過去を偲び、今を「生きる」者たちの、美しい弔いの物語
- ★★★ Excellent!!!
本作は、作者さまの『なごや幻影奇想シリーズ』の短編です。ご存知の皆さまは、お馴染みの面々と嬉しい再会を果たせます。シリーズを未読の皆さまも、ご安心ください。本作からシリーズに足を踏み入れる方でも、物語を存分に楽しめます。
主人公・服部朔くんのアルバイト先は、非現実の世界で起きる現象を専門に扱っている探偵事務所。今回の事件の依頼人は、服部くんと同じ部活に所属している女子の先輩です。
先輩の愛犬が亡くなってから、今まで知らなかったはずの童謡が、繰り返し聞こえるようになる――先輩の日常生活を蝕んでいく怪奇現象という謎は、やがて服部くんたちの調査によって、徐々に繙かれていきます。そして、彼らの目で謎の答えを模索していた読者たちを、思いもよらない真実が眠っている場所まで、鮮やかな文章で導いていきます。
この短編で描かれた「死」に触れたとき、表裏一体の「生」を強く意識しました。酷薄なテーマを真っ向から見据えているにもかかわらず、筆致はとても柔らかで、登場人物たちの言葉からも、真摯な慈愛が伝わってきます。
そんな優しさの中に通った一本の芯が、「死者を弔う」ということ、そして残された者が「今を生きている」ということを、強く、しなやかに、誠実に、読み手へ語りかけているように感じました。作中に出てくる名古屋めしも、今回もすごく美味しそうでした。「食べる」ということもまた、生きているからこその行為なのだと、日常を成り立たせている営みにも、温かい愛おしさを覚えました。私も、今という瞬間の連続である毎日を、もっと大切にしたいと切に思いました。
服部くんたちの日々や、謎の答えが気になった方は、ぜひ探偵事務所にいらしてください。出会いと別れの季節のように、ほろ苦さと爽やかさが同居した読後感が、物語の扉を開けた先で待っています。おすすめです!