5 天照様の花嫁巡りをするの
「それ、もう終わったの?」
窓の内側に置かれた裁縫箱を
「だって、あなたの話長いんだもの。お陰で集中して縫えたわ」
「あらあらまあまあ。お役に立てまして何よりでございますわ」
「何言ってるの。ふつうに邪魔よ」
「――それ、縫っても
玉蘭の指摘に、白梨は珍しく真顔を向けた。これは余計な事を口にしたかと玉蘭はわずかばかりに後悔して唇を
白梨は完全なる『色変わり』がない娘だ。ここ
真っ直ぐな、もの言いたげな視線を、しかし白梨はすっと下げた。それに玉蘭はほっとする。その事実がやや不甲斐ない事には、そっと蓋をして考えない事にした。
「そうね。……わたしがいた証、みたいなものかしらね」
「なんだそれ」
わざと鈍感なフリをして片眉を上げた玉蘭に、「わからないならいいのよ」と白梨は首を横に振った。
「あ、玉蘭」
「はぁい」
「その上手な代筆屋のお爺さん?」
「うん」
「多分、
迷いなく紡ぎ出されたその名に、玉蘭は眉間を
「――なんでんな事わかんの」
白梨は軽く肩を
「彼に代筆を頼んだ連名の中から届けるのが早かった五組を確認しなさいね。まあもう
「お……はい、わかりました」
にこにこと
「でもねぇ、わたし無理ないと思うの。あなた容色は
「ちょ、白梨ほんとにやめて?」
猛烈な寒気がして、玉蘭はぶるりと胴震いした。
「ただ、なよやかさには欠けるのよね。甘えるという
「いやそういうのいいですー」
「でも大事なことよ? 殿方ってねぇ、頼られると自覚以上の能力を発揮するものなの。それが独占することを許された
「それはまあ……わからんでもないけども」
「策略としての手管だと割り切れれば、あなたも上手く甘えたりして立ち回れるでしょ? 逆に、そういう
「だーからー! 俺はそういうのは厭なの! そもそも何で
「あなた、なまっちろい女の子達は大好きな
呆れたような白梨の言葉にぐうの音も出ない。
天を仰ぎながら玉蘭は溜息を
「ああ厭だ厭だ。なんで俺の周りにはこの切なる思いを受け止めて
「だから、あなたが誰彼構わずちょっかいかけるから
その不名誉な事実を知るのは、
白梨の目がじっとりと玉蘭を
「――ねぇ、わたしが気付いてないとでも思ってた? 三か月前にも五人くらい減ったわよね」
ぴーぴぴぴーと視線を逸らしつつ口笛を吹く。頭の後ろで両掌を組んでいるのは
「はあああ」と白梨は肩を落として立ち上がる。白い目でついと丸窓の外、玉蘭の
「ほんとにもう、この娘ったら」
唐突に白梨は、つん、と玉蘭の眉間を人差し指で押した。思わぬ強さに玉蘭は重心を崩し後方へ倒れかける。慌てて組んでいた掌を外して欄干を掴もうとして掴み損ねる。代わりにその手を掴んだのは他でもない白梨だった。
華奢な彼女の手でも玉蘭を引き留められるのは、
「ったあ! 危ねぇ‼」
「ほんと少しは自重して? これじゃわたし、安心して方丈を
思わぬ彼女の言葉に、玉蘭は真顔になった。掴まれた手をぎゅっと握り返す。
「なんだそれ。白梨、
「わたしの嫁ぎ先が決まったのよ」
ざわりと玉蘭の背筋が総毛だった。
「何処に、いや、誰に」
白梨は指先を顎に当てて小首を傾げつつ視線を
「何処にも誰にもわからないわ。いるかどうかを探しに行くの」
「は? なんだそれ」
「え、あなた聞いた事ないの?」
「だから何をだよ」
「
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