5話 第三、第四の嫁(予定)

「それで二人ともどうしたの。なんか魔物に追われていたみたいだけど」

「……えーと……お恥ずかしい話なんですけど実は……」


 なるほどね、ゴブリン討伐の依頼を受けたから森に来ました。だけど、ゴブリンに魔法を放とうとしたら誤って蟻の魔物であるアントの蟻塚に攻撃してしまって兵隊蟻に追われていた、と。


 え、この子達、馬鹿じゃん。

 見た感じ十五歳くらいで金髪である事を除けば真面目そうな女の子なのに……なるほど、人は見た目によらないという事か。逆に考えるんだ、お馬鹿なところがある女の子って可愛くないか、と。


「幼いのに魔法が使えるなんてすごいね」

「と、取り柄がそれしかないので……」

「お姉ちゃんの方もゴブリンを簡単に倒せるだけの剣の腕があるなんてすごいよ。ものすごく努力したんでしょ」

「はぅ……やっぱり、王子様……」


 うん、姉妹なのに反応が違うね!

 妹の反応はまだ分かる。褒められて恥ずかしくなるのは僕もそうだから。だけど姉よ、せめて、僕と対話をしてくれませんかね。王子様以外に言う事は無いんですか。


「ああ、自己紹介が遅れたね。僕は旅人の蒼って言うんだ。一応、下級魔法と珍しいかもしれないけど闇魔法も少しだけ使える。 剣も人並みだけど使えばするかな」

「その若さで闇魔法を……凄過ぎます!」

「魔法も剣も使える王子様……最高!」


 おう、姉の方は無視する事にしよう!

 よくラノベとかで闇魔法は禁忌の力とか称される事があったから、適当に珍しいとか付けてみたけど正解だったね。闇魔法って言った瞬間に妹の方の眉がピクって動いた。とはいえ、癖で使ってしまった手前、隠せないから素直に話すんだけど。


【闇魔法を人が持つ場合は多くが魔族などに変化した時に獲得します。それ以外にもギフトとして持つものもいるので少しだけ訝しんではいるようです】


 なるほど、それなら仕方が無いか。

 まぁ、実際は吸血鬼という魔族だから訝しまれても仕方ないんだけどね。それでも僕からしたら可愛い女の子をハーレムに入れたいだけだし……別に闇落ちさせようとか、女を奴隷にしたいとかは無いんだけど。


「こっちは僕の彼女で従魔でもあるオークの夜叉丸だよ」

「アルジのオンナです」

「え……オーク……」


 確かに見た感じでは分からないよね。

 今の夜叉丸は普通に服を着ているし……高身長と肌の色を除けば目の前の女の子達と大して変わらない見た目をしている。金髪ショートの大きな吊り目の女の子、それでもオークなのは本当なんだよね。元の姿を知っているから違うと言いたくても言えないし。


「まぁ、そこら辺は気にしなくていいよ。従魔だから僕が襲うなって言えば二人に危害を加えないし」

「ホントウなら私イガイのオンナはイラない」

「いや、それを決めるのは僕だからね。夜叉丸並に好きな女の子ができたら彼女として迎え入れるよ」


 うーん、夜叉丸なりの独占欲かな。

 悪い気はしないけど……僕はハーレムを作る気でいるからね。夜叉丸のその考えは却下だ。どうせハーレムを作るのなら大人数がいい。十人と言わずに百人、千人でも娶ってやろうか。……いや、夜の方が持たなそうだから程々にしよう。


 夜叉丸だけでも死にかけそうだし。

 何と言っても性欲の権化であるオークの変異種だからね。普通よりも性欲が強い可能性だってあるんだ。わざわざ可愛い夜叉丸を放り出す理由もないから頑張らないと。


 とはいえ、夜叉丸が素直で良かった。

 前から人とあった時は吸血鬼である事やオークである事を隠すように話していたからさ。その甲斐あって嫉妬から変な事はしているけど僕の不利益になるような事はしていない。やっぱり、夜叉丸はハーレムに必要不可欠な存在だね。


「それで二人のことを聞かせてもらおうかな。ここに来た経緯は聞いたけど二人については何も知らないし」

「わ、私は妹のリンと言います」

「私は姉のランと言います、王子様」


 ランとリン……なるほど、覚えやすい。

 いいね、幼い事を除けば普通に攫ってしまいたいくらいには可愛い。というか、ランの方は何となく攫っても喜ばれそうな気がしてしまう。このまま拠点まで連れて行ってしまうか。


 いや、それはなぁ……食料とかの問題で連れて行っても楽しませられない。僕は夜叉丸の血で満足できるし、夜叉丸は生肉であろうと食べ物があればどうとでもなる。でも、二人はそうはいかないだろ。後、娯楽とかもあるわけじゃないし。


「アオイさんはこの後どうするのですか」

「うーん、蟻達を拠点に運んで次の魔物を倒しに行くかな。まだ日は沈まないだろうし」

「そう、なんですね」


 残念そうな顔をされてしまった。

 なんだろう……蟻の素材が欲しかったのかな。いや、別に欲しいのならあげるんだけど。散々、レベル上げのためにアントは倒しているし、正直、素材も余っている。ランとリンが僕に好意を持ってくれるのなら全然あげるんだけどなぁ。


