賢いからわかっちゃった!!

 いかん。こっちーを困らせてしまった。

 やっぱりアタシって……ウン、賢いからさぁ……天才的な考えで周りの人をおいてけぼりにしちゃうってワケ。


「たたいてかぶってじゃんけんポンよ。知ってる?」

「知ってるけど……」

「やるか一回」

「あっちゃん????」


 いいからいいから。

 はいっ。たたいてかぶってじゃんけんポン……ったぁ!?!?!?


「こっちー!?!? いくらなんでも本気で殴りすぎでわ!?!? 傷心中の女の子に!」

「一応傷心って自覚はあったのね!? あっちゃん、いきなりたたいてかぶってじゃんけんポンしようとか言うからおかしくなっちゃったのかと思って」


 それで強くたたいたこっちー、アタシのことテレビか何かだと思ってるんか??

 いや、ほら。こうしてさぁ。


「たたいてかぶってじゃんけんポンって、勝負に勝った方だけが相手のこと殴り放題でしょ。めっちゃ悲しいと思わん? 勝負に負けた方は、やり返すこともできないんだよ。きっと世界ってさ……そういう風にできてる」

「…………」

「勝負に負け続ければ、勝ったほうに殴られ続ける。自分らしくいられなくなる。なぁんにもできない!! ……アタシそれがイヤなのよ。アタシはアタシ。勝負とかカンケーなく、アタシらしく生きたいだけ」


 何が勝ちじゃない。

 何が負けじゃない。

 何をしなきゃとか。

 誰に従わなきゃいけないとか。

 誰に抑圧されてるからとか。


 そんなのって無いんだよ。勝負に勝ったからって誰をたたいても良いわけじゃないし、負けたからって静かにたたかれてる必要なんてないワケ。

 アタシはそう思ってた。


「でもそれって、バカなんかな」

「!!」

「ツネヨの言った通り、そうでいられない人もたくさんいる。だからアタシ、みんなにそれを押し付けるつもりないよ。アタシはアタシだって、アタシ一人になっても言い続ける。でもそれって、やっぱ、やっぱさぁ」


 バカなのかな。

 ぜーんぜん、賢くなんてないのかな。

 ハハ、柄にもないこと言っちゃった。ごめんこっちー、こんな空気にして。も~~今日は帰ってねよねよ!! 何だったらこのお菓子だって、自分で食べちゃうんだから。やけ食いってやつ。デブを気にしなくなった女は強いぜ? 今日の夕ご飯、ママにからあげの盛り合わせ頼んじゃおうかなぁ~。



 パシイイイイン!!!!



 その時。

 教室に、すっごい音が響き渡った。

 一瞬、アタシのイマジナリーからあげが、もう揚げ終わったのかと思った。やべ、よだれ出てきた。イマジナリーからあげおいしそ……じゃなくて。

 すっげぇ音がなったのも。アタシがよだれを出したのも。



 こっちーがアタシを平手打ちしたからだった。



 えっ。まだたたいてかぶってじゃんけんポン続いてた???? ……っておどけられる雰囲気でもない。だってこっちー、めっちゃ泣きそうな顔してたから。やばい顔、って分かる。アタシよりも悲しんでる。初めて飼育小屋の前で会った時だって、こんな顔しなかった。のに。

 こっちー……。


「今のは、たたいてかぶってじゃんけんポンじゃないから」


 この空気感の中で発せられる「たたいてかぶってじゃんけんポン」っつーワードは強すぎんのよ。こういう時にも空気ぶち壊さない名前に改名しない? 「攻守決する運試し戦争」とか。黙りますごめんなさい、たたいてかぶってじゃんけんポンより雰囲気ぶち壊してんのはアタシです。


