11話 大切な話
「はぁ、美味しかったです」
「いつの間にか、暗くなっていたみたいだし……そこまで楽しんでくれたのなら良かったよ」
食事を始める前は明るかったはずだ。
そう考えると……一時間は食事をしていたんじゃないかな。最初は作り過ぎたかなって思っていた食事も三人が思いの外、食べてくれたおかげで空っぽになっちゃったし。
「……すいません」
「あ、ああ、別に気にしなくていいよ。こっちの方が作った甲斐があるからさ。全部、食べ切ってもらえるほどには美味しいと思って貰えたのかって。それにたくさん食べる女の子の方が個人的にも好きだからね」
「私の事が……好き……」
いや、そんな事、言っていませんけど。
夕食の食べ過ぎがどうとかで嫌な気持ちをさせるよりはマシか。僕からしたらどうでもいい話なんだけどなぁ。うーん、気にしているようだし視線の動きとかにも気をつけた方が良さそうだ。
「王子様の手料理を残す理由などありません」
「うん、平常運転だな」
「それがランの良いところです」
おお……何がとは言わないけど震えた。
そっか、ランって見た目は幼いけど着痩せするタイプの女の子だったんだね。なんか少しだけ背徳感を覚えてしまうが……日本にいた時は幼い子に見合わないアレは好ましく思えなかったんだけどな。
やはり、二次元と三次元で感想は変わってくるのか。それに大きいは一種の正義とも言えるからね。顔の幼さは成長によって変わっていくんだ。その点で言えば大きいに越した事は何も無いはず。
「……なんですか」
「いや、ナンデモナイデス」
あっぶな! リンに叩かれそうだった!
いや、確かにさ。姉妹で顔も似ているのにそこは似ていないんだなとは思っていたよ。だけど、別に悪い目で見ていたわけではない。だって、今の顔の幼さからしたらランよりもリンの方が好みだからね。
もっと言えば小さいのも正義だ!
ただリンに嫌われたくは無いから視線だけ外しておいて皿とかを一箇所に集めておく。日本にいた時は洗い物に苦労していたけど今となっては……。
「
この一言で済んでしまう。
生活魔法の技の一つだっけか。単純に何でも綺麗にする事ができるという技で……まぁ、その便利性から使えるだけで貴族に仕える事が出来るようになるらしい。所謂、召使いになるための資格の一つだそうだ。
まぁ、なりませんけどね!
ワンチャン、男爵家の執事長の吸血鬼とかカッコ良くてアリかなとか思ったよ。だけさ、それで面倒事に絡まれやすくなるのなら拒否したい。僕からしたら幸せに堕落して生きていたいって言うのが本音だし。
「生活魔法も使えるんですか」
「うーん……使えると言えるほど練度は高くないけどね。少し前に覚えたいと思ったら覚えられたんだ」
「……ちょっと何言ってるか分かりません」
だって、重要な部分は隠していますし。
というか、わざわざ覚えられた話とかはしなくて良かったかな。後で突っつかれたら面倒だなって思って口にしたけど……普通に考えたら天才のそれにしか感じられないし。これに関してはビビがいたから覚えられただけなんだよなぁ……。
【いえ、主に才能があったからこそ、簡単に覚えられました。本来であれば並行して覚えると言った事は不可能なのですが……】
そこは吸血鬼の体だからだね。
ほら、やっぱり、僕の才能では無い。転生した結果、その体がチート級のスペックがあったってだけ。いや、その体を手に入れられた時点で運が良いって事だから……そこだけは僕の力かな。
ま、今となってはどうでもいいけど。
前みたく何をやっても上手くいかない状況にならないのならそれでいい。好きな子と仲良くなっても性格が最悪な男に奪われるとか……そういう経験は懲り懲りだ。ああいう気持ちはもう二度と味わいたくないね。
「じゃあ、後は好きにしていていいよ。夜叉丸と何かしたいのなら言えば納得すると思うし、休みたいのなら一番、大きな屋敷の一室でも使ってくれ」
「アオイさんは……」
「僕は風呂に入るつもりだよ」
美少女達が入った後の残り湯。
その言葉だけで頑張って夕食を作った甲斐があると言うものです。さすがに飲んだりとかはしないけどね。どこぞの好きな子の使っているシャンプーを買って飲むとかいう、変な人達ほど頭がイカれてはいない。
二人とも夜叉丸の方に行ったから……今日はゆっくり入れそうだなぁ。いつもなら夜叉丸が乱入しようとしてきていたから休めなかったし。あの子にはもう少しだけ羞恥心というものを持ってもらいたいよ。
「うーん、良い感じだ」
これが女の子……もとい、お風呂の香り。
吸血鬼になってしまったせいで五感が鋭くなっているからこそ、普段との香りの違いが分かってしまう。今ならばワインの飲み比べすらもできるんじゃないか。
適当に服を脱いで一箇所に集めておく。
まだ少しだけ湿っている地面に腰を下ろして体に湯をかけた。湿らせたタオルで体を強く擦ってから風呂に足を下ろす。ええ、ええ……言わずもがな、気持ちいいですよ。
なんと言いますか……幸せですね。
この感じのままで日本酒を煽りたい。ただ腹一杯の状態で酒を飲むのは少し危険だからやめよう。今はビビの第三ノ眼で見れる景色を楽しみながら湯に体を沈めるだけだ。
ボーっと……暗くなった空を眺めて……ああ、本当にここって日本じゃないんだな。気がついていなかったけど空に赤い月が二つあるや。星も日本にいた時はここまで綺麗に見れなかったし。
だから、自然って好まれていたのか。
こうやって見れる景色は……確かに一つの大きな思い出になる。襲わないって約束をしてもらってから夜叉丸と一緒に入ろうかな。この気持ちを一人で味わうのは少しばかり……勿体無い気がしてくる。
……ってか、あれ……?
