第16話 終

『願いが叶うのを忘れる……? ですか?』



 運を司る神様らしき存在は、オレの言ったことが今一つ理解できなかったようだ。


「願い事をなんでも叶えられた、――って覚えてるから後悔するんだ。今、どんなにいい願い事を思い付いたとしても、この先絶対に後悔する。『やっぱりああしとけばよかった』ってな?」


 高校生の時、付き合っていた彼女と「願い事」について話し合った。その時彼女はこう言ったのだ。


『なんでも願い叶えられた、なんてのを忘れてしもたらきっと一番幸せやって』


 その言葉に、妙に納得させられたのを思い出した。けれど、あくまで「忘れている」だけであって、願い事が叶う効力は所持しているわけだ。



『つまり、この先あなたが無意識に、最初に願ったことが叶えられる、というわけですね?』



「ああ、もしそれができるならそうしてほしい」


 オレは虚空に向かったそう話しかけた。



『わかりました。夢から覚めたあなたが地球滅亡とか願わないことを切に祈っています』



◇◇◇



 オレは蒸し暑くなった自室のベッドで目を覚ました。時間は午前6時30分。なにか奇妙な夢を見ていたような気がしたが、その内容はまったく思い出せなかった。




―完―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終わった恋とひとつの願い事 武尾さぬき @chloe-valence

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