召喚失敗勇者の異世界放浪旅
転々
プロローグ
第1話 失敗勇者のプロローグ
ひび割れたスマホから、光が漏れている。その光に反射する、大量の埃。床には石材で作られたと思われる床、天井までは画面の明かりでは見えず、周りは壁も見えない真っ暗な闇。
そして、体を摩りたくなる程の冷えた空気。
「ここは一体どこなんだー!」
一人の男が叫んでいる、男の見た目は顔は周りが暗くよく見えないが、身長は平均より高め、体つきも特に太っている様子はなく、中肉中背の普通の外見だ。なぜこんな暗闇の中立っているのかはわからないが、呆然と佇む様子は漫画やアニメでよく見る、空に向かって吼える様な格好をしており、はたから見ると滑稽な感じだ。
男はスマホを持つ手を上げ、画面に目を落とす。そこには……
「……暑い」
バイトから帰ってきて部屋に入るなり、俺はコンビニ袋をベッドに放り投げながら呟いた。真夏に窓を閉め切った部屋、それも夕方まで誰も出入りしていないので当たり前である。エアコンのリモコンを手に取り、スイッチを入れる。もちろん、急速設定である。起動したてのエアコンからは、生暖かい風が吹いてくるがしばらくすると、冷えた風が吹いてくる。先程投げたコンビニ袋から、帰ってくる前に購入したスポーツドリンクを取り出し、一気に喉へ流し込む。一回で半分ほど飲み、蓋を閉め机の上に置いておく。
「さてさて、今日は何が更新されているかな。」
エアコンの風を受けながら、ベッドに寝転んでスマホのブラウザを立ち上げ、いつものサイトへ接続しようとした……するとスマホの画面に突然
『あなたも召喚されました。』
日課の、小説のサイトを開こうとしたスマホの画面に、突然そんな文字が現れた。
「なんだよこれ……あなたも召喚されましたとか、どんないたずらだよ……。しかも、あなたも召喚されましたと表示されたの所には、YESしか無くNOがないし、どこかで何か変なの踏んだのかな。」スマホに表示されているのは、あなたも召喚されました。そしてその下に、YESの表示のみ。
「完全にいたずらだな、へんなの押してウィルスにかかっても嫌だな……強制終了しよう。」ここでボタンを押すなど、馬鹿のやることだと思いスマホの電源を強制終了させた。そして再度起動せたスマホの画面の起動画面には
『ようこそ我々の世界へ!!!』
「あれ、起動画面ってようこそだけだよな? ってうわ! 」
そんなことを思っていると、スマホが異常に発光しだす。目も開けていられない光で、思わずスマホを投げ出してしまう。
そしてどこからか
『ようこそ我々の世界へ、歓迎いたします!』
真っ白な視界の中、かすかに聴こえた声は幾人もの声が重なり合って聞こえた。
そして、意識を失った。
ん? なんか冷たい……なぜかうつ伏せで眠ってしまって居たようだ、地面に直接寝てたから冷たいのか。
「あれ?真っ暗だ、ボタンはどこだっけ?」
寝起きで回らない頭で、四つん這いになりながら周りをさばくってみるが……なにもない。あるのは、冷たい硬い床、床の上に何かさらさらしたものが手に触れる、触った感じがちょっと砂っぽい。照明のリモコンは、いつも俺が寝転がる近くに置いてあったはずなのに全く見当たらない。
あれ?そういえばなんで俺の部屋でこんなに真っ暗なんだ?いくら何でも暗すぎる気がする。
「――ゴホッゴホッ!……ゲホ!」
動いたせいで埃でも舞ったのか、空気が異様に埃っぽい。
「俺の部屋って、こんなに埃っぽかったっけ。」
涙目になりながら、右手を口に左手は自分の周りに置いてあるはずのリモコンを探す。
カチャカチャ
「……………………」
「…………」
遠くから、金属の擦れ合うよな音が聞こえると同時に、誰かが話すような声が聞こえた。
その音がした方から、人が走り去るような音がした気がしたがその後は全く聞こえなくなった。よくわからないが、まずは明かりが欲しいスマホはどこに置いたっけ。
寝る前の状況をなんとなく思い出し、投げ出したスマホがありそうな場所へごそごそと床を触りながら向かっていく。
「真っ暗で何も見えないな、どうなってるんだ?」
