終わった恋とひとつの願い事
武尾さぬき
第1話 夢
『願い事をなんでもひとつだけ叶えてあげますよ?』
――これはなんだ? 夢か……? 夢を見ていると自覚できる夢なのか?
オレはなにもない真っ白な空間で、どこからともなく降り注ぐ声を聞いていた。その場所といい、声といい、どこか現実感がない。
『どうしました? 願い事ですよ? 質問してもかまいませんよ? 意地悪な神様みたいに、質問に答えたらおしまいとか言いませんから?』
よくわからないが、夢の中で何者かに願い事を聞かれているようだ。だけど、所詮は「夢」だからオレの頭の中にある幻影なんだろう。
しばらく無言でいたが、夢から覚める気配はなかった。問い掛けている主もオレの返答を待っているのか、なにも言ってこない。
「本当になんでも……、どんなことでも叶えてくれるのか?」
なにもない虚空に向かって問い掛けてみた。夢の中には独自の設定があるのか、その物語に沿わないと先に進まないのかもしれない。
『なんでも叶えてあげますよ? ただし、万が一ちょっと無理そうな願い事でしたら変更してもらうかもしれませんけど……。私の能力を授けるとか願い事を増やすとかはダメなので先に言っておきますね』
よくわからないが、なかなかの新切仕様のようだ。無茶振りしても却下されるだけじゃなくて、ちゃんとやり直しもできるのか。
「仮に……、これは一例であって叶えたい願いではないんだけど、1兆円もらえる、とかでもいいのか?」
なんでも願いが叶う、と聞いて真っ先にお金のことが浮かぶなんて我ながら悲しい生き物だと思う。――とはいえ、現代人なら最初に頭に浮かぶのは大体これなんじゃないのか……。
『それでよかったら1兆円差し上げますけど……、きっと面倒なことになりますよ? 、と先に忠告しておきます』
忠告までくれるのか、本当に親切だな。ところで今話している相手は「神様」とでも思えばいいのか、自分の夢ながらなんだかよくわからない。オレは1兆円もらうかはさておき、まずはその忠告とやらを聞くことにした。
『私はあなたたちの言葉を借りると神様みたいな存在なのですが、運を司る存在なんです』
親切な神様は願い事に関する注意点を教えてくれた。
仮に、オレが1億円ほしいと願ったとする。すると、目の前に突然1億円が現れるわけではなく、オレの運気が1億円手にするようにまわるというのだ。
それは道を歩いていたら偶然宝くじを拾う。それが1億円の当選番号だったりする……、といった具合らしい。ただ、それが「1兆円」となると一般的にあり得る偶然では手に入らない。
なにかの間違いでどこかの国家予算がオレの口座に流れ込んだりとか訳の分からない事態が起こるのが想定されるそうだ。あくまで「1兆円手にする」とこまでが願いなので、そのお金がどういったもので、その先オレがどうなるかまでは保証されていないらしい。
なかなか夢の神様にしては凝った設定をしている。「運を司る」なんてちょっと現実味があるではないか。
実際に、普通の人が思い付くちょっとした願い事なら、奇跡的な偶然の重なりで大体は実現しそうだ。事実、「1億円」なら宝くじが当たる、という幸運を招き入れたら現実となる。
オレは夢の中であるにも関わらず、願い事を真剣に考え始めていた。たった1つだけ願いが叶うのならオレは一体なにを願うのか……。
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