語彙飛んじゃった!!

***


 放課後、アタシたちは和菓子屋「つむぎ」にやってきた。

 おいしー和菓子があるから食べよって約束したアレね。カザンも誘ったんだけど、なんか目ぇ泳がせて「私は……イイや」って断られた。どしたんアイツ。


「ここの和菓子ねぇ、マジでやっばいんだよ!!」

「やばいの?」

「うん、やばい。何がヤバいっておいしさがヤバい!!」


「やばい」っていい意味のほうよ、もちろん。スーパーベリーグッドスペシャルプレシャスハイパービッグバングッド。ヤバいに含まれる「グッド」の意味を、全部お菓子にどかーーーん!! ってぶち込んだみたいな味がすんのよ。

 え? たとえが悪い? 悪くないし!! 本当のことだし!!

 シミュレーター北斗七星なのよね。


「まさか、『ミシュラン五つ星』のことを言ってる……?」


 よく分かったねこっちー。すぐ察せるの天才か??


「ふふふ、あやなちゃんはよくウチの店ほめてくれるから、嬉しいねぇ」

「もっちろんだよお姉ちゃん!!」

「お姉ちゃん? 姉妹なんですか?」


 違う違う。ここ「つむぎ」の店主・栗松夫婦の奥さんを私が「お姉ちゃん」って呼んでるだーけ!! だって天才和菓子を作れる奥さんを「おばさん」呼ばわりはシツレーでしょ?

 だからと言ってお姉さんだとちょっと遠いし。アタシは仲良くなった人とはギュンギュンアクセル全開で距離詰めるタイプなのよ。人間関係界のイニシャルDなのよ。

 だからお姉ちゃん!!


「私はおばさんでいいって言ったんだけどねぇ。あやなちゃんが『お姉ちゃん』って言ってくれると、年の離れた妹が出来たみたいだよ」

「ひゃあーーーーー最高!!!! お姉ちゃんがお姉ちゃんとか最高!!!!」


 アタシ一人っ子だからさぁ、お姉ちゃんってちょっと憧れるわ。

 それにお姉ちゃんがお姉ちゃんだったら、毎日お菓子食べ放題どころかお菓子の作り方教えてくれる!? おいおい~~~~最高レベルまで北斗七星か~~~?? 北斗七星に星が増えて北斗百星くらいになるぞ~~~??


「ふふ、あっちゃんは本当に、色んな方と仲良しなんだね」

「こっちーもその仲間だぞ♡」

「二人ともお利口さんみたいでいいわぁ。妹通り越して娘にしたい! ウチは男ばっかりでイヤになっちゃうもの。はい、これお団子ね」


 キタキタキタァ!!

 運ばれてきたのはお団子ミックス。同じ皿に、味が混ざらないように置かれた団子たちは三色団子・醤油・みたらし・あんこ・お抹茶! う~~ん香から既に美味しさが分かるぜ。

 入学式の日、学校の隣にあるからってここに寄って食べたら、トんだからね、マジで。アタシ一瞬天国に来たのかと思った。畳の匂いに座敷に座布団がある天国。お姉ちゃんには天使のわっかが見えたと思ったら、ただの丸い蛍光灯だった。


「わぁ、おいしそう! いただきまぁす」


 こっちー、あんこ行くか! いいねいいね。

 じゃあアタシはお抹茶いっちゃうよ。

 二人で、ぱくっ。



 ~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!



 ハイ。おわり。語彙に期待しないでください。無理です。おわった。全部おわった。うますぎ。今なら世界に満ち溢れた謎の力を使って魔王封印できる。魔王いるか知らないけど。

 うわぁぁぁ甘いものは世界平和!! 真理見つけちゃったな!! さすがアタシ、賢い! そんで和菓子屋「つむぎ」最高!!


「と、とっても美味しいです!」


 こっちーもほっぺを赤らめてる。

 でっしょでしょー。こっちー、せっかく学校来てたのにここに来てないなんてほんっとソンだよ。教室に行ってないことよりずっとソン。

「授業で勉強するよりつむぎで和菓子を食べるほうがずっと価値アリ」って義務教育で習うべきだわ。


 ふわ~もちもち。もちもち!!

 もちもちも、もちーーっ!!

 ……ハッ。お団子がもちもち美味しすぎてもちもちしか言えなくなったもち。やばすぎるもち。


「つぶあんですね。もちもちとよく練られたお団子に、つぶつぶのお豆が絡みついてとっても美味しいです……!! 甘みもちょうどよくって。ぜひこしあんも食べてみたいなと思いました!」


 も、もちぃっ!? 食レポをしている……だと!?

 こんな美味しいものを食べて言語化出来るなんて、やはりこっちー天才か?? そうなんだな?? もう隠さなくていいぞ??

 足元でみゃあとネコ。お。そういえばいたんだった。あげないぞ。ネコの体に悪いかもしれないからな。


「はい、ネコちゃんには鰹節ねぇ」


 やさしさ。


「ありがとうね、琴ちゃん。おばちゃんとっても嬉しい」

「もっと早く来ればよかったって思いました!」

「んもう! お上手!」


 うんうん。こっちーも「つむぎ」の良さを知ったようで何よりだもち。

アタシは語尾からもちが取れなくなったもち。



「なにぃ!? ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!!!」



 うぉっ、なんだ!?!?

 衝撃でもちはどこかへ消えた。

 店の奥を見ると、お姉ちゃんの旦那さんであるおっちゃん──おっちゃんはおっちゃんであってお兄ちゃんではないのである。これはこだわりである。おっちゃんはおっちゃん以外にありえないのである──が受話器の向こうに怒鳴り込んでた。

 クレームか? 何があったん?

 和菓子屋「つむぎ」の中ってチョー静かだから、店の中全部に声届いちゃうよ~?


「ンなこと言うくれぇなら帰ってくんな! こっちからお断りだよえぇ!?!?」


 おぉどしたどした。「帰ってきたクレーマー~the movie~」始まろうとしてんの? 全米が震え上がりそうだね。確かにクレーマーは帰ってきてほしくないわぁ。

 こういう空気感苦手そうなこっちーが、びくびくしてる。おぉかわいそうに。つよつよギャルのあやなちゃんが抱きしめてあげようね。ぎゅっ……。

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