第12歩 映画デート【中編】
まぁ、言っても映画感の席なんてそんなに隣同士近くないだろうと思い席に着くと……意外と近かった。
隣を見ればスグそこに村田さんがいる。
うん、近すぎぃ……。
身体が徐々に暑くなり、心臓がバクバクと加速していくのが自分でわかった。
なんかめっちゃいい匂いするし……。
洗剤か、柔軟剤かよく分からないけどフローラルな匂いがして余計に緊張する。
朝から走ったけど俺汗臭くないかな……と不安になる。
もうどうしようも出来ない。うん、大丈夫だと信じたいけど、やっぱり気になる……。
また集中出来ない理由が1つ増えてしまった。
もうちょっと早く起きとくべきだった……。緊張でお腹痛くなるなんて事しょっちゅうなのに。その事が完全に頭から抜けていた。
ポップコーンを俺と村田さんの間に置いて、予告をぼーっと観る。
たまにポップコーンを手に取りもぐもぐ。
今日見る映画は「君が星になっても」という感動ラブコメタイムリープ作品だ。
小説が大ヒットし、累計120万部も売れている作品。
それが遂に映画になった今、また原作の小説は右肩上がりに売れている。
あらすじは、とある事件に巻き込まれた彼女を助けるために時間を巻き戻り救う物語。
「人は死んだら星になる」と小さい頃、彼女が言っていた。
「例え何度君が死んでも……『君が星になっても』絶対に助けに行く」
というタイトル回収のところは凄く良かった。
原作読んでて鳥肌立ったしその後も泣いた。
あ、これ面白そう……。あ、このアニメ、映画なるのか絶対見よ。
予告を見ながら案外大丈夫な事に気が付いた。隣を見なければ、意識しなければ大丈夫なのだ。
今日は1人で映画を見に来た……と脳に刷り込ませようとするが、流石にそれは無理だった。
ポップコーン食べようとしたら村田さんと手が当たってしまったからだ。
「あっ、ごめん」
「ごめん」
お互いに会釈して譲り合う。……気まずいし、手当たっちゃった……!!
予告が終わり、本編が始まる。
不安ながらも、なるようにしかならないと割り切ってスクリーンに注目。
本編が始まると思ったより映画の世界にのめり込んで村田さんがいる事を忘れてしまっていた。
それぐらい凄く良いアニメーションだった。
けれどたまにポップコーンを取る手が当たり現実に引き戻される事があったが、ちゃんと観れたので問題ない。
そのお陰で号泣せずにすんだ。涙は出てくるが、溢れないように耐えた。
映画が終わり、照明が付く。
チラッと村田さんの方をみると少し目の周りが赤くなっている気がした。
やっぱり泣くよね。こんな良い映画だもん。
原作に忠実で変な改変とかなく、よくあの内容を2時間の映画に収めることが出来たものだ。
え、これもう帰る感じなのかな……? 帰るのかね? これからどうするの? 約束は映画観るだけだったし。
村田さんの後ろについて歩く。
え、なんでコイツ着いてくんの? とか思われてないかな!? でも帰るのもなんか一緒に居たくないから早く帰りたいみたいに思われるかもしれないし……。
1人胸中でモンモンと悩んで気まずくなっていると、「昼ご飯何食べる?」と尋ねてきた。
「あっ、あー……うーん……」
いつの間にかフードコートに来ていた。
一緒にいていいんだ!?
気まずさが少し軽くなる。
「取り敢えず座ろう」
何を食べるかなんて考えていなかった。ポップコーン食べたからそんなにお腹すいてないんだよなぁ。
よし、
「たこ焼きにする」
「じゃ、私もそれにしようかな」
「あ、買ってくるから荷物お願い」
また奢れるぞぉ。お金が無くなるのはまぁ……必要経費だ!
「わかった、ありがと」
……緊張して抑揚がない感じに喋ってしまう。かと言って抑揚を付けようとすると声が裏返るから難しい。
徐々に慣れていきたい。少しは前よりも成長したと思う。
だって女の子と2人きりで映画観るなんて事もしたこと無かったし、まともにこんな喋れるようになってるんだから。
高校入る前と今とじゃ大違い。実はまだ高校生活が始まって13日目なのだ。
たった2週間でここまで成長するのは一種の才能と言ってもいいのでは!?
少し自分に自信を持ちながらたこ焼きを買い、席に戻る。
「お待たせ」
「ありがと」
「また奢ってくれるの?」
「うん、勿論」
まだ会話の途中で冗談とかは挟めないけど、これから頑張ろう。
映画の感想を語り合いながら食事をする。思わず熱くなりすぎて村田さんが途中若干引き気味な気がしたけど……。
2人ともご飯を食べ終えると「これからどっか行く?」と村田さんに聞いてみる。
「本屋さんに行きたい」
「わかった」
何か買いたい作品があるんだろうか? なんだろうと思い、本屋に向かう。
「さっきの映画面白かったから原作買おうかなって」
「あ、お、俺一応持ってるけど……」
「んー、私部屋に置いときたい派なんだよね」
「あぁ、わかる」
「でもありがとね」
優しい。お礼を言ってくれると少し自信がつくし安心する。
「うん」
村田さんが買っている間、俺は適当に何か面白そうなラノベ無いかなーと眺めていた。
あ、これアニメ面白かったから読もうかな……。
すると後ろから村田さんが声をかけてきた。
「あ、そのアニメ面白かったよね」
「あ、うん。観たんだ?」
「観た観た。原作買おうか迷ってた」
「俺も迷ってる」
意外にも村田さんはアニメにもあまり抵抗は無いらしい。趣味や好きなものが無いと言っていた割には結構色々な作品を観ているっぽい。
多分あまり自分の事を人に話したくないタイプなんだろうな。
結局お互い「今はお金が無い」と言う理由でそのアニメの原作は買わなかった。
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