見ちゃった!!

 サッカー部の控室は、本校舎と体育館の間にある小さな小屋みたいなトコ。備品とかもつまってるみたいなんよねぇ。ここに二人閉じ込められたら、「キャッ☆恋愛イベント!!」がまさしく始まっちゃいそうなラブロマンス現場だ。

 ここにいるのかなぁ、ワクワク。お、カギは空いてるっぽいぞ~! のぞいちゃお。若紫を「カイマミル」してた光源氏ってこんな気持ちだったんかなぁ、自分の中からあふれ出るキモさをどうにか抑え込んで覗き込むこの気持ち……ふふ、心の中の光源氏があふれ出ちゃうぜ。ごめん光源氏。キモイなんて言って。

 なんで光源氏知ってるかって? そりゃ~授業で習ったからよ! さすがのアタシも今日習ったことくらいは覚えてるかんね! 明日には忘れて光源氏の原型崩れて「光る賢治」くらいにはなってると思うけど!!!!

 そんな男今はいいのよ。今は天空くんなのよ。

 さ~て天空くん、いるかなぁ??


「…………え?」


 そこで、アタシは固まった。

 アタシの後ろからこっちーも顔をのぞかせる。そして、両手で口を覆った。そこには。アタシが見たサッカー部の控室では。




 つねちゃまと天空くんが、キス、してたから。




 えっ、えっ、あ。あえ、あ?????

 あっぶない。頭ん中ア行オンリーになるとこだった。いやなってた。だって……え? どういうこと。つねちゃまと、天空くん、が。


 ──『いつものあやななら、『すき! 付き合って!』くらいすぐ言いそうなのにね。言わないから……取られるんだよ』


 付き合ってる? そゆこと、なの?

 アタシに黙って。友だちに黙って。待ってよ。ならそー言ってくれれば良かったのに……ね、ハハ。あれ、心の中ぐっちゃぐちゃで、よく分からない。あ、お菓子握りつぶしてた。やば。えーっと。これ渡す? 渡していいの? ほんとに? つねちゃまと天空くんがそんなんなら、アタシが和菓子渡しても意味なく、て。えっと? とりあえず地球一周してきた方がいい? 北極がつーんと頭にぶつければ落ち着くかな、少しは、少しは……ど、どしよ。


「あっちゃん、あっちゃん落ち着いて!」


 はっ。

 こっちーが腕を揺さぶってくれる。ご、ごめん。アタシ自分のマシンガントークに自分で打ち抜かれてたわ。脳天撃ち抜かれてわけわかんなくなってた……はは、ははっは、はははっは。


「あっちゃんっ! み、見て、恒代ちゃんこっちに来る……」


 え? こっちーに来る? 何言ってるのこっちー、こっちーはここにいるよ。


「もう、しっかりして……! 恒代ちゃんだよ!」


 言われて、アタシはようやく控室に目を戻した。

 いつの間にアタシたちに気づいたんだろう。つねちゃまがこっちに歩いてきてたんだけど!?!? もう少し早く言ってよこっちー!!

 あわあわしてる私たちに、「見てたの?」ってつねちゃま。な、何で真顔なん。こういうのって焦ったりとか恥ずかしがったりとかしないわけ……。だってつねちゃまはアタシに黙って天空くんとつ、付き合っ……あ、ダメだまたアタシのマシンガンがマシンガンする。


「いいや。来て」

「へ」


 アタシは素っ頓狂な声を出して、こっちーは何か怪しむような顔をしていた。言われるがままに、つねちゃまに着いていくことにする。

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