裏切られちゃった……。

***


 つねちゃまに着いていく道中、めっちゃいろいろ考えた。脳内カッスカスな頭で考えた。なんか理由あったんじゃね? って。だってそーじゃなきゃおかしいもん。アタシに黙ってつなちゃまが……なんて。おかしい、はずだよね?

 たとえば、「友情と恋、どっちを選べばいいのぉ~~~~~~!?!?」パターン。これは、つねちゃまも天空くんが好きだったけど、アタシに言い出せなかったパターンのことだ。友だちだから、アタシが傷つくと思って中々言い出せなかったぁ! ってね。やだぁつねちゃまったら、そこは友だちだからこそ言ってほしかったよ、ギュッ!!

 イマジナリーつねちゃまにハグしたところで。次は「実は高校より前からずっと付き合ってたんですアタシが勝手に一人で割り込んだだけです」パターン。これは、実は高校より前からずっと付き合ってたんだけど、アタシが勝手に一人で割り込んだパターンのことだ。実は高校より前からずっと付き合ってたのに、アタシが勝手に一人で割り込んだから割り込んだってわけだ。あー大変。

 どちらにせよ、アタシを思って「付き合ってた」ことを黙ってたんじゃないかって。

 アタシそう考えたの。

 人の考えを想像できるって賢くない? 次の国語のテストついに二桁とれるかも!!

 つねちゃまに連れてこられ、誰もいない教室へ。その頃には、いくらか心は落ち着いてきた。

 やさしさで黙ってたんなら、怒ることないよね。そりゃあ好きな人とシンユーが付き合ってたら微妙だし悲しいけど~……まだあきらめろってわけではないし! 何より裏切られたわけではな


「嫌いだったの」


 ずぎゃーーーーごろごごろごろがっしゃっぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!


 え?

 どした? 外晴れてたのにいきなり嵐来たか?? にわか嵐か?? 嵐ったら気まぐれちゃんだ。ネコみたい。

 ……いえいえ。嵐が来たのはアタシの頭の中です。

「嫌いだったの。あやなのことずっと」

 あ?

「いっつもバカみたいに『自分らしく』って」

 い?

「それだけで生きてけねぇんだよ。見ててイラつくんだよ!!」

 う?

「イラつくから、先に天空くんのこと奪ってやったの!! 内緒でね!!」

 え?

「嫌いな人間傷つけたくてやったの。ざまあみろ」

 お?

「ちょっと!! ひどいよ恒代ちゃん……! あっちゃんと恒代ちゃん、仲良しの友だちだったじゃない! それを裏切るなんて……」

 裏切る。

 裏切り。

 こっちーの言葉で、ようやく分かった。そ……っか。アタシ、裏切られたんだ。全然、理由なんて無かった。仕方ないって許せる事情なんて無かった。ただただ、裏切るためにやったんだ。

 しかも、「アタシが嫌いだから」って理由で。

 しかも、アタシの嫌いなところは「自分らしく生きてる」って部分で。

「こっちーは黙ってて。こっちーも分かるでしょ? 自分らしく生きたいことが綺麗ごとだって。何? それで上手くいったことあんの?」

 すると、怒ってくれていたこっちーが一瞬黙り込んだ。悲しみの色が、その目に映っているのが分かる。そーだよね。いろいろ苦労してきたんだもんね。

 こっちー……。それを分かってたのに、アタシ。

 こっちーもそうだった? アタシを見てて、イラついた……?

 ぞく、と。背中が冷たくなった。やべぇ。一気に世界中のゲロヤバなお化け屋敷を集めた場所に放り込まれたみたいに、怖くなってきた。……違う。お化け屋敷より怖い。

「……それでも」

 こっちーは、言う。

「それでも私は、あやなちゃんの友だち!!」

 こ、こっちー……。

 つねちゃまは冷たい目をして、「そ」と短く呟いた。

「ま、そっちはそっちで勝手にやってて。私はもう見たくもないから。ミジメになるだけだし。ねぇ、アンタにこの気持ち分かる?」

 つねちゃまの声が震えてる。どうして? そんなに一緒の場にいることがつらかったん? 言ってくれればよかったのに!! ズッ友だって思ってたのに!!

「……メンゴ。アタシバカだから、分からない」

 ……アタシも何か傷を叫ぼうとしたのに、責める言葉なんて全く出なかった。口を大きく開くことすら叶わなかった。代わりに飛び出したのは謝罪。アタシの口、ジッパー搭載したか? 口を開くのに手ぇ使わなきゃいけない感じ? でも手も動かないや。錘まで搭載したらしい。ハハ。

 アタシの言葉に、つねちゃまはどんな顔をしたんだろう。うつむいていたから、分からなかった。

 ただただ、声だけが聞こえる。

「最低な女でゴメンネ。あやなも私のことイヤになったしょ。それじゃ」

 淡々と言って、つねちゃまは背を向ける。

 あっけなく裏切りの幕引きをしようとする。ケンカにもならないまま。キャットファイトにもならないまま。こっちーだけが「待ってよ!」と叫んでくれていたけど。

 ぱたん、と冷たくドアは閉まった。

 アタシは茫然と立ち尽くす。こっちーは何か言いたげにおろおろとしていた。

「あ、あっちゃん……」

 ぐっと唇を引き結んで。何を言うか、選ぼうとしてくれてるってことがめっちゃ分かる。こっちー、やっぱいい子だわ。

「き、気にしなくていいよ! 好き嫌いって人それぞれだもん。それに、いくら嫌いだからってやっちゃいけないことがある……!!」

「……ふふ、ありがとこっちー」

 こっちーの言葉で、やっとアタシは現実に戻ってきた。ハロー現実。向こうの景色は何とも綺麗で静かな世界だったぜ。それに比べて、ここは混とんとしているねぇ。混沌としてるのはアタシの心か。ハハハハハ……あれ、グッバイ現実。またアタシ今どっか行こうとしてたな?

 はー、どちらにせよ、自分が思うよりよっぽどショック受けてたんだなぁアタシ。

 それほど天空くんが好きだったし。

 当然、つねちゃま……ううん、ツネヨのことも好きだった。

 しかも「だった」じゃないんよ。今も好き好き大好き。だから困ってんの。も~どうしようね。これ。

 アタシはしばらくだまりこんでから。

 そして、一言。


「アタシね、人生ってたたいてかぶってじゃんけんポンだと思うのよ」

「へっ?????」

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