9 龍伯

1 飛翔




 ――俺以外は誰も空を飛べない。だから連れて行ってあげるよ。



 そう言って、ぎょくらんはよく下女達を帝壼宮ていこんきゅうから連れだした。


 女をそのかいなに抱え、玉蘭は軽々と空を飛ぶ。その頭上には、ねり色の天球が広がっていた。


 わずかに黄味がかったその空には、所々に薄紅うすくれない刷毛はけで刷いたような痕跡が残されている。また、その全体はきらきらとさんざめいていた。まるで宝玉の粉を塗り込めたかのようだ。


 果てなき遠景には銀の砂漠に金の河がある。更にその果てを、金剛の如き荒々しいいわおの山脈が囲っている。そして、それらの煌びやかな自然を借景とし、尋常ならざる広大な宮城が、そしてそれを取り巻く城郭都市が、こうこうしく白銀の屋根を輝かせていた。



 たまの黒髪をなびかせて、玉蘭は輝くような美貌と笑顔を風の中にさらす。

 未だいとけなく、全体の線もただただ細い。が、ともすれば腕の中の白銀の髪をもつ女よりも、当人の方がよほど美しかった。


 腕に抱える女は毎回違う。

 それが黙認される程度には、この玉蘭は自由で、そして、



 己という存在のり方を、つかめずにいた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る