第9話 酔い
ナオは同じテーブルのオレを含めた数人に料理を取り分けていた。だが、自分はあまり食べていないようだ。周りに気を使う性格も高校の時のままだ。
オレは急にあることを思い出して、彼女が取り皿の刺身を食べるのをじっと見つめていた。
「ナオの箸の持ち方、あの頃のまんまだな?」
彼女の箸の持ち方は独特で、料理を挟む動きがとてもぎこちないのだ。もしかしたら、と思って見ていたがやはり変わっていなかった。
「もう! いらんことばっかり覚えとるなぁ、べーちゃんは? そんなんばっかり言うてたら女の子に嫌われるで?」
付き合ってた時もまったく同じやりとりをした。その時の記憶が鮮明によみがえり、ナオの台詞や口調がなにもかも一緒なので笑いが堪えられない。オレは一時飲み食いを忘れて盛大に笑ってしまった。
「ほんまにしょーもないとこまで変わってへんな? そないにおかしくもないやろうて」
彼女は子どもみたいにむくれた表情になってオレを睨んでいる。オレは何度も「ごめん」と言いながら、それでもなお笑いがおさまらなかった。なにか急に、高校時代を引きずっていた感覚が吹っ飛びバカバカしくなった。
そうだとも、10年も前のことをなにを今更考えているんだ。ナオとは恋人同士であったと共に仲の良い友人のひとりでもあったんだ。他のみんなと同様に、旧友との再会を楽しめばいいだけの話じゃないか、と……。
同窓会の席の料理は一通り出揃ったようだ。オレにもナオの元にも改めて話しかけにやってくる人が何人かいた。特に同窓会初参加のオレの近況を知りたがる奴が多いようだ。
オレと同じように新卒で入社した会社をそのまま続けている奴が多かった。だが、中にはもう何度も転職を繰り返してる奴もいたり、すでに結婚している人や子どもがいるなんてのもいた。
お酒の味はまったくわからないが、代わる代わる話す友人に勧められていつの間にかふらふらになるまで飲んでいた。生ビールの3杯目までは記憶にあったが、それ以降はきちんと覚えていない。
周りも、すでに酔いつぶれている人がいたり、すっかりでき上がって大声で笑いながら話をしている人がいたり、座っていた場所ももはや元々誰がどこにいたかわからない状態だ。
酔いがまわって端の席で壁にもたれていたオレは、頬に冷たいものが当たって顔を上げた。すると、鼻先が当たりそうな距離にナオの顔があり、咄嗟に引いてしまって後ろの壁に頭をぶつけてしまった。
「もう――、なにやってんの? おいしない言うてんのにぎょうさん飲むからそうなるやで?」
頬に触れたのは彼女が持ってきたウーロン茶のグラスだ。ふとテーブルに目をやると彼女の席には半分ほど残ったカシスオレンジのグラスがあり、その横にはウーロン茶らしきグラスも置いてある。
「ナオは全然飲んでないんじゃないのか?」
オレは彼女からグラスを受け取ってお茶を一口飲んだ後に尋ねた。ナオは同じくウーロン茶を口に含んだ後ににこりと笑ってから答えた。
「付き合いで飲むくらいて言うたやろ? 酔うたら
頼りなさげな雰囲気ながらも意外としっかりしている一面もある。付き合ってた頃も自分がリードするつもりでいて、逆に彼女に引っ張られていたのを思い出した。
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