第8話 失敗勇者と旅立ちの準備
勇者様が持っている、すまーとほん?とかいうのを動かすのに、なにかぐるぐる回して楽しそうだなって見ていたら勇者様がぐるぐるやらせてくれた。
ぐるぐるまわすと、明るくなって私じゃ良くわからないのだけど光が付いているからそのまま回していれば良いって言われたのでぐるぐる回してるの。
ぐるぐる回していたら、司祭様がやってきて勇者様とアイリス様が一緒にお出かけしていっちゃった。
カトレア様にそのままぐるぐる回しているように言われて、ずっとぐるぐる回しているんだけど、ちょっとあきてきたった。
でも、これもお仕事だから頑張らないといけないよね。
byリリー
アイリスは、セクメトリー様をとても崇拝しているようだ。
それはともかくとして……アイリスの心の声をが聞こえてしまっているのだけど本当に大丈夫なのか。
「大丈夫ですよ、あなたに直接話す言葉はこの子には聞こえませんし、あなたの思考がこの子に伝わる事はありませんよ。それにこれならこの子の本音が聞けますよ」
流石にそれは、良くない無いんじゃないかな……。
いやね、実際聞いてみたいと思いますよ。
でもね、ほら、興味があるだったら良いけど、無関心とか嫌いだったらすごく悲しいんでけど。
でも……まあ……ちょっとは知りたいよね……いやいや、でも……。
そんな俺の思考を読みとり、セクメトリーはクスクスと俺にしか伝わらない笑い声を出す。
からかっているの何か他の企みがるのか分からないが、セクメトリーはそのままアイリスとの会話を続ける。
「アイリス、前にも言いましたがそう畏まらなくても良いのですよ。あなたは先代勇者の従者として勇者を支え、世界を救った英雄の一人なのですから」
「恐れながらセクメトリー様、私は勇者様只の従者です。世界を救われたので神々と勇者様、そして勇者様の他の従者達です。私は勇者様達の手伝いをしていただけに過ぎません」
「ふふふ、相変わらずのようですね。まあいいでしょう。話は変わりますが、アイリスは此度召喚された勇者に付いてどう思いますか?」
俺が聞いていい物か迷っているうちに、セクメトリー様はアイリスになんかとんでもない事聞きだし始めた。
しかもドストレートにどう思いますかって、どうも思ってなかったら――いや、普通あって数日の人をどう思うもこうも無いだろうから……でもそうだったら……しょぼん……。
「シクラ様ですか……とても紳士的な方だと思います。」
アイリスは少し考えてからそう言うが、俺とセクメトリー様には心の中の声は丸聞こえである。
(シクラ様は奥手過ぎますね。私達とあまり目を合わそうとしないし、先日の浴場では気を失ってしまいますし。勇者なのですからもう少ししっかりしている方だと思ったのに……それに私を可愛言っていましたが女性と付き合ったことが無いご様子、。もしかして周りに女性が全くいない所からいらしたのでしょうか? )
……はい、心の声が聞こえるって怖いですね。
いやはや滅茶苦茶言われてますよ。
というかしょうがないでしょ!?
