7話 それ相応の対価を

 なるほど、ランとリンが手伝ってくれるのか。

 確かに……それならビビの手を借りなくて済むかもしれないね。いや、二人が解体できるかどうかで少しだけ話は変わってくるか。オークとかのように血抜きをすればいいだけじゃない。一番の問題点は素材としても価値の高い酸を無駄にせず解体できるかだ。


「ありがたいけど解体した事あるの」

「ふふん、王子様。こう見えて私は何度もアントの解体をしていましてよ。『冒険者界の万事屋』の二つ名は伊達じゃありません!」

「うーん、それは褒め言葉なのかな」


 どちらかと言うと蔑称のような気がする。

 それでも冒険者たるもの解体の一つも出来ない奴よりは間違いなく有用なんだけどね。そこまで自信があるようなら手伝ってもらうか。……でも、ランの事だから絶対に下手くそなんだろうなぁ。


「……上手いな」

「ふふん!」

「確かに二つ名にそぐう解体技術の高さだよ。これならランにいっぱい任せられそうだ」


 予想を大きく裏切られてしまったな。

 ランの自信の通り何体も解体をしてきた僕より早く、それでいて丁寧に部位毎に分けてくれた。こんな事ができるのに彼氏がいないなんて……本当に二人の近くにいる男達は見る目が無いんだね。


 酸の溜まっている部位が分かっているからか、そこを傷付けないで解体できている。これがどれだけすごいかって言うと例えば酸の溜まっている袋を少しでも傷付けた場合、それが辺りに漏れ出して全てを溶かしていく。とはいえ、酸の溶かす範囲は皮膚とかのタンパク質のようだし外皮とかを使えば持ち運びは簡単なんだけどね。


 それこそ、外皮とかは熱で加工できるからガラスとかの代替品に使える。後はビビ曰く畑とかの肥料にもなるらしい。……要はそれらを傷付けずにバラバラにできるランの技術は普通じゃないって事だ。それだけの事をしてくれているのだから何かを返さないと……そうだね。


「後でアントの討伐証明部位でもあげるよ」

「え、いいんですか」

「うん、これだけの事をして貰えるのに何も無いとはいかないからね。それに僕からしたら金にもならない物だからさ。二人にあげた方が利益になるでしょ」


 冒険者には討伐証明部位という魔物を倒した証拠となる部位を持ち帰る事が義務付けられている。とはいえ、素材として使えない部位が討伐証明になりやすいから金になる魔物でも無い限り持ち帰る人は少ないらしいけど。


 例えばゴブリン、コイツらは右耳が証明になるらしいね。でも、持ち帰っても大した金にならないから倒したら放っておくって人も少なくない。アントの場合は二本の触角だったかな。これは割と良い金額になるらしいから礼には丁度いいと思う。


「……本音を言わせて頂くとありがたいです。今は税金も高いですし……」

「ふーん、なら、尚更いいよ。本当に持っていても仕方の無い物だからさ。触角なんて素材にもなり得ないし」

「王子様がそこまで言うのだから貰っておきましょう。リンの懸念も分かるけど、それ以外の事で恩返しをすればいいだけの事よ」


 うんうん、僕の気持ちを察してくれたみたいでありがたいよ。こういうところでランが本当に姉なんだなって分かる。優柔不断な部分があるリンを引っ張るランか……結構いいね。


 何度も問答を続けてもいいけど、僕からしたら本当に討伐証明部位なんていらないからなぁ。触角が何かの素材になるならいるかもしれないよ。それこそ、ポーションとかを作る時に魔物の素材が使われる事もあるらしいから。でも、アントの触角に関しては本当に何も使えない。あっても肥料になるくらいってビビから聞いた。それでも他の部位に比べたら価値が薄いんだけど。


「別に今日しか会わないってわけじゃないんだから気にしなくていいよ。それに金に余裕が無いのなら遠慮する事は無い。代わりにリンが僕に笑顔でも見せてくれたらそれでいいよ」

「笑顔……変態ですね」

「なぜに!?」


 確実に変な事を考えただけだろ。

 想像の中の僕がリンに変な事をさせたから本当にするみたいに言われているんだ。……したくないと言えば嘘になるから否定しないけど。エッチな事をしたいかと聞かれれば微妙だが吸血という如何わしい行為はしたい。


 ずっとチューチューしたいです!


