【絶望】

家に戻ると、

kちゃんが険しい顔をしていた。



なんで何も言ってくれない?


なんで迎えに来てくれない?


なんでそんな顔してる?



kちゃんの顔を見ると、

色んな感情が爆発してしまった。



『なんで!?』


『こんな状態になってるのに

 追いかけてきてくれないの!?』


きっと私は感情的に言ってたのだろう。



「………」


表情も変えず無言のkちゃんに、

私は言い続けた。



『なんで何も言わないの!?』


『このまま帰ってたら

 別れることになってかもやねんで!』




なんでこうなってしまったのか…


あの日のことはあまり思い出せない。



こうなったきっかけも覚えていない。



大きな事だったのか…


些細なことだったのか…


そこまで怒ることだったのか…



苦しくて辛い事から逃げる…

私の逃げ癖が出たのだろう。


未だに全く思い出せない。




この言葉を言わなかったら…


どうなってたのだろう。




『もう別れる!』


怒りに任せて言ってしまった。



引き止めてくれる前提だった。



そう…


kちゃんは引き止めてくれる…



そう完全に思い込んで言った。




幸せに慣れ過ぎなければ…


常に感謝の気持ちを持ててたなら…


もっと冷静になれてたら…


kちゃんの変化に気づけてたら…


kちゃんの気持ちも理解できてたら…


大人になった今の私があの日に戻れたら、

同じ結末にはならなかったのかな。


あの時からずっとそう思ってる。





「うん。別れよう…」





なんて言った?


聞き間違えた?




『今…なんて…?』




耳がその言葉を拒否したように、

脳がその言葉を理解しなかった。




「別れよう…」




頭の中が本当に真っ暗になった。




『なんで…?』


『なんでそんなこと言うの?』


泣きながら聞いた。



『ごめんなさい…』


泣きながら謝った。




この時点でもまだ

許してもらえると思ってた。




「ううん。最近考えてて。

 いつ言おうか考えてた。」


kちゃんは悲しい表情で私を見て言った。




『いやだ!なんで!?』


その表情を見てやっと察した。



” このまま終わってしまう… ”


そう感じ始めてきた。




「今の仕事をいつまでやれるか分からない。

 このまま大阪に居続けるかも悩んでた。」


kちゃんは言った。


「Aとの将来もちゃんと考えてた。

 でも、こんな状態で決断できなかった。

 ちょっと自分の先をゆっくり考えたい。」



今なら分かる。


20代後半の男の人。

自分の将来や仕事で悩む時期。


その上、結婚なんて…



優しくて真面目な人だから。


きっと、たくさんの人のことを

思って考えてたんだろう。


仕事で忙しい中、

疲れてても考えてたんだろう。


いっぱい考えて苦しかったんだろう。




それなのに…

私は何をしてた?



その優しさに甘えて、

自分の理想ばかり押し付けて…


一緒に居れる幸せを当たり前だと思い、

ずっと続くと思い込んでた。


誰より1番近くに居たのに…


ずっと見ていたはずなのに…



大事なものが見えなくなってた。



kちゃんは苦しんで悩んでるのに…

私は追い詰めるようなことをしていた。




『ごめんなさい…!

 ゆっくり考えていいから!

 だから別れるなんて言わんといて!』


私は心から懇願した。



「いや…別れよう」


kちゃんの返事は変わらなかった。




私は泣き崩れた。



『邪魔しないから…

 ずっと待つから…

 大阪から離れてもいいから…』


正常ではない状態になっていたのは

自分でも自覚していた。


それでも、kちゃんの答えが僅かでも

変わることを期待して必死に伝えた。



「…Aとの将来を本気で考えてた。

 でもな…

 どうしても消えないことがある。」



そして…kちゃんが言った。



「あの時の浮気が。」



再び、私の頭がより一層真っ暗になった。



「許したはずやのに…ごめん。

 でもどうしても引っかかってしまった。」




本当に消えたくなった。

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