第15話 幸せ
オレたちは四条の駅まで辿り着いた。時間は夜の9時半を少しまわっている。駅の改札口までの少しの間、無言で並んで歩いた。
「今日、べーちゃんに会えてホンマによかったわ。ようやっと謝ってもらえたしなぁ」
ナオは意地悪そうに笑いながらそう言った。散々泣きながら謝ったオレはもはや苦笑いしか返せない。
「ナオが幸せそうで本当によかった。それと――、許してくれてありがとう。10年背負った重しをやっと降ろせた気分だよ」
「べーちゃんが勝手に背負たんやろ? 次に付き合う子にはこないなことならんようにせなあかんで?」
ナオは、電車の時間を示した電光掲示板にちらりと目をやった。その後に少し寂し気な笑顔を見せた。
「ほんなら……、次の同窓会あったらまた話そうな?」
そう言って改札を潜ろうと背を向けた。オレは1つ言い残したことを伝えようとその背中に声をかけた。
「ナオ! オレの連絡先、スマホから消しといてくれないか?」
彼女は不思議そうにスマホの画面に目をやった後、軽く首を傾げた。
「別にええやろ? 私とべーちゃんは友達なんやから。また話したいときあるかもしれへんし?」
「学生時代の話とはいえ、元カレの連絡先なんか残してたら婚約者さんはいい気分じゃないはずだ。いいから消しとけって」
「ふーん……、男ってそういうもんなんか? みみっちいなぁ」
「そうだ、男はみみっちい生き物なんだ。ナオの婚約者さんだって例外じゃない」
「そうか……、まあどうしても必要なったら誰かに聞けるしなぁ。べーちゃんがそう言うならそうするわ」
それだけ言って彼女は改札を抜けて、その先の階段を下って行った。オレは心の中でナオの幸せを願っていた。そのために、オレと彼女はもう2度と会わない方がいいと思った。
それはナオに幸せのためであり――、オレ自信のためにもだと自分に言い聞かせた。
誰もいなくなった改札の前を後にするとき、かすかに金木犀の香りが鼻を掠めた。
そして、この先オレは、平原奈央と2度と顔を合わせることはなかった……。
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