第8話 恋

 ナオの誕生日は12月14日、その2日後の16日はオレの誕生日だった。高校1年のオレは彼女の誕生日にプレゼントを渡すと共に告白をしようと考えていた。


 同期のテニス部員の中に彼女を気にかけている人がいる。部活のメンバーは全員仲が良く、その中には当然ナオも含まれている。オレが彼女に告白することで、それが成就するか否かに関わらず、部活内の関係を壊してしまいそうで怖かった。


 ただ、オレが思い悩んでいるうちに他の男にナオをとられる方がずっと嫌だと思った。高校生の時にアルバイトをしていなかったので、プレゼントで買えるものには限界があった。

 相談できそうな女子の知り合いもいなかったので、自分なりにインターネットで調べて、貯めたお小遣いで買える範囲のものを探した。


 いろいろと思い悩んだオレだったが、最終的にはブランド物の手袋を送ることに決める。ベージ色の見た目は薄くてスッキリしたデザインだが、中は驚くほど暖かくて風を通さないものだった。その分、値段は少し張ったが、数か月前からお小遣いを貯めていたのでなんとか予算の範囲内におさまった。



 放課後、部活動が始まる前のわずかな時間に彼女をテニスコート前に呼び出した。テニス部は、練習前に部室へ集まって簡単な挨拶をしてからコートに移動する習慣があったので、終礼後すぐのコート付近は誰もいないのだ。


 プレゼントを渡した後、「好きです。付き合って下さい」の短い台詞を何度もつっかえながら必死に口に出したのをよく覚えている。今、記憶を辿るだけでも死にたくなるほど緊張した瞬間だった。


 だが、その後にナオが発した台詞の方がより鮮明に記憶に残っている。


「あーあ、負けてしもたわ。私、ちょっとべーちゃんを見くびってたみたいやねぇ……」


 最初は言っている意味がわからなかった。けど、その後に彼女はこう説明をしてくれた。


「私もべーちゃん好きやったんよ? だから……、明後日のべーちゃんの誕生日に付き合って下さい、言おうと思てたん。やけど、先越されてしもたなぁって」


 当時のオレはその言葉にとても驚いた。正直、彼女が自分をどう思っているかは全然わからなかったからだ。


 ただ……、つまりは、両想いだっということか?


 その後、ナオはにっこり笑って「こちらこそよろしくお願いします」と、軽く頭を下げた。オレは飛び上がりそうなほど嬉しかった……、いや、実際に飛び上がっていたかもしれない。



 これは後から聞いた話だが、ナオはオレ以外の同期のテニス部員たちに、「べーちゃんのこと好きなんやけど、べーちゃんは私のことどう思ってるんやろか?」と相談をしていたらしい。


 オレが、同期の部員の中にナオを好きな人がいると思っていたのは、彼女のことをどう思っているか聞かれたからだ。だが、それ自体が彼女の差し向けたスパイだったわけだ。

 オレがナオを好きなのも周囲にはバレバレだったようで、同期の部員どころか先輩たち含めて、いつあの2人がくっつくか、と噂になっていたようだ。


 これをあとから聞かされたオレは、テニス部の誰の顔も直視できないほど恥ずかしさでいっぱいになった。

 でも、前向きに考えればナオとの関係は一切隠す必要がなく、これからはオープンに「恋人同士」として過ごせるのだ。それは、とても嬉しくて誇らしいと思えた。

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