第2話 お盆

 とても蒸し暑かった。タイマーを設定していたエアコンは切れている。カーテンの隙間からわずかに朝日が射し込んでいた。ベッドに寝転がったまま手探りで、近くに転がっているスマホを手にとり、今の時間を確認する。


 午前6時30分、思っていたよりずっと早い時間に目を覚ましていた。なにか奇妙な夢を見ていたような気もするが、その内容をまったく思い出せない。もうひと眠りしようかと目を瞑ったが寝付ける気配もない。結局、そのまま起きることにした。



 8月11日、今日からお盆休みに入り、15日まで会社は休みだ。普段は7時頃に起床して仕事へ向かう準備をしている。まさか、休みの日でいつもより早い時間に目が覚めるとは思わなかった。


 カーテンを全開にすると強い光が部屋の中を照らす。思わず目を背けてしまった。ついでに窓も全開にすると、かすかに涼しい空気が部屋に入り込んできた。

 だが、「快適」と呼ぶにはほど遠く、オレは早々に窓を閉じてエアコンのスイッチを入れた。冷風とともに若干のかびくさい臭いが漂ってくる。エアコン掃除はされているのか疑問に思った。


 オレはお湯の温度を30℃に設定し、熱くも冷たくもない温度のシャワーを浴びて体の汗を洗い流した。これでようやく覚醒したような気がする。

 バスタオルで適当に頭と体を拭いて、トランクスだけを履き、改めてスマホを見た。髪の毛は生乾きのままだ。


 画面の時計表示の右横に旗のマークがついている。スケジュールが入っていることを知らせてくれるアイコンだ。ただ、その中身をあえて確認はしなかった。わざわざ確認しなくても忘れるはずないからだ。


 ひとつ息を吐き出して、テーブルにスマホを置いて冷蔵庫を開けると、すると、今置いたばかりのスマホが耳慣れた音楽を鳴らし始めた。時間は7時ちょうど、会社に出勤する際に起きる時間だ。アラームを切り忘れていたのに今更ながら気付くのだった。




 オレの名前は坂部さかべ 由伸よしのぶ、今年28になる。生まれも育ちも京都だが、大学進学の際に東京へ引っ越した。大学卒業後は、東京の大手広告代理店に営業職で就職している。5年間東京で働き続けたが、6年目の今年、会社の意向で地元の支社へと転勤になった。


 今は、転勤先から電車で2つ離れたところにワンルームのマンションを借りて住んでいる。実家に戻る選択肢もあったが、この歳になって両親の世話になるのは気が引けた。


 お盆休みの初日、今日は夜の6時から高校の同窓会に行く予定になっている。学生時代、仲の良かった友人との繋がりは残っており、同窓会の誘いも今回で3度目だ。

 ただ、過去2回は東京に住んでいる時で、地元へ帰る予定もなかったために参加できなかった。3度も続けて欠席となると次回から誘い自体が来なくなるのではと不安に思ったものだ。


 先日、友人に参加の旨を伝えると、会場と時間、そして参加メンバーの名前が一覧になって送られてきた。特に仲が良かった数人のクラスメイトの名前を見つけ、思わず顔が緩んでしまう。


 しかし、その後見つけた名前によってオレの心はざわついた。


 「平原ひらはら 奈央なお」……、高校時代に付き合っていた恋人の名前を見つけたからだ。

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