「一緒に街に行きませんか。助けて貰ったお礼をしたいんです!」


 なるほど、そういう事でしたか。

 悪くない話ではあるけど……うん、今じゃない。色々と思案してみたが僕はどこまでいっても吸血鬼でしかないし、夜叉丸も見た目が人間に近いだけで魔物のオークだからね。そこを踏まえたら今は首を縦に振れないかな。


「嬉しい話だけどやめておくよ。街に行って変な人達に絡まれても嫌だからね。夜叉丸が変な男に騙されないとも言えないし」

「それは……残念ですね」

「交流したいとかなら全然いいよ。僕は僕で欲しいものがあるからさ。そこら辺を魔物の素材と交換してもらいたいかな」


 ランとリンが目の色を変えた。

 どちらかと言うと嬉しそうにしているから会う事が無くなると思っていたのかな。今の僕達は街に入れないから行きたくないってだけだしね。二人との関係を消したいわけでは決してない。何と言ってもハーレム候補に二人は入っていますから。


「お使いに近いかな。会う日を約束して僕達とラン達で交換し合う。本音を言えば魔物の素材は余っているんだよね。そっちは冒険者としてのランクも上がるし悪い話じゃないでしょ」

「すごく……良い話なんですけど……」

「でも、王子様。それで私達が強くなっていなかったらランクだけを上げても意味がありません。途中で素材やお金を奪われるのが目に見えています」


 おう、平常運転だけど鋭いな。

 確かに……二人が強くならないと疑われて僕の存在が浮き彫りになるだけか。それなら僕が街に入って登録だけしておくとかもアリかな。……いやいや、夜叉丸を置いていくのはまず持ってない。一人にしたら何をするか分からないし、絶対に隠れて着いてくる。


 それなら……こういう事ってできるかな?


【可能です。『闇魔法』の応用によって行う事ができます】


 だったら、それでいい気がするな。

 別に二人を信用しているわけではないけど欲しい物を手に入れるチャンスなんだ。これを逃したら廃村巡りだったり、盗賊討伐だったりで運任せになってしまう。それは面倒臭いから嫌だ。


「二人はさ、僕と契約できるかな」

「契約、ですか」

「そう、僕の力を他言しないって契約だよ。もしも破ったのなら大きな罰則を受ける事になる。それでもいいのなら二人をアントすら屠れるだけの力を付けさせるつもりだけど、どう?」


 これ自体は両者に理がある話のはずだ。

 ただ二人からしたら出会って間もない僕をそこまで信用できるかどうか。ぶっちゃけ、よく知らない男相手に自分の身を任せられるかって言う、日本人だったら確実に首を横に振る話だ。僕が逆の立場なら確実に遠慮している。


 だが、別に僕と契約して魔法少女になってよとか言っているわけじゃないんだ。きっと良いよって言ってくれる……まぁ、そんなわけないんだけどさ。メリットも大きい代わりにデメリットも大きくある。ここで悩む当たり二人とも頭は良いんだろうね。


「まぁ、別に即答はしなくていいよ。仮に僕が同じような提案をされたら拒否していたからさ。契約に託けて君達を騙す事もできる、そうだろ」

「……はい、その通りです」

「十分に考えた上でどうするかを決めて欲しい。って事で、夜叉丸。半分持って」


 いつもと同じ感覚で空間魔法を使うわけにはいかないからな。大きめの個体は風魔法で浮かしながら運んで、残りの小さめの個体は夜叉丸に担いでもらう。


 何度か見た光景だけど本当に夜叉丸ってすごいんだよね。六体のアントの死体を重ねて運べるくらいの筋力があって尚且つ、それを崩さないくらいのバランス感覚もあるんだ。日本にこんな人がいたらテレビに引っ張りだこだったと思うよ。


「アオイさんもヤシャマルさんも簡単そうに人並み外れたことをしないでください」

「いやいや、僕の場合は風魔法の応用だから難しくないよ。夜叉丸もオークだから人よりも筋力は高いからね」

「……それだけの魔法を使う場合、魔力制御に苦労するはずですよ。難しくないと思うのはアオイさんが普通じゃないだけです」


 正解です、殆どビビのおかげだからね。

 まぁ、これくらいなら力を見せたところで何かを言われたりはしないはずだ。寧ろ、力を見せ付けた方が二人が協力しやすくなる。弱い奴に強くしてやるって言っても説得力は無いからさ。


「まぁ、さっきの話は任せるよ。別に頼む相手は君達じゃなきゃいけないわけではないからね」

「……確かにその通りですね」

「そうそう、契約を抜きにして着いてきたいと言うのなら勝手に来てくれればいいさ。ただし、君達を楽しませられるような物は何も無いけどね」


 この二人で無ければいけない理由は無い。

 まぁ、ハーレムに加えたい程に可愛いし、素直なところからして欲しい人材ではあるけどね。これよりも良い人と出会える確証も無いなら多少は手の内を見せてもいいかなって思っている。悪い方向に進んだらその時に考えればいいさ。未来の事なんて分かるわけないし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る