9 露涯の子
*
「
そして、今正に
その二色は月の民にとって、どうしても淫靡な心象を残す。また睦言における支配被支配関係を滲ませるため、人によっては蛇蝎の如く嫌い、また人によっては閨房の演出として用いることもあった。それらの全てに南方は嫌悪を覚える質であった。
思いの外、明るい。
そして、広い。
二人の通り抜けた先は、奥庭だった。
ばさばさと風を受けて、紐に渡された洗濯物が舞っている。妓女達のものであろう煌びやかで、しかし実のない衣装と、大判の白い布が多数。その合間を
足元を見おろせば、敷石もない。踏み固められた剥き出しの土の左右に、頑迷なたたずまいの雑草が生えている。布と布のゆらめく間に、ささやかな畑と、茶樹数本が見えた。自給自足の足しとするためであろう。そこばかりが、繁茂に浸食されぬままにあった。
茶樹の葉は健康そのものに見えた。日陰の多さが湿度を守りつつ、また風の通りの良さが洗い物をよく乾かすのかも知れぬ。
そんなことを思った矢先、南方の耳朶をうったのは、耳慣れたやわらかい
洗濯物の滝を抜ける。その先に待っていたのは、白銀の髪をゆったりと無造作に結い上げた、
清らかで朗らかで、未だ乙女のように
無事を確認した安堵半分、怒り半分に、南方は「おい
「ああ?」
訳が分からぬまま、思わず足を止める。すると、
さあっと通り抜けていった風が、その布の上部をめくる。その先に待っていたのは、黒い――髪だった。
思わず南方の喉を、ひゅっと空気が抜けた。
「ごめんねぇ、さっきやっと眠ったところなのよ」
愛し気に、その黒髪に頬を触れさせる
「お前、これは」
かすれ声で問う
何より、この状況が示す事実は一つしかない。
「――
「五年前にね」
その
五年でこの外見ならば、成長速度は五邑そのものなのだろう。
「お前、五年も黙ってたのか」
「ごめんねぇ。あたしも、この子がどうなるものか、わからなかったから」
「相談くらいしてくれよ」
「あなた、思い出したくないかなって」
「賢い
「こうって?」
「黙ってひとりで進めやがる」
「それは、あなたも、一緒」
つん、と人差し指で南方の肘をつつく
しかし、と南方は複雑な面持ちで
生まれくる命に、貴賤や正否などあって堪るかと、そう思う南方がいる。自分達で選んだ事とはいえ、この交間には、どうしても得られない、得られていない、その奇跡を思えばこそ。
決して、
それを南方が実際に目にするのは、これが初めてになる。
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