現実世界じゃ女の人と話す機会なんて家族以外に居なかったし、メイド達はみんな可愛いんだからまともに話せるわけないじゃないか。
「そうですか。それでは先ほど私と勇者が話していたことは理解できましたか」
「私にはセクメトリー様の声が断片しかわかりませんでしたが……シクラ様が今すぐには帰還できないと言うこ事と、信仰を集めれば帰還が可能と言うことは理解でしました。それと……シクラ様が女性とお付き合いしたことないと言うことも」
最後の言葉は少し言いずらそうだったが、さっきまで話していた内容でわかっていることをセクメトリー様に伝えていた。
セクメトリー様に聞かれた事を答えているだけなんだけど……アイリスさん、少し手加減してください……。
でもしょうがないじゃないか、俺は元の世界ではモテなかったし。
この世界でも変わらないだろう……というよりもこの世界の方が余計にモテないんじゃないだろうか……周りは皆西洋風の彫の深い顔なのに、俺は完全に平たい○族……容姿か違いすぎる。
まあ勇者ならそれでもモテるのかもしれないけど、俺は勇者ではないし世界を救うことも無いだろうから……モテキは来ないだろうね……トホホ。
シクラはモテないモテない言っているが、実際には容姿は普通なので別段嫌悪されているわけではない。
勘違いしている人が多いだろうが、モテないと言っている人の多くは口を開けていれば餌を貰えると思っている魚と一緒なのだ。
もちろん見目麗しい人であれば勝手に寄って来るだろうけど、そうでもない一般人は自分から動かなければ出会いや結果に結びつかないだけなのだ。
ただそれを理解するにはシクラはそう言った経験が無く、周りに行動的な人が――居ない訳でなはいだろうがそう言った場に出たがらないのが原因だろう。
因みにこの世界での男性は一般人は結構積極的であり、産めよ増やせよ地に満ちよって感じでそれが普通なのだ。
まあ、貴族で言えば政略結婚は当たり前だけど――身分や派閥さえ問題なければお互いガンガン行くスタンスなので、もしシクラが貴族になればあっちゃこっちゃからお見合いや女性からの猛烈なアタックが来るはずだ……まあ、今のシクラはそれを知る由もないので仕方のない事ではあるが。
「ではアイリス、シクラのこれからの事を皆に説明し、手を貸してあげなさい」
「かしこまりました。国王様へ報告し、今後の対応を相談してまいります」
俺が色々考えているうちに、セクメトリー様はアイリスの話しは終わったようだ……俺は全く聞いていなかったけど。
いや、聞いてはいたけど心が――ぼろくそ言われてそうで馬の耳に念仏状態だったんだよね。
「アイリス最後に一つ、聞いておきたいことがあります」
「はい、何なりとお聞きください。」
セクメトリーの声が先ほどまでとは違い、何故か妙に楽しそうな感じに聞こえて――俺はかなり嫌な予感がした。
だって、さっき俺をからかってた時と同じ様な声色なんだもん。
「シクラがこの世界に残ったとしたら、結婚し子を成すことは出来ると思いますか」
あーーー! マジで変なこと聞きやがっ……いえ、聞いてしまいましたね!?
「遠方の国ではわかりかねますが、このイオリゲン王国や周辺国では引く手あまたかと思います」
これは……もう駄目だと内心考えて聞くのを拒否しようかと思ったが、想定外の答えに心臓がバクンと跳ねるのを感じた。
「だそうですよシクラ」
アイリスは、セクメトリーが何故そんなことを聞いてきたのかわからず首をかしげる。
前勇者もそうだが、アイリスからすると勇者は身近に控えてはいるが手が届かない人達なのである。
実は――この世界では十誠以上の好物件はほとんど存在しない。
召喚の時期がずれて勇者として魔王討伐はしないが、勇者として召喚されたこと自体が重要なのである。
召喚を願うのは人だが、実際に勇者を選定し召喚するのはあたりまえだが神である。
そして、神々と対話が出来るのは勇者とその血を引く子孫だけなのである。
これだけでも十誠の価値は計り知れない、なぜなら本当に神がいる世界だからだ。
アイリスがセクメトリーとの会話をシクラを通さずにでも断片的に話せるのは、彼女の先祖に勇者の血が流れているからだ。
この血の濃さで会話できるレベルがかなり変わり、勇者の直系の子供ならどこの宗教の派閥でも大手を振って迎え入れたい存在なのだ。
そして一番重要な事柄――人格的にも召喚された時点で性格がおかしい人が召喚されることはないと言う事だ。
実際に会って居なくて人柄が分からなくても間違いないのである。
