8話 男として覚えておかなきゃいけない事がある。それはN・O・Z・O・K・Iはバレてはいけないという事だ。

「ふう、こちらも解体、終了しました」

「お疲れ様」


 少しばかりして解体が終了した。

 今回のアントに加えて過去のアントも取り出して解体を行ったから……多少は時間がかかったけど早めに終われたように思う。まぁ、二人が手伝ってくれたからこそ、できた事なんだけどね。


「という事で、これ」

「……全体の量は見ていましたが討伐証明部位だけでもすごい数ですね」

「計四十体分だからね」


 そのうちの十体をランとリンが担ってくれた。十二体を夜叉丸が、残りの十八体をビビがやってくれたから……これで解体が済んでいないアントは無くせたよ。前から倒していたけど惰性でやっていないものが多かったんだよね。


 そのまま放置していたら勝手に腐っていくけど異次元倉庫の中に入れておけば腐敗は防げる。ここら辺は二人が他の事をしている間に回収しておけば言い訳は作れるだろう。素材とかをしまう場所があるんだって言えば納得してくれると思うし。


「これだけで金貨まで稼げますよ」

「十体も解体したんだから見合った報酬じゃない」

「……普通は小銀貨でも貰えたら御の字よ。解体なんて誰でも出来るって言われている仕事だし」


 ふーん……でも、面倒事を減らせたしなぁ。

 ぶっちゃけ、魔物を倒すのは強くなれる実感があるから好きだけどさ。その後の解体作業とかは面倒くさくて好きじゃないんだなぁ。感覚的には料理をした後の洗い物が面倒みたいなのに近いような気がする。


「僕からしたら討伐証明部位なんて要らないんだよ。だから、少し高い報酬になったとしても別にいいや。それでも納得できないのなら可愛い子の笑顔を見れた事に対する上乗せだと思って」

「本当に調子のいい事を言いますね」

「まぁ、事実だからね」


 今の些細な気遣いが将来的な利益に繋がる可能性がある。もっと言えば僕という存在には人間の協力者が確実に必要になってくるからな。その時に僕が相手なら多少の手伝いはしてもいいと言ってもらうためには信頼が必要だ。


 僕からしてらゴミ、彼女達からしたら金になるものなのであれば喜んで渡すでしょ。ましてや、可愛い子の笑顔を見れて嬉しくない男なんてどこにいるんだ。世界共通言語でもあるkawaiiにはそれだけの価値がある。


「って事で、今のうちに夜叉丸と一緒にアントの素材を分けておいてくれないかな。その間にしておきたい事があるんだ」

「手伝いますか」

「僕がしなきゃいけない事だったら必要ないよ。簡単な事だし、それよりも素材を分けてもらった方が助かるからね」


 出来れば秘密にしたい事だからね。

 いや、バレる分には別にいいんだけどさ。一種のサプライズみたいなものだ。ビビ曰く、一般市民があまり経験した事の無いものらしい。……まぁ、転生する前からラノベではよくある話だったし驚きはしなかったけど。


 ただ日本人としてはやはり捨てたくない。

 そんな大切な日常の要素の一つでもあるものだ。僕からすれば醤油が無くなるのと同じくらい消えて欲しくないもの……おし、アントの外骨格を出しておいてっと。


 ビビのアドバイスをもとに加工を施したアントの外骨格だ。それも今まで倒した中で一番に大きいアントでもある。とはいえ、闇魔法だけで簡単に倒せたけどね。


 この殻を使って簡単な風呂を作ったんだ。本来ならアントの殻には若干の酸が残っているから風呂になんてできない。だけど、そこはビビのおかけで魔力の層を作る事によって、触れたとしても体が溶けるなんて事は無くなったから安心して使える。なんなら、何度か僕も入った事があるし。


 それでも中に入れる水には魔力を含めなければいけないし、水を入れ過ぎたら殻が壊れるとかいう弱点も多いけどね。だけど、殻の下から直火を当てても壊れないようになったから……僕が水を入れる分には何の問題も無い。


 土魔法で殻の下に穴をあけておいて……中に燃えやすい草を投げ入れておく。後は割っておいた薪とかだね。これで大体の準備は整え終わった。


 ビビ……って言わなくても大丈夫か。


【はい、準備は整えておきました】


 それならオーケー。さっさと済ませよう。

 魔力の放出はビビに任せて殻の中に湯を注いでいく。水と火を両立させて作る湯……難易度もそれなりに高いけどビビがいるおかげで本当に楽に進められている。四十二度程度の調節をビビに任せて殻の中に湯を注いでおくだけ。


 このままだと冷めるだけだから最後に下の穴に火魔法で火を投下してっと。……よしよし、これで準備は万端だ。すのこ代わりに作った少し厚めの木の板を中に入れれば終わり。


 ありがとう、ビビ。


【主のためですから】


 クールな感じは変わらないか。

 でも、そのうち勝手に変わっていくだろ。折角だからクーデレとかになって欲しいな。いや、ヤンデレも悪くない。……よくよく考えてみれば夜叉丸がヤンデレみたいなものだし同属性は一人で十分か。


