6話 信頼のための信用
「ここは……廃村ですか」
「ああ、オークのコロニーになっていた廃村を潰して拠点にしているんだ。その時に夜叉丸も仲間に引き入れた」
初見だとその感想が浮かぶよね。
それでも夜叉丸と一緒に綺麗にして行ったから廃村の割には悪くないはずだ。外見だけで言えばゴーストタウンみたいに見えるけど。
「この柵とかも」
「ああ、僕達がやったよ。杭を打ち付ける分には夜叉丸がいるからさ」
「……本当に規格外なんですね」
いや、拠点にするのだから当たり前でしょ。
廃村の四方は森で囲われているから視界が取れないし、時折、魔物とかが周囲を歩いてきたりもするんだ。ソイツらが自由に村の中に入れるようだったら拠点としての意味が無い。
最初は威圧感とかを出して寝るとか、夜叉丸と交互に起きて寝てを繰り返すとか考えはしたよ。だけど、前者は変な人に絡まれるリスクがあったし、後者は夜叉丸が一緒に寝るって駄々を捏ねたせいでできなかった。
魔物のテイムとかも考えたけど……夜叉丸を見た後だと殆どの魔物が弱く見えるんだよね。魔物から僕達を守るとなると夜叉丸レベルの強さは必要だからさ。って事で、最低限の防衛戦だけ作っておいて他はビビに任せている。危険な時は無理やり僕を起こしてくれる手筈になっているから問題は無い。
「ねぇ、ここって今朝の依頼にあった……」
「うん、多分だけどオークナイト達に侵略された村だと思う。ヤシャマルさんもオークナイトから生まれたとしたら通常種と違っていてもおかしくないから」
ステータスが高いからかもしれないけど。
小声で話をしていた二人の声が聞こえてしまった。一瞬、目が合って逸らしたから聞こえている事はバレているだろうね。それにしてもオークナイトか……そんなのいたっけ。
【主が落ちた際に潰された存在がオークナイトです】
ああ、あの夜叉丸を襲っていた奴か。
それなら確かにいたね。……リンの言っているように夜叉丸ってオークナイトから生まれたの?
【明確な回答はできません。ですが、通常種に比べて進化種の方が変異種などを産みやすい傾向にあります。オークよりもオークリーダーが、オークリーダーよりもオークナイトが、といった形です】
分からないけど可能性は高いって事か。
まぁ……僕の体重に押し潰されて死ぬような奴だからさ。本当に強かったのかって思ってしまう。それでも五百メートルくらい高いところから落下していたから押しつぶされて死んでもおかしくないんだけどね。逆に死ななかった僕の方がおかしいだけだ。
とはいえ……倒しちゃったからなぁ。
「もしかして倒したらいけなかった?」
「いえ……ただ、冒険者達が攻めてきてもおかしくないのではないか、と」
「なるほど……それは面倒だなぁ」
相手が話を聞く存在ならまだいい。
だけど、これがラノベとかによくいる正義厨というか、英雄気取りの馬鹿だと夜叉丸が殺されかねないからなぁ。下手をしたら僕の身だって危なくなってくるし。……やっぱり、他の人に話を通してもらうべきか。
「何か素材でも渡すからコロニーが壊滅した事を伝えてくれないかな。夜叉丸に関しては冒険者達に攻撃されてもおかしくないからさ」
「伝える程度であれば可能ですが……恐らく私達の話を聞き入ってはくれないと思います。オークナイトはかなり危険視される存在ですから……」
「詳しい説明ができる人が必要になるってところかな」
うーん、その通りなんだよなぁ。
僕の気持ちも分かっているし、それでも上手くいかない事が目に見えているから俯きながら頷いたのだろう。いやー、僕からしたら面倒事の宝庫である街に行くのは後回しにしたいんだけど。だとしたら、スケープゴートが必要だろうし……ああ、そっか。
「オークナイトの素材をあげるから代わりに倒したって事にしてくれない」
「無茶を言わないでください! その時にはきっと私達の腕を試される事になります! そこで私達が倒していない事はバレるでしょうし! 下手をすれば功績を横取りされる可能性もあります!」
「別にオークナイト討伐の功績とかどうでもいいんだけどなぁ」
倒せたから……何があるんだろ。