勇者とはこの世界を救う者である。
世界を救うにはこの世界の住人と協力しなければならない為、容姿もこの世界で好かれる容姿の者が選ばれるのである。
召喚された勇者とは地位、性格、容姿、そして実は力もあり、全てがこの世界基準では揃っている最高峰の存在なのである。
ただし、この事実を十誠が知るのはかなり先になる。
アイリスが十誠の事がモテると本気で思っている事はわかったが、アイリスが前勇者をかなり尊敬しているのを知っているせいで、勇者信奉者のアイリスの勘違いだろうと結論付けてしまったのだ。
「結婚とかは置いておいて……今後どうするか色々検討して再度来ます」
「そうね、どちらを選ぶにしても支援はします。よ~く考えていらっしゃい」
最後にからかってすぅっとセクメトリーの気配が部屋から消えていく。
壁画を照らしていた光が消え、部屋も元の明るさに戻っていく。
アイリスから手を離しため息を付きながら天井を見上げていると、待ち構えていたかのように司祭から声を掛けられる。
「シクラ様。セクメトリー様とのお話を詳しくお聞きしたいのです、まずは腰を落ち着ける場所へ行きましょうか」
教会からお城の応接室まで戻ってきた、この部屋には先ほどの聖堂に居た人しかいない。
教会でもいいんじゃないかと思ったが、まともに接待するような部屋が無いらしい。
先ほどの話を大臣と司祭に説明したが、二人ともかなり困惑していた。
「シクラ様は、どうされるおつもりですか」
「元の世界に帰る方向で考えています」
大臣の言葉にきっぱりとそう答える。
え、だって娯楽のない世界で一人寂しく生きたくないしね。
自分の中ではもう完全に一人ひっそりと暮らして、一人寂しく一生を終えるイメージが出来てしまっていたので、一人でもサブしくない元の世界に戻りたいのだ。
「左様ですか、それでは私は国王様に今回の内容をお伝えしてきたいと思います」
大臣は俺答えを聞いた後、今後俺に対してどうして良いのか判断が付かないようですぐさま部屋を出て行った。
ただ、すこしがっかりしているようにも見えてしまったのは見間違いだろうか。
「ではシクラ様は今後、神々の信仰心を集めに旅に出られると言うことですね」
退席した大臣の代わりに司祭の人が話を進めてくる。
「そうなりますね、神様達に祈る人が増えれば俺も早く帰れるそうですからね。ただ、どうしたら祈る人が増やせるのかがわからないんですけど、帰るのを諦めたくはないんです」
司祭は「どうしたものでしょうか」と言いながら一緒に考えてくれた。
アイリスが淹れてくれた紅茶を飲みながら、三人で色々考えてみた。
信仰心とは一体何なのか。
どうしたら集められるのか――効率良く集めるにはどうしたら良いのか。
旅の目的地は何処にするのか。
一人旅では色々と難しい為、仲間をどうやって集めるのか……などなど。
まず肝心な信仰心とは――だが。
簡単に言えば神に感謝するという事である。
信仰心を集める方法は司祭で有ればいろいろな場所を周り、怪我や病気の治療をして行けば良いのだが――俺は魔法が使えないし病気も治せない。
勇者というネームバリューを使い、世界平定の為に旅をしていると回るだけで良いのではないかとの事。
魔王討伐は成されたが魔王による魔物の活性化や増加、それによって困っている街や村々も多いとの事。
魔物の退治や困り事を解決していけば、勇者を召喚した神々へ感謝して信仰心が溜まるだろうとの事。
問題点は俺が戦った事がないや加護を受けた場合に、どの程度の強さが得られるか。
それによって対応が変わってくるのでこの件は後日また相談となった。
旅の目的地だが――他の神々の神殿を周り助言を受ける事をした方がいいとの事だ。
他の神々も信仰心が必要だろうから、こちらから協力を申し出れば神々も協力してくれるだろうとの事。
回る順番はセクメトリー様と相談した方がいいとの事だ、順番を気にする神が居た場合いい顔をしないだろうからとの事。
そう言いながら、司祭の人の表情からは確実にそういったことを気にする神が居ると言うのが伝わってきた。
そして最も重要なのは仲間だが――これについては国王様と相談した方がいいだろうと言う事になった。
人員や移動手段それに金銭についても相談しなければならないし、俺はこの世界の常識が無さ過ぎて危機管理が出来る人が必要と言う事だ。
暫く話し合っていると、大臣が戻って来たので先ほどまでの内容を説明する。
「先ほど国王様と相談して参りました。全面的にとは申せませんが、ある程度なら支援させて頂けるようです」
