第19話 お節介焼き
フラウラーゼとデイズファイは結婚しているものの、この国の王の許しを得た婚姻ではない。
だから世間的に見たフラウラーゼは独身で、その伴侶となればヴォワール侯爵となれると誰しもが思っている。
今までは病気療養中であると釣書を遠慮していたのだろう。
けれど、エーヴェルと会った事で元気になったのだと思われたのか、侯爵の地位が欲しい者達様々な打診が来る。
片っ端からジョセフが断るが、きりがない。
「ジョセフ殿。困っているなら、我が全て消してくるが?」
大変そうなその様子と、そしてフラウラーゼに口説く手紙を送って来る者に怒りを感じ、デイズファイはそう提案する。
手紙の名前を盗み見て、こっそりとそれらの者の屋敷にいる精霊に頼み、地味な嫌がらせをしてはいるが、解決するわけではない。
デイズファイの物騒な言葉に、ジョセフは誘惑に駆られながらも首を振って拒否をする。
「そんな事をしても恐らくきりがない。侯爵の地位は、人によってはとても魅力的なものだからな」
瑕疵のついたフラウラーゼならば、簡単に落とせると思っているのもあるのだろう。辟易してしまう。
「入り込む余地などないと知らしめる方が簡単そうだな」
ため息をついて、ジョセフはある作戦を話した。
◇◇◇
私は初めて夫の従姉妹を目にした。
噂には聞いていたが、本当に燃えるような赤髪の令嬢だ。
この国では馴染みのない色、しかし私は違和感など微塵も感じないといった顔で話をする。
この女性は可哀そうな人なのだから。
小さい頃からその髪色で差別され、最近では婚約破棄をされてしまった。
そして生家であるシャリエール家を追い出され、祖父であるヴォワール侯爵の家へと身を寄せている。
養子にもなったそうだが、事業等は継いでないらしく、働いている素振りもない。
体調を崩しているということで、パーティなどにも出席していないが、そもそも外出もしていないらしい。
引きこもりで仕事もなく、嫁ぎ先もない夫の従姉妹に同情していた。それと同時に少し羨ましい。
そのような状況でもヴォワール侯爵の孫だから不自由なく生活出来ているし、誰かの後妻にされるわけではない。
このままではヴォワール侯爵家のお金は、全てフラウラーゼに入るようになるだろう。
最近のヴォワール侯爵家は調子が良い。
黒字経営で利益もぐんと上がっている。継ぐ者がいなければ、いずれ貰える遺産を皆で分けようなんて話もあったのだが、フラウラーゼの件でなくなった。
(狡いわよね)
何もしていないのに受け継ぐなんて。
でもそれで何かをすればヴォワール侯爵の不興を買ってしまう、だから私は別な手を考えた。
彼女が幸せになる様にすればいいと。
結婚は女性の幸せだ。
彼女は婚約破棄をされたのだから、今後の結婚は絶望的。
ならば誰か結婚相手を斡旋すれば、侯爵様も私な何か便宜を図ってくれるかもしれない。
そう思ったのに。
「もう帰れ」
だって。
良かれと思ってしたのに酷い対応だわ。夫からも、もう口出ししないようにって言われるし。
「彼女の為なのよ」
私は噂をばら撒いていく。
次期侯爵となる伴侶を探しているようだと。
男の気配もないヴォワール侯爵令嬢は、共に家を盛り立てる人を探しているって。
そうしているうちに何とフラウラーゼは、今度のパーティに参加するという話だ。約一年半ぶり。
次期公爵になりたい者や、どれだけ落ちぶれたのか、興味のある者達でいっぱいである。
シャリエール伯爵令息やクレディス伯爵令息は青い顔をしていたが、因縁のある人達だもの、会うのも嫌よね。
そう言えばパーティ会場やシャリエール伯爵邸の襲撃事件の犯人は、見つからなかったわ。
フラウラーゼの仕業じゃないか、などとも囁かれていたけど、すぐに立ち消えになったのよ。
まぁあの髪色では強い草魔法なんて使えないだろうし、そんな度胸もなさそうだったわ。
そんな事よりも当日会えるのが楽しみで仕方ない。
そして当日なのだけれど……
「何? この人だかりは」
人の波に驚いた。
フラウラーゼの元へ行こうとしたのにまるで動けない。
「どうやらフラウラーゼには伴侶がいたらしい。それでざわついているんだと」
夫にそれを聞いて驚いた。
(あの男っ気もない場所で、どうやって知り合ったの?)
どこかに出かけた素振りもないし、出入りの商人くらいしかいないって聞いてはいたけれど。
人垣をかき分けて進むと、確かにフラウラーゼの隣には男性がいた。
まるで人とは思えない透き通った肌に、美しい緑の髪。
背も高く程よく引き締まった体は、見た事のない衣装を纏っている。
「異国の貴族だそうだ。お祖父様の紹介らしい」
一体どこの国にあのような男性がいたのだろうか。
(ずるいずるいずるい)
何でも手に入って、何も苦労もしないで。
だから揶揄おうと思った。
私は夫と共に近づいていく。
挨拶を交わすものの、フラウラーゼの夫という者は目を合わせてくれない。
笑顔もないが、寧ろ人形の様に美しくて、良い。
ディートと名乗る彼は、異国から来たのでこの国の作法が分からないと、ずっとフラウラーゼにべったりだ。
だが自信に満ちた表情や動作は、こちらが間違っているのではないかというくらい堂に入ったもので、嘲るものはいない。
「お近づきも印にこれをどうぞ」
私は蕾であった花を見事に咲かせ、ディートに近付こうとした。
「花は結構。美しい花は既に手に入れているのでな」
そう言ってフラウラーゼの肩に手を回している。
のろけなの? 断られたのは正直面白くない。
元々そんなに彼女の事は良く思っていなかったけれど、ますます嫌いになったわ。
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