第10話 謝罪と受け入れ
コンラッドの命に別状はなかったが、しばらくは安静にするようにと言われる。
襲撃現場にフラウラーゼもいて、巻き込まれた事から、ヴォワール侯爵は苛立ちを隠せなかった。
絶対に犯人を捕まえると息巻いている。
「手口が似ている、犯人はパーティ会場を襲った者と同じようだ。もしかしてフラウラーゼを狙ってるのか?」
安全面からフラウラーゼはヴォワール侯爵の隣の部屋に移され、ドアの前だけでなく窓の外まで護衛がいる。
「何かあれば必ず言うんだぞ」
そう言われてからようやく一人になれた、だがもちろん寝れるわけもなく。
「デイズファイ様、お話をしたいのですが」
小声で声を掛ければ彼は静かに来てくれる。
やや罰の悪そうな顔をしており、その様子からフラウラーゼは確信した。
「全て聞こえてましたよね」
「いや、全てではないが……」
もごもごと言葉を濁している。
「では何故その様に目を逸らすのです?」
最初に呼び出した時は抱き着いてきたくせに、今は怒られる事を怖がっている風にしか見えない。
「フラウラーゼに何かあればすぐ守れと皆に命令してある。あと状況を教えろとな」
それでこうして気まずいのか。
人に怪我をさせた事に反省しているのはいいけれど、怪我させる前に思い留まって欲しかった。
「あそこまでやらなくても良かったと思います」
「我の妻に手を出そうとしたのだから当然の報いだ」
同調するように花瓶の花も揺れている。
(こんなのどこに居ても筒抜けだわ)
草花はどこにでもある。
部屋の中にはになくとも窓の外には木々はあるし、隠し事のしようもない。
「だからと言ってあんな事をしていいわけではありません。もしかしてわたくしが出たパーティ会場の騒動もあなたなのでしょうか?」
「直接手を下したわけではないが、そうだ。妻が馬鹿にされて許せるわけがない。だが怪我はさせないように厳命したぞ?」
あの頃から妻認定は既にされていたなんて。
フラウラーゼはため息をついてソファに凭れ掛かる。
「今回は助けてもらえて感謝していますけれど、今後は必要以上に手を出さないでくださいね。怪我をさせるなんて特に駄目です」
「それは申し訳なかった……」
素直に謝ってくれる。まぁ命に別状はないそうだし、これでコンラッドも反省したのではないだろうか?
女性に力で迫るような不届き者に、今後はならないといいけれど。。
「あとで怪我をした男を回復しておこう。だから許してはもらえないだろうか」
本当に王なのかと思うくらい腰が低い。
けれど話を聞く限り、彼の命令で他の精霊たちはあのような事をしたわけで、力のある精霊なのは間違いないだろう。
(もしも怒らせたらわたくしもあのような事をされるのかしら)
木で叩かれたら痛そうだなぁ、と想像してしまう。
(そもそも暴力を振るうのは精霊も人間も駄目ね。先程約束したし、今後はしないでしょう)
フラウラーゼはデイズファイを許すことにした。
「そうですね。あのままではわたくしも危なかったですから。今回は許して差し上げます」
ニコリと微笑めばデイズファイは遠慮なくフラウラーゼを抱きしめた。
「ありがとう、フラウラーゼ!」
「ひゃっ?!」
予期せぬ突進に思わず声が漏れ、隣室から音が聞こえる。
「離してください、お祖父様が」
「今度挨拶をさせてもらう。ではまたな」
デイズファイは許された事で上機嫌となり、フラウラーゼの頬にキスをするとそのまま姿を消した。
「フラウラーゼ、大丈夫か!」
ドアの外からの大声にフラウラーゼは赤くなった顔を抑え、大丈夫と答えるので精いっぱいだった。
◇◇◇
「本当に昨日は何もなかったのだな」
「大丈夫です。お水を飲もうとして起きたらつまずいてしまい、あのよえな声が出てしまって。驚かせてしまってごめんなさい」
翌日開口一番にヴォワール侯爵に心配され、は謝罪の言葉を口にする。
デイズファイが悪いのだが、彼を呼び出してまで説教する事も見られたら困るため今は出来ない。今度会った時に叱っておこう。
コンラッドとの一幕は祖父には話すつもりはなかった。
彼の一時の気の迷いとして忘れてあげる方が良いだろう。それが最後の餞だと、そう思ったのに。
「フラウラーゼ様、ご無事で良かった!」
挨拶もないままコンラッドがフラウラーゼに抱き着こうとする。
フラウラーゼの周りの男性は抱きつく事がデフォルトなのだろうか。
しかしそこはヴォワール侯爵がすんでのところで止めた。
「フラウラーゼは無事だ。コンラッド殿、これからは家族ではない、距離感を間違えないように」
諫められコンラッドは大人しく引いた、その目は乞うようにフラウラーゼを見ているが。
(何でしょう、たった一日ですけれど、とても気持ち悪いですわね)
昨日の件以来すっかりコンラッドの嫌悪を抱いてしまった。
デイズファイは平気なのにコンラッドは無理だ。
(デイズファイ様は精霊故かしら、どこか無垢というか抜けているというか。コンラッドの方はねっとりとしていて何か嫌なのよね)
爽やかな笑顔の裏ではあんな怖い考えを持っていたなんて。
(帰るまで治さないように言えば良かったかしら)
こんな状況になるならば、そのままでいて貰えば良かったと後悔する。
この屋敷を出れば関係は終わりなのだが、拒否の心が強すぎて食事も要らないから帰りたいとまで思ってしまう。
(うぅ。辛いですわね)
味も感じないし気まずい朝食であった。
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