【吸血行為は一種の性行為とも言えますので確かに如何わしい行為とは言えますね】


 実質、夜叉丸と性行為をしたって事か。

 まぁ、それも後々に言葉通りする訳だから別にいいや。ランとリンは幼さの残った女の子だけど、夜叉丸はどっからどう見ても大人の色気漂う女性だからね。あの体を僕のものにできるとなるとヨダレが出そうになる。


「ま、まぁ、そっちの方は二人に任せるよ。終わり次第、アントの討伐証明部位はあげるからさ」

「ありがたく頂戴するわ、王子様」

「えっと……ありがとうございます」


 お、おぅ……二人の笑顔癒されるな。

 何だろう、自分の汚い部分が浄化されていくような気分だ。二人は他の人達みたく大学や成績で人を評価しないし、見た目の割にはしっかりと線引きされたラインまでしか踏み込んでこない。


 それにしても税金が高いかぁ……。

 どこの世の中も不景気なんだね。いや、元の世界の場合は明らかに上の人達が勝手に使っているだけに見えたけど。あの人達は甘い蜜を吸っている癖に金を持たない庶民には鞭だけを打つ。……この世界に来れたのも見方を変えれば嬉しい事なのかな。アイツらのためになるような事を何もしなくていいわけだし。


「アルジ、私イガイとイチャイチャしすぎダ」

「ごめんごめん、でも、夜は一緒に寝れるんだから今は別にいいだろ」

「それとコレとはハナシが別ダ」


 はいはい、嫉妬しているのは分かったって。

 もう、二人っきりの時はこういう事は言わなかったのに人が来たらこれだよ。いや、二人っきりだったから分からなかっただけなのかな。もしかして他の女の子が現れて焦っているとか。


 まぁ、それならそれで可愛いからいいや。

 ずっと、その気持ちを抱いてくれるのなら僕としても嬉しい限りだし。僕だって才能豊かで可愛らしい夜叉丸を手放す気なんて無い。この子は死ぬまで僕の傍にいてもらう。……最悪は吸血鬼になってもらって永遠に生きてもらおうかな。


 さすがにそれはエゴが過ぎるか。


「と、二体目終わり」

「……私より早くありませんか」

「気のせい気のせい」


 そりゃあ、ビビの手助けもありますし。

 考え事をしながらともなるとビビに助けてもらいながらの方が断然楽だ。ビビはビビで頼りにされると嬉しそうにするからウィン・ウィンの関係だしね。


【……喜んでいるのかが分かりません】


 でも、質問とかをしたら即座に返答してくれるよね。しっかりと言葉を選びながら言っている当たり嬉しくないと出来ないと思うよ。お願い事をしてもより良い方法を考えて提案してくれるし。普通なら自分でやれよってなったりするよ。


【主のために中途半端な事はしたくありません】


 なら、嬉しいって事にしておくよ。

 いやー、僕にはビビがいて本当に良かったなぁ。僕以外にはこういう役に立って助けてくれるような存在がいないって事だよね。さすがはハーレム予定候補の一人だ。


【……恐縮です】

「え……もっと早くなった」


 あれ……体が勝手に動くんだけど……?

 まさかとは思いますけど……もしかしてビビさんが体を動かしていますか。そうでも無い限りはおかしいくらいの早さで手足が動いているんですけど。


【勝手ながら主のためになると思い動かさせて頂きました。もしかして……】


 いやいやいや、ありがたいですよ。

 たださ、一言だけ教えて欲しいかな。いきなり体の自由が聞かなくなったら僕でも驚くからさ。次からは何かしら伝えて動かしてくれ。


 という事で……今日はこのアントを塩とかで茹でて食べるとしますか。最初は抵抗があったけど食べてみたら意外と食えるのよね。


 例えるのならカニの味を少し薄くして生臭さを消してから土臭さを足した感じ。ほんの少量の酸と水を混ぜ合わせるとレモン汁のような酸味のある水になる。まぁ、レモンのような香りは一切ないから物足りなさはあるけど。


 それでもただの塩味と比べると一気に味わいが変わってくる。塩だって大量に余っているわけではないし……そのうち買いに行かなきゃいけないだろうなぁ。その時には二人に頼めばいいか。


 おし、料理でも作っている間は二人に休める空間でも作ってやろう。ビビの指示通り作った良い休憩道具があるんだよね。折角の機会だから色々と楽しんで貰えそうな事をしようじゃないか。

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