【べ、別に主のためじゃないんだからね】


 うーん、二十点。

 感情の籠っていないセリフでは愛を感じられません。それに普段のビビの雰囲気の方が好きだからね。わざわざツンデレのセリフを使う必要は無いよ。


【未熟で申し訳ありません】


 感情が分かってきたら同じ事をしてみて。

 その時には……ビビにも体があるだろうからなぁ。きっと今みたいに冷静に点数をつけていられなくなっていそう。体が無い今でさえ、ビビは可愛いのに体なんて手に入れたら鬼に金棒、いや、美女に黒ビキニだよ。


【……恐縮です】


 なんだろう……ツッコミ待ちだったからこっちが恥ずかしくなってきた。こういう事を言っていたせいで女の子にモテなかったんだろうなぁ。ヤリサーに入っていたとしてもアイツらみたいな事ができたと思えないし。


【私は今の主を好ましく思っています】


 なるほど……なら、良かった。

 まぁ、もしかしたら女の子への対応の仕方が分からないからこそ、夜叉丸やランとリンと仲良くなれた可能性もあるからね。ガツガツ行くだけが男では無い、ということにしておこう。


 後は風呂の周囲に土魔法で壁を作っておけば完了だ。……ちょっと待てよ。ビビに聞きたい事があるんだけどさ。もしかして僕が見たものってビビに頼めば再度、見せる事ってできる?


【可能です。夜叉丸の裸体も】


 あー! それに関しては別にいいです!

 ただ……そうか、見れるのか。これはこれは少しばかり欲望に身を任せて見るのもありかもしれない。そうなる事は無いだろうが……後々、素材不足になってくる時が来てもおかしくないからな。つまり何をしようとしているのかと言うと……。


 ジャパニーズ N・O・Z・O・K・Iだ。

 しかし、この行為には一つだけ大きな欠陥がある。それはバレてはいけないという事。これは簡単そうに見えて実はものすごく難しい。なぜなら、風呂は土の壁によって全面的に塞がれてしまっている。


 それなら穴でもあけようか、いや、それはあからさまに覗いていますと言っているようなものだ。地面からでは風呂に入って惚けている美女達の顔を見る事はできない。屋根が無いという点から空中から除くのも無しだね。確実に上からの覗きは中の人達にバレてしまう。となると……くそ! 八方塞がりか!


【闇魔法によって第三の目を作り出すという考えを提出致します。今のうちであれば目を設置する事も難しくなく、隠蔽をかけておく事によって看破される心配もありません】


 ナイス! さすがはビビだ!

 こういう時にビビが僕の味方である事を感謝するよ。おかげで誰にもバレずにノゾキを完了させる事ができる。そして……ふっふっふっふっふ。


 イメージは……詳しくしなくていいか。

 ただ、ある程度は使い道があった方がいいだろうから魔力を多く消費する代わりに、多少は移動させられるようにしておこう。このイメージの中に隠蔽の力を加えて……オッケー、これで大丈夫そうかな?


【充分です。では、この通りに技を生成しておきます。名前はどのようにしますか】

第三ノ眼サード・アイ


 うん、確かに目ではあるね。

 でも……小さいせいで凝視しないと見つけれそうにない。というか、これ自体に隠蔽もかけられているから相手が察知能力に長けていない限りは大丈夫だろう。僕が入っていたとしても気が付けないレベルに性能の高い技だし。


 これで……自分がしたイメージ通りなら目を閉じればいいんだっけか。おお、確かに僕のイケメンな顔が見えるな。肉眼と変わらない程の高画質だし大事なところが見えないって事は無いと思う。


 移動は……頭の中でどっちに動いて欲しいか考えればいいだけか。一つだけ気を付けなければいけないのは移動速度が速い事だな。感度の高いマウスカーソルみたいなレベルで視点が移動してしまうから酔いかねない。


 この眼をもう四つだけ設置してっと。

 これで準備は万端だね。視点の切り替えも脳内で指示すればいいだけだから問題は無い。とはいえ……少しばかり良心の呵責というものは出てきてしまう。この年で覗きって言い方を変えれば盗撮と変わりないんだよなぁ。


 うん、めちゃくちゃ罪悪感が出てきたからやめよう。個人的には第三ノ眼を作り出せただけでも儲けものだし。……それこそ、ランとリンが帰った後にでも使うとするか。もちろん、夜叉丸の裸を見るために!


 両者の合意があれば覗きをしても怒られないからね! それにイケナイ事をしているからこその背徳感も得られるという一石二鳥! これだ! わざわざ二人に嫌われるような事をしなくてもいいじゃないか!


 って事で、第三ノ眼は破壊しておく。

 さてさて、湯加減もいい感じだし……二人とも楽しんでくれたらいいなぁ。今更だけど二人が使った湯に入れるだけでも十分、役得だからね! ってか! それだけで充分なご褒美じゃん!


 これだ! 今日はこれにしておこう!

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