第17歩 手と手と手と借り物競走
村田さんが出る借り物競走が始まった。あ、三上さんも出る。
次々とお題の札を手に取り、素早く散り散りになる。
判断が早いなぁ……。ある人はテントから人を借りたり、放送部のマイクを奪ってったり。校長先生のカツラを取っていって爆笑が起きていた。
校長先生は大激怒、とまでは行かないが。それでも恥ずかしそうにしていた。
恐らく、この体育祭で校長先生は一気に人気キャラになっただろう。
皆の応援の声や歓声の中のんびりと眺めていると、三上さんの番がやってきた。
スタートし、1番でお題の札を見る。すると、勢いよくこっちのテントをみて猪のように一直線に走ってきた。
「きて! 村上くん!」
「え、俺!?」
俺は困惑していたが、三上さんに手を握られ無理やり引っ張られた。
手、手!?
手を繋いでいる事に気付き俺は急いで手を離す。
よくわからんが、取り敢えず三上さんに付いていく。
お題なんなんだろう……?
「村上くん、遅いぞぉー!」
「そんなこと言われても……」
息切れしながら、ゴール。
「お題を確認しまーす」
係の人がお題を読み上げる。
「趣味が合う異性」
係の人の視線が俺に移る。
「三上さんの趣味は?」
「読書やアニメ鑑賞とかのヲタクだ!」
三上さんは何故かドヤってしている。身体が小さいから全然威圧感がない。みんなが可愛いと言っている理由が分かる。
「そちらの貴方は?」
「読書とか、アニメとか……映画とかです」
「はい、いいですよ。1位です!」
えぇ……これでいいのか? だって三上さんが言った後なら俺はどんなものでも同じ事を言えば揃う。普通小声で片方に確認してからもう片方も確認するとかじゃないのか……?
そういう疑問を三上さんは全く抱いていないようで、「やったやった」と小さいジャンプを何回もしていた。
まぁ、いっか。
「村上くん、ありがとね!」
「うん」
この笑顔が見れたなら走った甲斐があったな。うん、癒された。
ゆっくりとテントに帰っていると次の組がスタートした。
その組には村田さんの姿も。
あ、お題なんなんだろう? 俺の所に来たりして。
なんてキモイ願望を抱きつつ、足を止めて見る。
お題の札を手に取り、村田さんはキョロキョロと辺りを見回し始める。
なんか見つからないっぽいな。難しいお題なのかな。
なんて思っていたら、目がバチッと合った……と思ったらこっちに向かって走り始めてきた。
え? 俺!? ま、まさかそんな訳ないよねぇ……?
でも目は合っている。俺の近くに他に人はいない。
もしかしなくても俺なのか……?
違った時が恥ずかしいので、確認の為に俺は自分に指を差す。「俺?」って感じで。
すると村田さんに伝わったのか、コクコクと頷いた。
おぉぉれかよぉ!?
村田さんの方に向かい俺も走り出し、合流。
「お、俺?」
「う、うん」
俺は2回連続で走っている、いや100メートル走も合わせたら合計3回だ。
なので、俺はもうヘトヘト。
普段はどうやら村田さんより足は早い様なんだが、今は村田さんの方が早い。
俺が遅いからか、村田さんは手を握って引っ張り始めた。
うぇぇっ!? 手、手ぇっ!?
俺は三上さんの時と同様に、動揺して振り解こうとしたが止めた。
故意で韻踏んだ訳じゃないからね……。
折角村田さんと手を繋げたんだ離したくない。こんな機会もう二度と無いかもしれない。
村田さんの小さくて白くてか弱い手を感じながらゴール。
「あっ、ごめん!」
村田さんはゴールしてから手を繋いでいる事に気付いたらしい。
「だ、大丈夫」
お互いに少し照れながら、係の人にお題をみせる。
「仲の良い異性……ですね。はい、大丈夫です」
え? 確認とかしないのか……?
「確認とかしなくて大丈夫なんですか……?」
村田さんも同じ事を思ったようで係の人に尋ねる。
「さっきの手を繋いでる様子を見たんで大丈夫ですよ。なんですか? それとも今ここでハグでもします?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる係の人。
楽しんでやがる……。
「あ、村上くん。ありがとね」
「ううん。1位だったねおめでとう」
「2人で取った1位だよ」
ドキドキした気持ちの中、俺はようやくテントに戻る事が出来た。
もう疲労困憊だ。二人三脚とクラス対抗リレーが不安になってきた。
「ねぇ、村上くん。私の時と花音の時の反応の差は一体なんだ!? 私の事嫌いなの!?」
「い、いやそういう訳では……」
「なら良かった!!」
「…………」
それで納得してくれるのかよ三上さん……。すぐ騙されそうだな。詐欺とか遭わないと良いけど……。
少し心配しつつ、そんなに反応に差なんてなかったはずと自分で思い返す。
まぁ、気を付けよう。俺が村田さんの事が好きってバレたら皆に茶化されるだろうし、村田さんに嫌われるかもしれない。
それが1番辛い。
態度や反応でバレないようにもっと気を付けよ。
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