side 栗松洋平

***



 不仲ではないが、それなりに不器用な親子だった。



 小さい頃から家の和菓子が大好きだった俺。おやつはもちろん、朝のデザートにも夜のデザートにも家のどら焼き食ってた。何なら学校の給食のデザートでも食べたくて、学校に持ってって怒られたことがあったっけ。


 でもそんくらい大好きだった。


 店の売れ残り食わせてもらってたけど、何で売れ残んのって思ってた。今なら分かる。段々と客が減っているからだ。今あの店の和菓子食ってんの、昔からの常連さんとか、近くにある高校の生徒が少しくらい。それでも続けてくってさぁ、理想ではあるけど無理あんじゃね?

 だから俺は、この店を継ぐために修行を決心した。


「都会に行くだって!? 和菓子の研究ならこの店でも出来んだろ! えぇ!?」

「だぁから、この店で修行してんじゃ意味ねぇっつってんだよ!!」


 だって、「つむぎ」の中にないものを探しに行かないと、この店は発展しねぇから。

 父親とはよくぶつかった。母ちゃんは何も言わねぇけど、たぶん親父と同じように「ここにいてほしい」って思ってる。分かってる。分かってるんだ。俺だってそうしたい。ひたすらに和菓子を作るのもいいなって時々思う日もある。

 でもそれじゃダメなんだ。



 ──頭に血が上ると、すぐ頭ごなしに怒鳴ってくる父と。

 ──そんな親父に説明したって仕方ないと思って、ちゃんと事情を話さなかった俺。



 多分、どっちも悪かったんだろうな。

 仕方ないから、俺は反対を振り切って「都会」に「洋菓子」の修行をしに行った。和菓子の作り方? そんな分かりきったことを勉強してどうする。昔から、世界一美味しい美味しい和菓子の作り方を側で見てきたんだぞ。

 いや、他の人にとって世界一じゃないとしても、あの味は残すんだ、あの味が無くなったら、もう「つむぎ」ではなくなってしまうから。何か大切なものは残したまま、新しい挑戦をしていく。少しずつ何かを変えていく。

 未だ見たことのないつむぎの和菓子。考えただけでワクワクする。好きなお店・お菓子の可能性が広がるんだ。ワクワクするっきゃないだろ、こんなの。しかも変えていくのが他ならぬ俺だって思うと。

 言葉にしようもないほど嬉しいし楽しいし。

 同じだけ、いやそれ以上に緊張と責任がある。俺がしっかりとしなきゃな。


 ……あと、この店に足りないのはきっと。


 修行を持ち帰ったら、俺がやってきたことが「つむぎのためになる」って、証明してやりたい。この店が大好きだから。

 それなのに、今日も電話で怒鳴られちまった。

 かなしくて、くやしくて。

 胸の熱をぶつけようとしたら、俺の言葉も「怒り」に変わっちまった。このままじゃ進めないのに。



 どうしたら良いのか、バカだから、分かんねぇ。



《第2章 終わり》

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