独り言を呟きながら、探しているとふと手になにかが当たる感触がした。手で弾かない様にゆっくり拾ってみると、探していたスマホの感触で安堵する。しかし、持ち上げても画面が付かず、ボタンを押しても光らない。電源ボタンを長押しして、起動するか確認すると……画面が光りだした。
しかし、画面は幾重にも筋が入っており、蜘蛛の巣のような光が溢れだす。
「あー割れちゃってる、修理に出すのに金がかかるなー」
画面にはのヒビが入っていたが、触ってみると反応はするようだ。ただ、流石に割れているので指を切らない様に優しく操作する。俺は、スマホのライト機能を起動し周りを照らしてみる。
まず正面を照らすと、壁がかなり遠くスマホのライトを向けても薄っすらとしか見えない。そして思う……。え、俺の部屋じゃない……。どう考えても、広すぎる……。自分の周りも照らしてみるが、しろっぽい床があるだけで周りになにもない。床も自分の部屋と違い石畳のようだ・・・
「って。石畳ってなんだよ!俺の部屋は普通のフローリングだ!」
よくわからない状況に不安が襲ってくる、今自分がどこに居るのか、どうしてこのような状況になっているのか、頭の中でぐるぐる回って自分でもよくわからない状態になっている。
今の状況になる前のことを再度思い返してみる。
俺の名前は、志倉しくら 十誠とうま20歳、大学生で趣味はスマホゲームにネットゲームとラノベを読むこと。両親は共働きで、基本的に家には居らず、兄妹は2歳ずつ離れた兄と妹がおり、兄の影響で漫画やアニメにはまり、兄妹と今期は何が面白いとかよく話している。その影響か友達も同類の濃ゆい趣味の同志たちで、女友達など皆無。彼女はシャイなので……二次元の液晶から出てこない!などとよく妄想に耽っていた。 そう、よく居るオタク系大学生だ。
うん、流石に自分のことはわかるな。ふと、手に持っていたスマホ画面を見てみるが……。バッテリー18%、携帯電波は圏外、わかっていたけどWIFIも繋がっていない。
「やっぱ圏外だよなー、一体どうなってるんだ……」
もうなんか、よくわからない。ネットを開いてみたが繋がるわけもなく、アプリのゲームを起動させてみるが、通信状態を確認してくださいと繰り返し表示される。
とりあえず、動いてみるしかないかな。さっき見えた壁の方へ歩いていってみるが、思っていたより広いようだ。
しばらく歩くと巨大な壁が見えてくる。壁も床と同じような石で出来ております、近づいて触るとひんやりとする。
周りを見渡しても扉のようなものは見当たらず、どちらを向いても石の壁が広がっている。
そしてふと天井を見上げてみると、天井は壁から離れるごとに徐々に高くなっているようだ。
「もしかして、さっきいた場所が中心なのか?」
そう思い、俺は来た道を戻り反対側まで向かってみた。最初にいた位置に向かって天井が高く、そこから壁に向かうにつれて天井が下がっているようだ。そのまま、反対側の壁があると思われる方向に歩いて行く。
そして見えた物は、壁ではない巨大な長方形を二つくっつけた様な物の輪郭が目に留まる。それは、金属で作られてると思われる巨大な扉で、左右に向かい合う竜の姿が描かれていた。
「おー。立ち姿の、剣と杖を持った竜なんてまた変わってるな。そして無駄にでかいな。」
儀仗兵のように、剣と杖を掲げる2匹の竜。何を意味しているか全く分からないが、結構かっこよく見える。
「だ……さま。じゅん……した。」
扉の向こうから、人の話し声が聞こえてくる。そして……
「そこに、どなたかいらっしゃるのでしょうか?」
扉の向こう側から、落ち着いた老人のような声が聞こえた。どう対応しようか少し迷ったが、このホールのようなところでは隠れる所はないし、自分に何が起こって今ここがどこなのかもわからない。ここで返答しなかったら死ぬまでここに居ないといけないかもしれない恐怖もあり・・・
「え、ええー、居ますよ。こ、ここって どこですか?」言ってからすごーく後悔した、なんかすごくまぬけみたい……
扉の向こうから、ざわざわ話し声と人が動く音が聞こえる。
「いろいろお聞きしたいことがあると存じますが、扉を開けますので、少し離れて頂いてよろしいでしょうか。」
俺は、急いで数歩下がって扉が開くのを待つ。
少しの間を置きギギギギギギギ、錆びついていたのか、異音を発しながら扉が開いていく。開いてくる扉から、明かりが溢れてくる。急に明るくなり、眩しさに手で顔を覆い隠す。そして、目が慣れて前を見ると。
