第16歩 100メートル走

 それから体育の時間は体育祭へ向けての練習時間になった。


 前山くんは予想通り運動神経が良いようで、学年対抗リレーにも出るらしい。



 前山くんと何度か二人三脚の練習をしたけど、中々いい感じだ。


 これなら本番も大丈夫だろう。



 それにしても前山くんと肩を組むなんて恐れ多いな。前山くんの事を好きな人から刺されないかの方が心配なくらいだ。


 いるかしらないけど、多分いるだろう。頭は普通だけど、顔面つよつよで運動神経も性格もいいんだから。


 とてつもない優良物件だ。俺が女子だったらとっくの昔に惚れてた自身がある。


 前山くんもめっちゃいい匂いするんだよなぁ。爽やかな香り。


 イケメン、可愛い人、美男美女は全員いい匂いがするイメージがある。



 あ、そういえば村田さんは借り物競走と100メートル走に出るらしい。


 三上さんは全部らしい。三上さんらしいっちゃらしいな。


 全部1位取ってドヤりながらブイサインしている姿が頭に浮かぶ。


 それを見たクラスの女子達がヨシヨシして可愛がる。そこまで想像できた。




 少し、体育祭が楽しみに感じている自分がいた。
















 それから時間は過ぎていき、体育祭当日。高校生活が始まり《2ヶ月》。


 天候には恵まれ、雲一つない快晴だ。


「いっぱい練習したから大丈夫だろう」


 練習をするにつれて、不安も少しずつ無くなり今ではもう楽しみでしかない。


 トラウマも無事克服出来たはずだ。今日は思い出を残せるように頑張ろう。


 気合いを入れて、1人準備運動をする。


 後からまた皆で準備運動するんだけど落ち着かせるために。



「おはよう」

「あ、おはよう」


 村田さんの体操服姿も良い。運動するから髪は後ろで結んでポニーテール。スラッと長くて綺麗な脚に思わず見惚れてしまいそうになった。



「おっすー、明」

「あ、おはよう前山くん」


 1ヶ月、一緒に二人三脚の練習などをして距離が少し近くなったのか、前山くんは俺の事をいつの間にか下の名前で呼び始めた。


 嬉しい。小学生の時は下の名前で呼ばれるのが普通だったけど中学になってからは苗字だった。


 いや、そもそも苗字を呼んでもらう事すら少なかった。


 名前で呼ばれるのは仲良くなってる証拠。俺はそれが嬉しくて自然と口角が上がる。


「今日は頑張ろうな!」

「うん!」


 二人三脚だけでも1位を取りたい!

 そしてあわよくばかっこいい所を見せてモテたい!!





 不純な動機も持ち合わせながら遂に体育祭が始まる合図の爆竹が鳴った。





 初っ端から100メートル走があるので、俺は集合場所に移動。


 少しずつ鼓動が早まるのが分かる。



 周りの人は何故か自分より速そうに見えてしまう。


 前の組の人達が次々とスタートして行く中、緊張で息が詰まる。


 遂に自分の番がやってきた。


 深呼吸を何度もして心を落ち着かせるのと同時に周りを見渡す。


 すると、たまたまテントにいる村田さんと目がバッチリ合った。


 目が合った瞬間、村田さんは少し頷いた。


 なんて伝えたかったのかは分からないが『頑張って』と言われてる様な気がした。


『位置について』


 さぁ、遂に始まる。俺の心臓はこれまでにない程に脈打っている。


 スタートの構えをし、合図を集中して待つ。



『よーい』の掛け声が合った後直ぐにスタートの合図の笛が鳴り響く。


 それと同時に地面を思いっきり蹴り、走り出す。

 少し滑ったが中々にいいスタート。


 後は脚を上げて、前に出して走るだけ!!


 スタートダッシュで出遅れたのか、足の早い人が視界の端から徐々に追い付いて来て直ぐに追い越されてしまった。


「くっ……!」


 それでも必死に食らいつき、俺は3位という何とも微妙な順位を獲得。


 運動全然して来なかった、運動神経も至って普通の俺が3位はまぁ、良い方だろうと自分で自分を納得させる。


 自分と同じ走順に足の速い人が多くなくて助かった。恥ずかしい思いをせずに済んだから。


 息を整えてからテントに戻るとクラスの人達から労いの言葉が飛んでくる。


 あぁ、俺もしっかりとこのクラスの一員なんだなと実感出来て嬉しかった。


 この調子で、二人三脚とクラス対抗リレーも頑張ろう!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る