気の所為じゃなかったら更衣室から足音が聞こえた気がする。それに空気の流れも一瞬だけ変わっていたし……風呂とは違った匂いもした。間違いじゃなければこれは……。
「って、逃げられないか」
仕方が無いから腰にタオルを巻いた。
いや、夜叉丸じゃない分だけマシかもしれないけどさ。少しばかり大胆ではありませんか。僕が入っているって分かっているはずなのになぁ……。
「ラン、何か用があるの」
「うぇっ……バレてた……」
「隠れるつもりならもっとしっかり隠れないといけないよ。足音が聞こえ過ぎだ」
まぁ、僕の感覚が鋭過ぎるだけだけど。
匂いの時点でランである事は分かっていたからなぁ。……ってか、バレたのなら帰ってくれ。なんでタオルを巻いて中に入ってくるんだよ。
「はぁ……」
「お邪魔でした?」
「……こっちの気持ちも考えて欲しいかな」
「うーん……王子様ってエッチなんですね!」
おい! どちらかと言うとランの方が……。
あ、いや、盗撮未遂の前科がある僕の方が変態ではあるか。というか、一緒に入ってくれるのなら別に第三ノ眼も不必要だったんじゃ……違う使い道があるから別にいいか。
「……襲うぞ。本当に」
「それで助けて貰えたお礼ができるのなら。あ、でも、しっかりと責任は取ってくださいね!」
「面倒そうだから襲うのをやめるよ」
何を言っても出ていってくれなさそうだ。
はぁ……諦めるしかないか。僕が出ていってもいいけどランに何かを言われるのも嫌だし。それにランの方が望んだんだ……今はランの姿を脳内に残す事に専念しよう。
「気持ちいいですぅ……」
「空いているんだから反対側に行けばいいのに」
「またまたぁ、こうされて嬉しいんじゃないですか」
うーん……嫌では無いの方が正しいかな。
たださ、僕の膝の上に座るのは割と本当に嬉しくは無い。だって、肌の感触が直に伝わってくるし、少し下を向いたら肌にピッチリとタオルがくっ付いたランが見えてしまう。さっきよりもボディラインがしっかり分かってしまうから……男としての性に抗う事が難しいんだよ。
絶対に夜叉丸を寝かして、この感触で……。
「はぁ、それで何の用なの」
「王子様と一緒にお風呂に入りたかっただけですよ」
「嘘だね。さすがに分かるよ」
その表情……図星みたいだなぁ。
割とカマをかけただけなんだけど……こうやって俯いて黙ってきたあたり本当に話があって来たんだ。恐らく二人っきりで話したかったからとか、そんな感じか。
「どうして分かったんですか」
「勘。ただ強いて言うのならリンは僕が風呂に入っていたら接触して来ないだろうし、夜叉丸は僕が命令したら言う事を聞く。だから、完全に二人で話ができるのは今しかないから、とかかな」
まぁ、どうとでも言い訳がつくけど。
本当に無理やり捻り出したら、こういう理由が思い浮かんでくるかな。後はランが積極的に僕に何かをしたかったって可能性もあったけど……そこら辺はカマをかけた時点で篩にかけて排除ができるはずだ。
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