「バカな友だちの目を覚まさせるための……目覚ましだから!!」

「こっちー……」

「今のあっちゃんはバカだよ。その通りだよ!!」


 いつも優しい目が、アタシをにらんでる。でも何でだろう。にらんでるから「こそ」、優しいって思える。


「私、自分らしく生きるあっちゃんが素敵だと思う。あっちゃんの言う通り賢いって思う。『一人そうふるまってるからバカ』なんじゃない。『誰もできないことを成し遂げてるから賢い』んだよ!! 誰があっちゃんをバカにしても、私は絶対絶対、賢いのはあっちゃんの方だって思う!!」

「……っ!!」

「私、自分のことを『バカだ』って言うあっちゃんは見たくなかった。人に言わされたんだから、なおさらだよ!!」


 ……こっちー……。

 ふふ、嬉しい。やっぱ、やっぱさぁ。持つべきものは友だちだわ。友だち。スペシャルフレンドとかもうそんな肩書どうでも良い。友だち。ともだち。たったそれだけ、シンプルで最強の存在。

 そんな最強の存在と出会えたこと。それに気づけたこと。気づかせてくれたこと。

 やっぱ天才だわ!!!! アタシもこっちーもさ!!!!


「あっちゃん」

「ごめんねこっちー。アタシ間違ってたわ」


 ほら、自分の間違いだって認められる。アタシ賢いからわかっちゃった。


「この世界は確かに攻守決する運試し戦争だけど」

「なんて??」

「勝負放棄すれば、怖いもんなんてないワケよ!」


 そうすれば最初から争いなんて起こらない。アタシ賢いからわかっちゃった。


「そんでさ」


 アタシ賢いからわかっちゃった。

 これからするべきこと。


「ちょっと付き合ってよ、こっちー!!」


 こっちーはちょっときょとんとしてから、「もちろん」と微笑んだ。



***



「待て待て待てい!!!!」


 ピピーーーッ!! あやなパトカーです!! ピーポーピーポー!!

 アタシが口でピーポー言ってると、目の前のひと……ツネヨが目を見開いた。「さっきの今で何?」って言いたげだねぇ。いらだちというより戸惑い。ふっふっふ。いつだって人を驚かせ楽しませてしまう、エンターテイナーあやなとはアタシのことよ!!


「ツネヨ」

「……何よ」


 にらまれても気にしない。アタシはそのいらだちを受けない。し、いらだちをぶつけない!!


「アタシ、賢いからわかんない・・・・・・・・・んだけど」


 すぅっと息を吸って。



「友だち裏切って、楽しい? アタシは楽しくないと思う」



 ツネヨが目を見開く。

 アタシ、友だちには楽しくいてほしいからさ。


「だからこんなこと、も~やめなよ!! じゃね!!」


 すたこらさっさー!! 後ろからはこっちーがついてくる。

 ありがとね、こっちー。こっちーのおかげで勇気出たよ!! ツネヨを怒らない。責めるなんてもっての他。許して、また友だちになりたい。それがアタシ。そんで正当法で、まだ狙えんなら天空くんを狙う!! え? 諦めたと思った? へっへーん諦めてないよーっだ! そこまで良い子じゃないもん!

 正々堂々、ライバルくらいなれるっしょ?

 それがアタシ。日向亜矢菜。よろしくね!!!!



 窓からは夕日が差し込んで、何だかツネヨの赤髪を思い出したら涙がにじんできた。っくー! ロマンチックじゃんね。またアタシとアイツが友だちになれるって奇跡でも起こしてくれそーじゃん。


「こっちー!」

「何?」

「今日、ネコに会いたい!」


 やっぱアタシ賢いからさ、気分の切り替え方法も知ってるの!

 元気ないのはもうやめ。悩むのももうやめ。

 超天才なアタシは超超天才な友だちと一緒に、アタシらしく生きていく。人生って一回しかない。他の人のこと考えててももったいなくない? 他の人にメイワクかけない程度、「他の人なんてカンケーない!」をモットーに、超ハッピーな人生を送ってくよ。


 これからも、ね!



《第3章 終》

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アタシ、賢いからわかっちゃった!! 冬原水稀 @miz-kak

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