第18歩 トラウマ再び

 ピーという笛の音と共に、一斉にスタートする。俺と前山くんは「いちにいちに」と脚のタイミングを合わせる。


 練習の成果を発揮する時だ。よし、これなら1位いけるぞ!!


 そう思った時、気持ちが先走り過ぎたのかタイミングがズレた。


「あっ……!」


 俺と前山くんの脚は繋がっているから同時に倒れた。



 あ…………。


 次々と抜かれていく。


 そこで蘇る昔の記憶。トラウマ。


「お前のせいで負けたんだぞ」「あーあ、村上くんのせいで負けちゃった」「調子乗んなよ」



 あ、あぁぁ……やっちゃった。また俺のせいで負ける。俺のせいで1位が取れない……。俺がタイミングズレたから……。あんなに練習したのに。俺が全部台無しにしちゃう……。


 また……俺のせいで…………。







「村上くん、何してんの?勝てたのにさ」


「っっ……!」


 ご、ごめんなさい三上さん……。


「あーぁ、やっぱりお前と組まなければ良かった」


 ご、ごめん……前山くん。


「ダッサ……もう関わらないで」


 村田……さん…………。







「おい、明!まだ終わってないぞ!」


「頑張れ村上くーん!!!!」


「頑張れ!村上くん!」



 遠くからも俺の名前が聞こえてきた。


 暗闇の中、トラウマの中光が差し込む。その手を掴んで、俺は立ち上がる。


 そう、今は昔とは違う。名前を呼んで、応援してくれる友達がいる。




 俺達はさっきとは比べ物にならない程に早く、そして掛け声なんて掛けずに、意思を身体で感じ取る。



 次々と追い付き、追い抜き1位でゴール。



「しゃぁぁ!!」


 俺達はガッツポーズをしてお互い顔を見合わせる。


 そして何を言うでもなく微笑み合ってハイタッチをした。


 周りはこれまでにない程の歓声に包まれている。それもそうだ。1度転けて最下位にまで落ちたのにそこから全員を追い抜き見事1位になったのだ。


 これで盛り上がらない訳が無い。


 走るのに夢中になっていたけど、我に返って周りの反応がとても恥ずかしい。

 前山くんが見られてる。

 俺が見られてる訳じゃないと思うが……それでも穴に潜りたい程恥ずかしい。というか照れる。


 自意識過剰はダメだ。勘違いがいっちばん恥ずかしいんだから。



 歓声が冷めきらず息も絶え絶えに俺は前山くんにお礼を言う。


「ありがとう」


「なに、大した事ないさ。やったな」


 そして俺達はまたハイタッチをした。





 転んだ時、俺はトラウマに呑まれていた。けれどそこに光が差し込むように、前山くんが手を差し伸べてくれた。

 そして皆の声援。それがなかったら俺は再び走り出す事は出来なかった。


 皆のお陰で1位を取ることが出来た。


 そしてトラウマを少しだけど克服出来た感じもする。




 高校生になってから、自分の成長を実感出来る事が増えて嬉しい。

 それがまたモチベーションになり、また1歩成長に繋がる。




 俺の高校生活はまだまだ始まったばっかりだ。





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