第21話 生まれた感情
「一体どうなっているんだ?」
最初はただ扉が開かないだけかと思ったのだが、中庭へと繋がる扉は全て蔦で塞がれていた。
外を見ようとしても窓にも蔦が絡まり、様子を伺う事も出来ない。
「まさかまた前のような事が起きるのでは?」
とざわざわし出す。
次第にその情報は広がり、まだ無事なうちにと帰るものが続出した。
(まさかフラウラーゼに何かあったのか?)
デイズファイがいるから安心して久しく会う者達と話をしていたジョセフだが、話を聞いて急いで中庭へと向かう。
確かに言われたとおりに蔦が絡まり、開かない。
(大声を出せば皆にも疑われてしまうな)
そう考えて、近くの花瓶に生けてある花に声を掛ける。
「もしも中庭にデイズファイ殿がいるならば、すぐに扉を開けて欲しいと言ってくれ。ジョセフからと言えばわかるから」
そう声を掛けた直後に扉は開く。
花の精霊が直ぐに伝えてくれたのだろう、ともかくこれで少しは場が落ち着くと良いのだが。
「心配をかけてすまなかったな、ジョセフ殿」
何事もなかったかのようにデイズファイが現れ、逆にジョセフは戸惑う。
「今はその話はいい……ってフラウラーゼはどうしたのだ?」
その腕に抱かれているフラウラーゼを見てジョセフは急いで駆け寄ってきた。
「少し酔ってしまってな。静かな環境で休ませようと、しばらくの間中庭に居たのだが」
その言葉に周囲がざわめく。
「そうだったか、じゃあもう帰ろう。フラウラーゼを休ませないといけないし」
余計な事を言われる前にと、ジョセフは二人と共に帰ろうとしたのだが。
「お祖父様お待ちください、フラウラーゼは本当に怪我をしていないのでしょうか?」
止めるのはエーヴェルだ。その横にはジェレミーもいる。
「あのような事があったのですから、きちんと話を聞かないと」
エーヴェルは具合が悪そうなフラウラーゼに申し訳なさそうに近づく。
「フラウラーゼ、何か変わったことはなかったかい? 犯人と思われるものを見たとか、何か怪しい音がしたとか」
「何もありません……」
本当の事が言えるはずもないので、フラウラーゼは知らないと首を横に振る。
「本当かい? ディート殿は昔あった事件を知らないだろうし、フラウラーゼならどちらの現場にもいたし、何かわかるんじゃないかと思ったんだけど」
残念そうに言うエーヴェルだが、それ以上引き止めようとはしなかった。
代わりにジェレミーが引き止める。
「フラウラーゼ様の近くではいつも不審な事が起きますよね。本当は何か知っているのではないですか?」
明るくかつ大きな声でそう言われる。
「偶々ではないですか? 先程の事もわたくしは気づきませんでしたし」
「へぇ、中庭の植物達があんなにも魔法で動かされていたのに気づかないなんて、フラウラーゼ様はお噂どおりあまり魔力がないのですね」
驚いたように言っているが、その実フラウラーゼの魔力がない事を揶揄っている。
「……そうですね。なのでわたくしは何も知りません。具合も悪いし、先に帰らせてもらいますわ」
少しマシになっているが、このままではデイズファイが何を言うかわからない。
その為出来ればもう帰って有耶無耶にしたいのだけれど。
「そうは言っても当事者ですもの。話くらいはしておくべきではないでしょうか。事件の解決の為にも」
「ジェレミー、フラウラーゼは体調が優れない。無理にこの場に留まるよりは、別日に話をしてもらった方がいい。それにそれを決めるのは国王様だ、君ではないよ」
夫の諫める言葉にムッとしたジェレミーは、納得していないようだ。
「疑わしい者を帰したらいけないでしょう」
「それはフラウが酷い事をすると言いたいのか?」
黙っていたデイズファイはジェレミーを睨みつける。
「まさか。そんな事はしないとは思っていますけど」
「ではこのまま帰っても文句はあるまい」
デイズファイはそう言ってエーヴェル達を振りほどき、帰ろうと歩き出す。
「待ってください、ディート様」
「まだ話があるのか? そもそも勝手にフラウを容疑者扱いにするなど、不愉快だ」
どの件もデイズファイが関係しているのだが、それは言わないでおく。
「容疑者なんて、この人にそんな力がないなんて皆が知っているわ。出来損ないって……」
「ジェレミー!」
エーヴェルの叱咤が飛ぶ。
フラウラーゼが気にしているという事を知っているのにその発言、エーヴェルにはとても許せそうになかった。
(口には出さなくても、内心ではずっとそう思っていたんだな)
エーヴェルは途端に身近である妻に対して、不信感を抱いてしまった。
自分の従姉妹に対してそんな風に思っていたとは、今後も受け入れられる気がしない。
去り際のジョセフと目が合った。
「お前の人生だ、誰を選ぶかは自分で決めるんだな」
そう言って三人はこの場から去っていく。
エーヴェルはその後ろ姿を見ながら、胸に浮かんできた感情をどうしたらいいのか、わからなくなっていた。
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