中央に、身なりのいいなんとなく偉そうな老人、そして周りに大勢の兵士が居た。
兵士たちは、小さな声で「本当にいたよ。」とか「どうするんだこれ。」とか呟いている。
なんか微妙な雰囲気だな、俺ってこれからどうなるんだ?大勢の兵士を連れているし、もしかして捕まってほっぽり出されたり、牢屋で監禁されたりするのだろうか。真っ暗なよくわからない部屋から出られそうと安心していたら、急に不吉なことを考え出してしまった。
そんな考えを読んだのかわからないが、初老の老人が咳ばらいをした。
「まずは、こちらへ来ていただいてもよろしいでしょうか。色々とご説明いたしたいと思いますので、付いて来てくださいませんか?」
「わ、わかりました。」
「ありがとうございます、それではこちらの方へ。」
老人は、こちらに対して丁寧に対応してくれているようだ。付いて行くしかどの道選択肢もないし、わからないことだらけで聞きたいこともあるしね。
部屋から出た先は、ちょっとしたホールのような場所で、人が100人は入れそうな広さだった。壁や天井は豪華に装飾されており、昔どこかで見たダンスホールのような煌びやかな雰囲気で、周りをきょろきょろ見廻してしまう。
「それでは、参りましょうか。」老人は慣れた様子で、ついて来るよう促してくる。
俺が躊躇いがちに老人の後を付いて行くと、後ろから兵士たちもぞろぞろと付いて来る。誰も話さず、無言のままホールを歩いていく……
「結構怖いんですけど……」俺は、誰にも聞こえない様に小さく呟き老人の後を追った。
ホールを出ると、長い廊下が続いており窓から日の光が射し込んで、先ほどの真っ暗で冷えるような部屋とは違い、春のような陽気を感じる。
建物もそうだけど、窓から見える景色には日本では見たことのないような景色が広がっている。
しばらく付いて行くと、老人がある部屋の前で止まりこちらへ振り返る。
「しばらくこちらの部屋でお待ちいただけますでしょうか。」老人が言うと、扉が開き中から初老執事と年若いメイドが出てきて一斉にお辞儀をする。
俺が、今まで経験したことのない状況に固まっていると。
「ようこそおいで下さいました、どうぞこちらへ。」
執事が部屋の中へ入って行き、俺も後に続いて入って行く。部屋の中はかなり広く、部屋の真ん中には大きめの机とソファーがあるが狭さを感じさせない。
壁には高価そうな絵画、壁際の棚のようなところには壷や見たこともない貴金属が並べられている。
「こちらへお掛けください。」
落ち着きなく、周りを物珍しそうに見ている俺に、執事が奥のソファーへ座るよう促してくる。
ぎこちなく、よくわからない笑顔をしながら俺がソファーへ座る。体が沈み込みそうなほど柔らかいソファーに、一瞬腰を浮かせそうになるが何とか腰を下ろす。
「お飲み物は、何がよろしいでしょうか?」声の方へ振り向くと、いつの間にか台車を引いて立っていたメイドが、俺に笑顔を向けながら聞いてくる。
「か、可愛い」
無意識に声が出てしまった俺は、顔に血が上っていくのがわかる。さっきは気が付いていなかったが、メイドは物凄く可愛かった。
セミロングの黒髪に、整った顔立ち。テレビで見たアイドルよりも可愛い、そんな子がこちらへ笑顔を向けていたのだから、女友達すらいない俺はメイドを凝視したまま固まってしまった。
メイドは固まった俺のことを、一瞬困った様な顔をしたが気にした様子はなく、台車から小さな板切れの様なものを取り出してくる。見た目木製の写真立状な物を、俺の前に差し出してきた。
「この中から、お好きなものお選びください。」さっきもそうだったけど、このメイドは目をしっかりとこちらに向け目を合わせて離してくるため、さっきから物凄く照れ臭い。
差し出された、板切れには『見慣れた』文字で書かれていた。
『珈琲 温 冷』
『紅茶 温 冷』
『 果実のジュース』
『 牛乳』
やっぱり、これは何かのドッキリか! この異常な状況に、急に日常が混ざり合い、開いた口が塞がらなくなり面白い顔のまま固まった。
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