いや、良い事もイメージが多く湧くけどさ。それと同じくらい悪いイメージも思い付くんだよね。自由に生きる上で面倒な奴に絡まれる機会っていうのはなるべく減らしたい。強さをひけらかすって事は貴族とかに絡まれる機会も増えるって事だからさ。と、言う事で……。
「まぁ、近いうちに廃村から出るから気にしなくていいよ。別に拠点なんて作れるだろうからね」
「……本当に不思議な人ですね。オークナイトを倒せるともなれば名も売れるというのに」
「それでランやリンのような女の子と仲良くなれるのなら悪くないかもね。僕からすれば名前が売れるよりも可愛い女の子と仲良くなりたいだけだからさ」
「王子様……いや、英雄様の方が正しいのかも」
それはどういう意味だ。
アレか、英雄色を好むみたいな話かな。まぁ、女の子は大好きだからあながち間違ってはいないし否定はしないよ。ただ英雄になるつもりは無いからそこだけは否定しておきたい。……ランが聞く耳を持つとは思えないけどね。
「少しだけ……先程の話を信じてもいいと思ってきました。アオイさんが相手なら変な契約にはしないでしょうし」
「分からないよ。ずっと僕の近くにいてとか書き始めるかもしれない」
「それなら嬉しいわ!」
「私も別に構いませんよ。逆にアオイさんが私達に愛想を尽かすかもしれません」
ええ……冗談で言ったんですけど……。
いや、今までの人生で冗談を真に受ける人がいなかったから対処法が分からない。アレか、大学にいた優しくしてくれた女子みたいな存在なのか。最終的にはノートを借りパクするだけの彼氏自慢女になり下がってしまうのか。
ま、まぁ、その時には夜叉丸がいるから別に良いんだけどさ!
【私もいますよ】
そ、それなら別にいいさ!
多少は真に受けてやろうじゃないか! とはいえ、この動揺は悟られないように……そうだな。
「その時はその時って事で」
「ふふ、本当に不思議な人ですね」
くっ……笑顔が眩し過ぎる。
アレか、僕が吸血鬼だからいけないのか。リンと言う太陽に灰にされかけている……さながら、僕は太陽に近付きすぎたイカロスのよう……。
【少し気持ち悪いですね】
やめて! そんな痛い人を見るような目は!
【私に目はありませんよ】
心の目、通称『心眼』の影響でビビの美しく済んだ目が見えているんですよ。その目によると今のビビは僕を痛い人だと思っている。……まぁ、痛い人なのは否定しないけどね。ノリよく出来なかったら学生生活を生き延びる事は不可能だろうし。
イケメンで、金持ちで、家庭環境が良くて、周囲には良い人しかいない……そんな最高に恵まれた世界に産まれたかったよ。きっと、そんな空間で生きれたなら僕も……。
「どうかしましたか」
「……いんや、ありもしない事を考えていただけだよ」
「それって……」
「リンの想像通りの事だよ」
うーん、いきなり頬を赤くして俯いたな。
もしかして、適当に返したけど変な事でも想像していたのかな。今の子供達ってませているね。いや、ランと違ってリンがムッツリスケベなだけかもしれないけど。
「ここにいる間は自由にしてくれ。僕達は僕達で普段通り暮らすからさ」
「随分と……信用してくれるのですね」
「信用しないと信用して貰えないだろ。それにここにある物で盗まれたくないのは夜叉丸くらいだからね。そういう人だと分かったら追い出せばいい」
ましてや、普通の人が夜叉丸に勝てるとは思えないしね。本当に強い人か、もしくは小細工があるかじゃないと確実に勝てない。ビビ曰く、僕の従魔って事でステータスの増加幅が大きいらしいし、元から変異種でもあるから通常の数倍は強くなれるって教えてもらった。
「じゃあ、夜叉丸。コイツらを解体しておくぞ」
「わかった」
計十五体……少し手間取りそうだけど普段通りやれば時間もかからないか。ビビの説明をそのまま伝えたら夜叉丸も解体の仕方を覚えたし。……最悪はビビに体を動かして貰えば無駄を省けるか。
【任せてください。ただ……】
ただ……?
「あの」
「うん?」
「手伝いましょうか……?」
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