第2歩 「おはよう」のたった4文字

《2日目》



 まだ学校への道のりを正確に覚えていないから、早めに家を出てゆっくりと向かう。

 はぁ、どうやって皆と仲良くなれるかな。友達どうやって作ろうかな。


 いや、待て? 友達ってそもそも作るものだっけ?

 いいや、違うだろ「友達は作るものではない。自然と出来るものだ」


 はい、これ名言じゃん!! 我ながらいい事言うねぇー!! 自然と出来るといいな……。


 俺は一人で一喜一憂してるただの精神不安定な状態になっていた。

 まぁ、いつもの事なので気にしない。


 さて、今日の目標は「村田さんと少しでも話す事」だ。隣の席なのに話さないなんて不自然極まりない。

 意識してるって思われたらその後が余計に話すハードルが爆上がりしてしまう。


 大丈夫だ村上明よ。昨日の話しかけた事なんて村田さんは忘れている。そんな一々覚えているわけが無い。そうだろ?


 自分は変わるんだろ?と何回も言い聞かせている内に学校に着いた。


 …………でももし昨日の事覚えてたらどうしよう。やっぱり忘れてそうな明日とかにした方が……。


 いや、そんなのじゃダメだこのヘタレめ。今日話せなかったら罰として募金じゃい!





 意を決して靴を履き替え、教室に向かう。





 教室の扉の前で、すーっと深呼吸をして扉に手をかける。


 ガラガラとドアを開けると教室には半分ぐらいの人が既に居た。その中には村田さんもいた。


 数人の視線が音のしたこちらの方に向いたので俺は目を泳がせる。


 席に近付く度にドキドキと鼓動が加速していく。


 まずは「おはよう」って言うんだ。「おはよう」ただの一言の挨拶。4文字の言葉だ。



 机の上に荷物を置き、横目でチラッと村田さんを見る。


 村田さんはスマホを眺めていた。


 どうしよう、話しかけていいのか。いや、スマホだからいいだろう。うん、いいよね?


 よし、と覚悟を決め緊張でカラカラに乾いた口を開く。


「お、おはようございます……」


 村田さんが顔を上げて、チラッと僕の方を見た瞬間俺は素早く目を逸らす。故意じゃない、無意識だ。


「…………おはようございます」


 一瞬の間があったが、誰に挨拶したんだろうと考えていたのかもしれない。もう少し大きな声で言えば良かったかな。

 村田さんの方を見ると既に視線はスマホに移っていた。


 いや、でも自分から挨拶出来たんだ!それだけでも成長!!


 自分を褒め称えていると、村田さんがチラッとこっちを見てきた。


 っ!? な、なに……。変な人って思われた!? え、なんでだ!? 特に何もしてないんだけど!?


 するとまた村田さんがチラッと俺を見てきた。今度は少し長めだ。


 な、なんだろうと思っていると村田さんが少し首を傾けながら口を開く。


「…………座らないの?」


「あっ……はっ、はいっ…………」


 俺は急いで席に着いたが、どうすればいいか分からず挙動不審になる。


 ハッ!何してんだ? いつも通りしてればいいやんけ! 逆にキモイじゃん!!



「あ、昨日言い忘れてたけど隣よろしくね」


「あっ、は、はいっ」


 まさかの村田さんから声をかけられ返事に詰まってしまった。


「そういえば、昨日なんか言おうとしてたけどなんだったの?」


「あ、いえ……なんでもないです……」


 やっぱり昨日の声かけたの気付いてたぁぁぁぁあ!!!! 折角勇気を振り絞ったのにタイミング悪くて結局話せなかった時の事を思い出し恥ずかしくなる。


 けれどポジティブ思考!! こうやって今その事で話せて……ない。

 自分で会話終わらせてしまった事に気付き後悔するももう遅い。

 既に「なんでもない」と言っておきながら「隣だから挨拶しようと思った」なんて言い直したらかっこ悪いやんけぇ!!

 しかもその程度ならその後も声をかける機会があったのに挨拶しなかった。


 2日目早々変な奴って思われたくない……。










 その後は声をかけることもかけられることもなく、2日目が終了した。



 当初の目標の挨拶をするは見事達成した。しかも自分から出来たし、その後もとても会話とは言えないものの少し話せた。


 いい調子だ。この調子でコミュ力アップだ! 頑張るぞ。

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