7 代筆
*
かたりと中細の筆が
馬の毛を用いた、質素だが質のいい筆だ。
筆を手放した指先は使い込まれて傷だらけ。相応の老いが節々の太さと、皺と、手の甲に浮き上がる血管の曲がりに
穂先がその身を横たえたのは、
筆から自由になった手が次に向かったのは、自らの
その手にあるのは
美辞麗句と世辞で飾り立てたような頭の悪い文章など決して書かない。時節を
――つまり代筆だ。
しかも今日だけで五通。要は十人分の恋文の代筆というわけである。
「ううむ」とその眉間に深い皺が刻まれた。
自画自賛だが、出来が悪いわけではない。寧ろ良い。
だからこそ、いかん。
「うん」と一つ咳払いをすると、
普段ならば書き物を終えると、そのまま卓子を前に片膝を立て、行儀も悪く一服と洒落込むところだが、
面倒くさげな仕草と態度を隠す事もなく、
ふぅと、紫煙を外へ吐き出す。
天の
流麗美麗奇跡の
三交を結び、二交を養う身である。
天に上る紫煙は、瞬く間に薄らいで消える。
儚いものだ。まるで
呂公こと
自身にもかつて三交求婚の雨が降った。あの鬱陶しさ腹立たしさ、
つまり、南方は
送り付けられる恋文の山に
自らが嫌悪した経験を未だ若いものに繰り返させるのは、愉快なことではなかった。
「柿の種でも間違えて噛みつぶしたような顔をしているね、
室の戸口側から投げかけられたやわらかな声に、南方は苦い笑みを送った。
「そうでもねぇさ」
南方の視線の先に立つのは
「僕がもう少し賢ければ、僕の「説法」だけでも足りたろうに、すまないね」
「何言ってんだ。お前の頭脳は十分だ。ただ俺の――」
「「大喰らいが過ぎる」」
二人声を
するり、自らの隣に座した
すぅと、「説法」を吸い込む。
極上の知能が南方の生命の糧となり取り込まれてゆく。
南方が引き寄せる腕の力を緩めると、
精気もそうだが、「説法」は脳に近い部分から取り込めば取り込むほど摂取するものの純度が高くなる。南方のような
それでも南方には足りなかった。
幼馴染と二交だけは定めたと断言してから求婚の雨は多少弱まったものの、空きのある一交の座を狙おうとする者は止まなかった。辟易していたところ、塾の講師である南方に「自分はどうか」と弟子の身で
煙管を煙草盆に置くと、
「
南方の問いに「ああそうだ」と
「
「またか⁉」
窓の外、練色の天を一羽の
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