頼まれちゃった!!

「はぁ」


 すると、ため息をついたのはお姉ちゃんで。

 呆れたようにおっちゃんの方を見てた。


「ごめんねぇ。後でキツ~~~~~く言っておくから」

「アタシは大丈夫だよん。クレーマー、帰ってこないといいね!!」

「クレーマー? えっ?」

「えっと……その、何があったんですか?」


 お~~~~っとこっちー!! アタシの謎発言をスルーするスキルを身に着けたぁ!! これは強い!! いつかアタシのマシンガントークも素手でへし折るくらいの実力をつけるかもしれない。もしくはマトリックスみたいにのけぞって銃弾避ける? やばやばのやばじゃん。ちょっとそれやってるこっちー想像したらウケた。

 ハイすみません。空気読みます。読めます。かしこなので。


「……ウチの家族の愚痴を聞かせることになっちゃうけど、いいかい?」

「はい、大丈夫です」

「モーマンタイっ!!」


 すると、お姉ちゃんは一旦店の奥へ引っ込んだ。続いてぽわんと飲み物の抹茶の香りと、ドベシーーーン!!!! という世紀末みたいな音。何?? 今の世紀末、もしかしてお姉ちゃんがおっちゃん殴った?? 大丈夫?? 死んでない??


「ハイ、サービスだよ」


 戻ってきたお姉ちゃんのエプロンには、さっきまでなかった返り血のような赤が……というわけはなく、ただその両手に湯呑を持ってた。

 わーいわーいつむぎのお抹茶だぁ!!


「ウチには息子がいるんだけどね。今は都会に出てお菓子作りの修行をしてる」

「息子さん……じゃあ今の電話のお相手は」

「そう、息子だよ。写真見るかい? 我が息子ながら、結構オトコマエだよ」

「拝見したいです」


 出た!! はいはいしながらケンケンする敬語!!!!

 見せてもらった写真には、おっちゃんとお姉ちゃんと息子氏。へぇ、確かに二人のお顔のいいところぎゅっと詰まってんね!! 二人の顔にはいいトコしかないけど!!

 いーじゃんいーじゃん! 親子そろってお菓子作りなんてさ。さいっこーにステキなことだよ。じゃあ将来はこの店継いだりすんの? 今度は息子がこの店の物語を「つむぐ」って感じ?


「それが問題なのよ」

「なんの?」

「息子が修行しているの、お菓子はお菓子でも『洋菓子』なのよね」


 おっとぉそう来たか。


「じゃあ一人で店持つぜ!!!! 的な?」

「それがそうでもなくて。この店を継ぐって言うのよ。それでお父さん怒っちゃってねぇ。『うちは和菓子だ!! 洋菓子で染め上げる気なら継がなくていい!!』って言って」

「なるほど……方向性の違いという話ですね」

「そうだね。まぁ私にも一理あると思うのよ。このお店は、お父さんの一族が代々受け継いできたもの。それをいきなり『洋菓子』なんて……」

「天才か!?!?!?!?」



 はたり。



 店の中の時間が、止まったみたいに静かになった。



 ん? アタシ何か変なこと言った?


「あ、あっちゃん……」

「めっちゃいいことじゃん!! 何でそんなに悩んでるの? お姉ちゃんもおっちゃんもさ!!」


 おっちゃん、店の奥でぴくり。体を動かして。

 お姉ちゃんは、ぴくり。眉を動かした。

 こっちーだけなぜかソワソワしてる。も~~何で!?


「いやぁ、私も洋菓子の良さは分かるよ。あやなちゃんみたいな今の子は、洋菓子の方が好きって。でもねぇ……」

「そうじゃなくない? アタシがいいたいのは、『つむぎ』の可能性は無限大!! ってこーと!!」


 だってつむぎの和菓子、こんなに美味しいんだよ!? それに息子さんの洋菓子パワーが来たら、この店は和洋最強☆ってことになる。そんなのって中々無いよ。

 ワンチャン和洋合わせたスイーツも考えればメニューの幅も広がって、もっともっとシミュレーター北斗七星的な!?!? そんなんヤバいよ。甘いものは世界を救うって言ったけど、つむぎが世界救う可能性もっと増えたわ。間違いない。

 絶対息子さん、それ狙って洋菓子のベンキョーしたんだよ。つむぎをもっと「最強」にするために!!

 やっぱり天才夫婦の子どもも天才だったわ。


「そ、そんな考え方が……」

「で、でも!! あの子はそんなこと一言も……!!」


 あ~~~それが分かんないのね。

 でもアタシ、賢いから分かっちゃった。


「じゃあ何で、『お店継ぐ』って言ってんの?」

「!!」

「洋菓子で新しい店開けんじゃん。おっちゃんに一回怒られたんなら、『もういい!!』ってあきらめられんじゃん!! でも怒られても、『つむぎを継ぐ』って言ってんでしょ?」


 それってもうさぁ。

 このお店のこと、大大大大大だ~~~~~いすきじゃん!! ウルトララブ、略してウルトラブじゃん!! 全然略せてないって!? 気にしない!!!!

 アタシはこの店が世界で一番好きだよ。そんな自信がある。

 でも息子さんは、宇宙一好きっしょ、そんなん。

 むっちゃくちゃ質のいいファミリードキュメンタリー見た気分だわ。こんなん冷めちゃう? そんなわけない。だってこれドラマじゃない。リアルだもん。

 おっちゃんもお姉ちゃんも、しばらく黙り込んでた。

 すると。おもむろにおっちゃんが受話器を取った。

 ボタンを押す。コールが鳴る。きっと留守電だったのかな? 「もしもし」も言わずに、おっちゃんはこう言ったのだ。



「……一回帰ってこい。電話だからいけねぇんだ直接話し合おう」



 ……ふっふふ。

 素直じゃないんだから!!

 こっちーもくすくすと笑って、お抹茶を一口。


「すごいなぁあっちゃんは。色んなものの見方ができて……」

「いやぁ~~~~それほどでも!?!?」


 ほら、やっぱアタシ賢いからさ!!

 お姉ちゃんも緊張がほぐれたようにガハガハ笑って、言った。


「……もし息子が帰ってきて、新商品が出たらさ……あやなちゃんと琴ちゃん、また食べに来てくれる?」


 もち!!!!

 あ、これはお団子もちもちのもちじゃなくて、もちろんのもちだからね!! 嘘じゃないよ。ほんとだよ!!!!

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