4 埒が明かない
*
「――つまり、年貢の納め時ってことかしら?」
丸窓の内側、小首を
二人の頭上に広がる
ややおいてから、玉蘭はぶすくれた顔を
「あらあら。可愛らしいお顔が台無しね。そんな口汚い事ばかり言い続けていたら、あっという間に不細工になっちゃうわよ?」
「はあああ。ったく言ってろよなぁ。どうせ
「じゃあ落ちて見る?」
白梨が袖に半ば隠れたままの手をついと
音に誘われるようにして、玉蘭はぐるり
玉蘭は大げさに「おおお」と
「白梨が言うと冗談に聞こえないんだよ」
「冗談のつもりもないのよ、玉蘭」
白梨はにっこりと笑ってからすっと手を下ろした。
玉蘭は再び盛大な溜息を吐いて、欄干に
「ったく、どいつもこいつも好き勝手言いやがって。一体人の事を何だと思ってんだよーちくしょー! 大体何なんだよ! たかが経血が来ただけでこの変わりようは⁉ 今朝だけで届いた連名の恋文が二百だぞ⁉ もう誰が書いてんのかすらわかんねぇよ!」
「しかもそれが毎日なんでしょ?」
「そう!」
がん! と欄干に玉蘭は両拳を叩き付けた。みしっ、と厭な音がしてその表面がへこむ。
繁殖のために必要とされる
故に玉蘭に
「厭だ、ちょっと壊さないでよ」
「壊れたら直させるよ!」
悪態を
丸窓の外は細い形ばかりの回廊で囲まれている。その回廊を囲むのは朱の欄干。その下段に器用に腰掛けつつ、玉蘭はその上段で腕を組み、
脳裏に浮かんだ恋文の山を思い、玉蘭はその背中心に冷たい
そんなもの、実体験などしたくなかった。自然苦い溜息が口から
「しかもあれ、八割代筆屋の仕事なのな。筆跡見りゃわかるっての。しかもその内五割は一人が
「あら、いいんじゃないの?」
「残念ながら三交埋まってる爺さんだったよ! めっちゃくちゃ文才あるな!」
再び盛大な溜息を
「もー、いつまでも
さすがに愚痴を聞かされ続けるのに
羊の刻を大幅に過ぎた、心地よい春の日だ。毎日とは行かないが、玉蘭はこうしてこの時刻に白梨を訪ねては、彼女のところにあるおやつを失敬している。見ればその指先に摘ままれているのは胡麻油で揚げた
口の中にそれを放り込み、
「俺これ嫌いなのにー」
「文句言わない。人のものを横から盗りに来てる癖して偉そうに」
しかし、白梨はおもしろそうに愛おしげに笑ってそういうのだ。そんなだから自分は甘やかされて調子に乗って、こうして
彼女が小首を
彼女が今年に入って急に化粧をするようになったのが気に掛かっていた。似合わないわけではない。むしろ
だからこそ――その急な変化に困惑していた。
何があったのか
――
玉蘭は、今日もどうしようもないこの
この方丈において玉蘭の唯一の安らぎ――それが白梨なのだ。
白梨は手元の布や針を片付けつつ、自身も口の中に
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