て欲しいとの事でしたので、シクラ様のベットにて護衛させて頂いた……だけです」
自分の任務に失敗した気恥ずかしさと、先程まで抱きしめられていた本気の恥ずかしさで捲し立てるアイリス。
「それにしては抱き合って仲睦まじそうな状態だったじゃない」
「あ、あれは、シクラ様が寝ぼけて抱き着いてこられたのです!」
「そんなことよりも、シクラ様が戻られるまでに着替えてしまいなさい」
カトレアは笑いながらアイリスに指示をする。
十誠がアイリスにそのような事を強制するような人ではないのは、風呂での出来事でわかっていたことだ。
それに、アイリスから迫る事が無い事も元々わかっていたので、何か事情があったのだろうと始めから分かった上でからかっていたのである。
「えーと、カトレアさんちょっと手伝ってもらってもいいですか」
この世界の衣服に慣れておらず、まだ一人で着替えることが出来ない十誠に呼ばれ、カトレアは衣装スペースへ向かう。
「失礼します、それでは着付けをさせて頂きます」
「ごめんね、まだよく仕組みがわかってなくて」
「いえいえ、良いのですよ。私達はその為にお側に控えていますので」
俺の着替えを手伝いつつ、カトレアは小さな声で聞いてくる。
「それで、アイリスはどうでした」
「ひゃい。どうでしたって、な、何もしてないですよ。さっきアイリスにも聞いていたじゃないですか」
「それは分かっていますよ、ですからアイリスの抱き心地――そう言うと語弊がありますね、抱きしめ心地はどうでしたかと?」
先ほどまであった、温かく柔らかな感触が甦ってくる。
それと共にのぼせたように顔が真っ赤になり、耳まで熱くなるのを感じる。
何しろ今まで生きてきた中で、女性とハグした経験もなく、あんな表情を向けられたこともない――それにとてもいい匂いがした。
「わかりました。今のシクラ様を見れば、悪い印象が無い事がわかりましたので大丈夫ですよ。アイリスも反省していますし、今回の事は水に流して頂けると幸いです」
「俺は良いんだけど、どちらかというとアイリスに迷惑をかけちゃって。アイリスは大丈夫だったの?」
「あの子は自業自得ですのでお気になさらずに。それにシクラ様が問題になさらなければ特に問題ありません」
俺が問題なければ問題ないって、それで良いのかよと思いながらも、アイリスの行動が特に問題にならなそうで良かった。
うん、まあ、俺が言った指示には従ってるし――ッハ!思い出すな思い出すな!
「流石に無理やりは困りますが、流石にベットに潜り込んできたアイリスに、寝ぼけて抱き付いただけですから。どちらかと言えば、こちら側の落ち度になりますので。それに――」
カトレアは俺の耳に口を近づけて更に小さな声で、「合意があれば関係を持っても大丈夫ですよ。もし子供が出来たとしても、勇者様の血筋ですから国として大切に扱われますし」と言うトンデモナイ事を言ってから着付けに戻る。
その後は、特に会話もなく着付けをしてもらい、外に出るとアイリスも服を着替えて頭を下げて立っていた。
「護衛として側にいたのにも関わらず、シクラ様にご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした」
「い、いや迷惑だなんて思ってないよ、こちらこそ寝ぼけていたとはいえ、ごめんね」
十誠の良いところは悪かったと思った事を素直に謝れる事だが、この封建社会が蔓延る世界ではあまり理解されない。
「なぜシクラ様が謝られるのですか」
「え、だって、俺がアイリスに抱き付いていたし。それに……俺なんかじゃ嫌だろ。アイリスみたいに可愛い子なら彼氏いるだろうし」
お客様であり上位者である十誠からトンチンカンな事を言われ、カトレアとアイリスが一瞬ぽかんとした表情になる。
しかしそこは王城侍女、直ぐに表情を戻しいつもの柔和な笑みを浮かべる。
「あの、シクラ様。私にはそう言った方は居ませんよ、側仕えの者は相手が居ない者ばかりですよ」
「もしかして、カトレアも相手が居ないわけ?」
「私も居りません。その相手を探すために王城の侍女になっているものが大半ですし」
「まじか、こんな可愛い子たちがフリーとか、どんだけ男たちに見る目がないんだよ」
俺の言葉にカトレアは、アイリスをちらりと見て少し考えてから話し出す。
「私とアイリスは色々とあるのですが、他の子たちは普通の平民ですから貴族との婚姻はなかなか難しいんですよ。今回はシクラ様の為だけに集められておりますので、平民が側仕えになるのは普通は難しいのですよ。それにここは王宮ですから、側仕えは家格の低い貴族の子女が付くことが殆どですよ」
「それとシクラ様、私を可愛いと言っていただけるのは有難いのですが、私はそれほど容姿が良いわけではないので恐縮してしまいます」
「またまた、アイリスは奥ゆかしいのはいいけど、流石にそれはないでしょ」
いやどう考えても美少女だし、流石に謙遜が過ぎますよアイリスさん――そう思っていたのだが、予想外の返答をされてしまう。
「シクラ様の世界ではわかりませんが、この国では目鼻立ちがはっきりした方が美しいとされていますので。私の様な者は醜くもないが美しいと言う訳ではありませんので」
衝撃の事実だった。
俺から見ると美少女のアイリス達だが、この国では普通と言われてしまうようだ。
ただこの世界にも日本人の様な顔立ちの人々は居るとの事で、そちらはわからないとも言われた。
「ですから、シクラ様が謝られる必要はございませんよ」
(どちらかと言うと、アイリスの方が役得だったでしょうし。)とカトレアは子声でつぶやく。
「何か言いましたカトレア」
アイリスは少し赤い顔をしながら、ジロリと睨むがカトレアは特に気にした様子もなく流していた。
朝から色々大変だったが、その後少し冷めた朝食を食べ終えた後、他の三人が戻ってきてカトレアとアイリスも朝食を取りに退出していった。
戻ってきた三人に何があったか色々聞かれたが、当事者が居ない状況では話せないので、適当にごまかしておいた。
同時刻のとある場所にて。
ホールのようなところに、一人の男性が膝をついて俯いている居る。
男性は神に祈るような体勢で両手を胸の前で組んでおり、何か小さな声で話している。
「そ、それは本当でございますか。……なんという事でしょう……どのようにしたら宜しいのでしょうか?」
しばらく間があり、再び男が話し出す。
「畏まりました、早急にお連れ致します……セクメトリー様」
男は立ち上がり早足でその場を去っていく、その顔には焦りと困惑が浮かんでいた。
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