第6話 部活動
平原とは高校1年の時、部活動で知り合った。オレは硬式テニス部に入って彼女はそのマネージャーだった。決して強豪校というわけではなく、オレ自身もそれほど上手いわけではなかったが、練習は熱心に取り組んでいた。
当時、1年生はマネージャーの平原を含めても5人しかおらず、少人数ゆえにとても仲が良かったのをよく覚えている。
「私、運動音痴やから練習してもあんまりうまくなれへんのよ? 昔から足も遅いし、体力もあんましあれへん。せやけど、テニスはずっと前から好きやから」
たまたま練習中2人になったときに、マネージャーをやっている理由を聞いてみた。彼女は中学校で軟式テニスをずっとやっていたそうだが、あまり上手にはならなかったそうだ。
「ボールの行方追っかけてるだけでも楽しいんよ。べーちゃんとかみんながどんどん
たしかに彼女はお世辞にも運動神経がいいタイプとはいえないだろう。練習を少し手伝ってもらったときにそれは感じていた。ただ、ひょっとしたら心のどこかでラケットを握ってみたい気持ちもあるのでは――、とも思った。
オレはあまり深い考えもなく単なる思い付きで、練習が終わってからちょっとだけラリーをしてみる提案をした。
練習終わりには、いつも1年生がネットの片付けとコートの整備をして帰るのだが、その時間を少しだけ後にしたらいい。短い時間なら文句を言うような仲間はいないと思った。
「べーちゃんとかみんながええんやったらやってみたいけど――、私、みんなが思てるよりずっと下手やと思うよ?」
そう言われると逆にどの程度のレベルなのかに興味がわいてくる。同じ1年の部員に話をしてみると、むしろ乗り気になってくれた。
こうして、1日の部活動の終わりに15分程度、彼女と軽くボールを打ち合う時間が始まった。
もちろん、それはオレだけではなく、1年の部員はみんな揃って付き合ってくれた。それを始めたのは、たしか梅雨が明けたくらいの時期だったと思う。
◇◇◇
「べーちゃん、1年生の時、残ってテニスのラリーしたの覚えてる? あれ、めっちゃ楽しかったんよなぁ」
忘れるはずもなかった。それをきっかけにオレは平原を好きになったのだから。
彼女は軟式の経験者とは思えない動きだった。軽いラリーでも空振りしたり、明後日の方向に打ち上げたりと……、なかなかの腕前を誇っていたのだ。
ただ、決して上手ではなくても彼女の表情はとても楽しそうだった。無垢に懸命になってボールを追いかけるその姿はとても眩しくて、愛おしかった。何度もその姿を眺めていくうちにオレは彼女に惹かれていった。
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