「ありがとうございます。明日には再度セクメトリー様に拝謁して旅の準備をしたいと思うのですけけど、この世界に付いて疎いので旅に何が必要かがわからないのす。そのあたりを相談できる方を紹介して頂けませんか? 」
「それでしたらシクラ様の側仕えのアイリスが詳しいと存じます。あの者は、勇者様と旅をしていたのでその辺りは詳しいかと」
大臣はちらりとアイリスの方を見ると、アイリスは頷き必要なものを集めてくれるとの事だ。
装備は俺が何が出来るか分からないため、セクメトリー様から加護を貰ってから決めるとの事になった。
金銭もある程度国が出してくれるとの事で、その中で装備や食料などを購入することにした。
とりあえずの目的地は、イオリゲン王国より東にあるウグジマシカ神聖国である。
ウグジマシカは過去の勇者たちもまず初めに訪れる国であり、七柱の神々それぞれの教団支部があり宗教色が強い国だが、首都には第一神タケミカヅチを祀る教団本部があるとの事だ。
神々に序列があるため世界各地を回るなら首都のタケミカヅチ教団本部に赴き、タケミカヅチ様に拝謁しないと他の神々が拝謁を許可しない事があるそうだ。
ただし、元の世界と違い道路は整備されていないし、移動手段も徒歩か馬車の為ウグジマシカ国に入るまでに徒歩で十日、首都までさらに十四日も移動にかかるらしい。
移動だけでも一苦労だが、明日には加護でどの程度戦えるのか確認しないといけない。
過去の勇者達は訓練等しなくても剣術や魔法が使えるようになるとの事で、俺の場合はどの程度の加護なのか確認しなければならない。
今後の方針が決まったが、どのみち加護を確認しないとどうしよもないので司祭には明日の準備をしてもらい、大臣には国王様に今回決まった件を伝えてもらうことになった。
アイリスには最低限必要になる物を買出しに街に行ってもらい、ウグジマシカ神聖国までの街道の情報を集めてもらうことにした。
因みに突然の事態で忘れていたが、リリーのおかげで携帯の充電はばっちり回復していた。
その後一人で風呂に入りメイド達に見られながら、ひとり寂しく食事をして就寝した。
寝る前にまたアイリスが護衛に付くとひと悶着あったが、カトレアが今朝の事を仄めかしアイリスを回収していった。
翌朝、着替えと朝食を終えた後再び教会へ向かった。
昨日同様のメンバーだが兵士たちは付いて来ない様だ。
そして、聖堂にて司祭にセクメトリー様を呼び出してもらう。
「あらシクラ、昨日の今日でもう来たので。それで、どうするか決めてきたのからしら? 」
「はい。俺は世界を周って、信仰心を集めて元の世界に帰ろうと思います」
「そう――それで良いのならあなたの考えを尊重しましょう。大変困難な道でしょうけど頑張りなさい。それと先日話をしていた加護をあなたに授けますが、今は私の力が弱くなっている為強力な加護はあなたに与えられませんが――本当に良いのかしら」
念を押すようにそう問いかけるセクメトリー様だが、彼女自身も俺が意見を変えるとは思っては居なさそうだ。
「元の世界には家族もいますし、少なからず友達も居ますから……帰れるのなら帰りたいのです」
セクメトリー様はしばらく何もおっしゃらなかったが、小さくため息を付いた。
「やはりあなたも勇者としての資質を持つ者ですね、困難と分かっていても進み、そしてあなたならそれを乗り越えられるでしょう。それではシクラ、私の壁画に手を付き目を閉じなさい」
セクメトリー様の指示通りに壁画に手を付き目を閉じる。
「我は第四神にして、勇者を導く神セクメトリー。勇者シクラトウマに我セクメトリーの加護を与える」
目を閉じていたにも関わらず、眩しさを感じさせる光が俺を包み込む。
直ぐに光は消え、元の明るさに戻ったようで目を開ける。
「これであなたに勇者の加護を与えました。しかし、本物の勇者の加護程の強さは無いので気をつけなさい。旅をしながら、人々を救い信仰心を集めて来なさい。他の神々もあなたの事を気にかけてはいますが、今はまだ力を貸すことが出来ないようです。ただ、あなたが信仰心を集めて行けば、他の神々もあなたを助けてくれる事でしょう。さあ行きなさい、あなたの旅路に幸あらんことを願います」
「セクメトリー様、ありがとうございます。必ず、神々の信仰心を集めて参ります」
こうして、神の加護を受け旅立ちの準備は着々と進んでいくのであった。
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