第10話 手

 彼女に告白してから10日後、クリスマス・イヴ。たまたま土曜日だったので、2人で大阪のハリウッド映画を題材にしたテーマパークに行った。実はここに来るのは2回目で、春にあった校外学習で訪れている場所でもあった。


 お互いに園内を多少知っているので、心のゆとりもあった。ただ、日付と曜日の関係から中の人は校外学習の比ではない数で、どのアトラクションも短くても1時間以上の待ちが必要だった。


 ナオと私服で会うのはこれが初めてだった。その日は特に冷え込んでいたために、オレは黒のダウンジャケットを、彼女は襟にファーの付いた白いコットンコートを着ていた。顔も少しだけ化粧をしていて、いつもとまた違った印象の彼女がとても魅力的に映った。


 乗れたアトラクションの数は少なかったけれど、園内を歩くうちにオレたちは自然と手を繋いでいた。それがとても嬉しくて幸せだった。


 陽が沈んだ頃、クリスマス期間限定のパレードが催されており、2人でそれを見にいった。色とりどりに光るフロートが次々と現れ、誰もが知っている映画のテーマソングとともに夜を彩っている。

 オレたちはパレードが通る道の最前列に並んでしゃがみ、それをじっと眺めていた。オレは時折ナオの方を見ては、フロートの光を目に映す彼女の顔に見惚れていた。



 夜の9時過ぎ、彼女の家の最寄り駅でオレたちは別れた。夜はますます冷え込みが厳しくなり、ナオはオレがプレゼントした手袋をはめていた。


 電車のホームでの別れ際、オレは彼女と初めての口付けを交わす。首の後ろにまるで電気が走ったような刺激を感じた。オレにとっては初めてのキス……、後日、ナオにとってもそうであったと知る。

 閉まる扉の隙間から「今日はありがとう」とナオの声が届いた。


 今思い出すとキスをした後、車内に残されたオレは他の乗客の注目の的になっていたのではないだろうか。当時はそんなこと考える余裕もなく自分の世界に浸っていたような気がする。



◇◇◇



「べーちゃんは、今付き合ってる人とかおるん?」


 ナオはウーロン茶のグラスを片手に、横目でこちらを見ながらそう言った。身体から冷や汗とも違った妙な汗が流れてくる。なんとなくだが、そのうち聞かれる質問だとは思っていたのだ。


 オレは彼女からもらったウーロン茶の残りを一気に飲み干してから返事をした。なぜかナオの顔を直視できなかった。


「……今は誰もいないよ」


 彼女は相変わらず横目でこちらをちらりとだけ見た。少しだけ頬を緩めて笑ってから口を開いた。


「そうかぁ……、べーちゃんなかなかの優良物件やと思うのに勿体もったないなぁ?」


 話の流れから、逆にナオの方はどんなんだと聞こうと思ったが、オレはその答えをすでに知っている。彼女が隣りに座って左手を見たときからそれには気付いていたから。

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