14話 無意識的な匂わせはどうする事もできません!

「という事で、今日から二人に戦闘訓練をつけようかなと思う」

「……まだ契約をしていないと思うのですが」


 うん、リンとは契約していないね。

 でも、ランとは既に契約を済ませてあるんだ。チラッと顔を見たら恥ずかしそうに目を逸らされたし……助け舟は出してくれなさそうか。だったら、それらしい言い訳を作らないと……。


「ほら、契約をする前に僕が本当に教えられるかが重要だろ。そこも加味して二人には契約するかどうかを考えてもらいたいんだ。駄目かな」

「なるほど……確かに良い話ですね」

「さすがは王子様!」


 声だけは……大きいんだなぁ……。

 昨日から一度たりとも目を合わせてくれないくせに誰かを挟んだら変わらない反応をする。なんだかんだ言ってランも勝手に体が動いていたんじゃないのか。そう思えてしまうくらいには素っ気ない。


「まずは二人がどうやって戦っているのかの確認からだね。ランは兎も角として、リンは魔法という難易度の高い戦い方をしなければいけない。だから、しっかりと見させてもらうよ」

「はい! 頑張るまふ!」

「はは、あまり気負わないようにね。危ないと判断したら夜叉丸に助けに入ってもらうし、難しそうなら僕が敵を殲滅するから」


 僕(ビビ)ですけどね。

 ただビビは僕の女なので僕として扱ってもいいと思うんです。ほら、両思いなら一体化してもいいとさえ思えてくるでしょ。……あー、いや、一体化(意味深)にしか感じられないからやっぱり無しで!


「ラン」

「……はい」

「期待しているよ」

「……はい!」


 ようやく目を合わせてくれた。

 なんだろう……怒っているとでも思っていたのかな。いや、確かにさ、いきなりされた時にはビックリしたよ。あの後だって寝付くのに時間もかかったし、リンからの問に答えるのだって苦労したけどさ。


 こんな美少女とできて嫌な訳が無い。


「頑張り次第では何かご褒美をあげるからね」

「ご褒美……!」

「……えへへ」


 うん、ラン、少しは隠そうか。

 反応があからさま過ぎて何かあったのがバレバレなんだよ。なんだ、そんなに僕の童貞ハートを傷付けて楽しいのか。本当に襲うぞ、もう種族とか関係無しに吸血鬼として襲撃するぞ。


 ……まぁ、そんな勇気無いんだけどさ。


「夜叉丸は僕の隣にいる事。二人が危険な状況に陥り次第、救援に向かってくれ」

「……あばれたい」

「駄目だ。今日の目的は二人を強くする事であって僕達が強くなる事じゃない」


 言ったら悪いけど夜叉丸は強過ぎる。

 ランとリンの力は未知数なところがあるけど、明確にアントの群れを処理できない事は知っているからね。アントは別に強くは無いけど、かと言って弱いわけでもない。アント達に苦戦するところからして集団攻撃もできないのだろう。


 反対に夜叉丸は足の速さでそれらをカバーしてしまう。良くも悪くも夜叉丸の戦闘能力は普通じゃないと思っているんだ。アレが普通ならオークやアントに苦労している人達が普通じゃない事になる。そうであれば魔物なんてとっくに淘汰されているか、肩身の狭い思いをしているはずだからな。


「夜叉丸はずっと僕の隣にいられるんだ。それくらい我慢できるだろ」

「……でも、キスもしてくれない。アルジの体からランの匂いがした。私のは」

「それも後々だよ。もう少しだけ待ってくれ」


 あっぶな、それバレていたんですかい。

 ランは気が付いていたようだけどリンは御褒美に気を取られていたみたいだ。素直に助かった、こんな事で二人との関係が壊れて欲しくは無いからね。


 それにしても……この子はこの子で勘が鋭いな。いや、分かるよ。夜叉丸からしたら私の方が先なのにって思ってしまうよな。だけどさ、アレは本当に不可抗力なんだって。……言い訳したいけどリンがいる反面、何も言えないが。


「僕の言う事を聞いてくれるのなら寝る前に一回はするよ。それなら駄目かな」

「……ガンバる」

「その代わり他の事はしないからな。それは本当にまだするべきじゃないから」


 したくないかと聞かれたらしたい。

 でも、それで今の状況が壊れることに繋がってしまったらどうする。僕は極力、何もしないで生きていたいんだ。ただ人よりも少しだけ良い生活をして、可愛らしい奥さん数人に囲まれて、そして数人の子供に説教を垂れながら笑っていきていたい。


 その未来が見えるまでは……無理かな。

 夜叉丸とするのも……もちろん、ランとするのだって。むしろ、ランの場合は幼さが抜け切るまでは確実に無理だ。いや、しようと思えばできますよ。たださ、背徳感が半端じゃないと思うんです。それで途中で終わってしまった時とかには……。


 おー、恐ろしい。




『昼間は元気なのに夜は全然なんですね』


『夜はブサメンなんですね』


『よく見たらどこが王子様なのでしょう』











「嫌だー! そんなの嫌ー!」

「えっと……?」


 ……もしかして心の声が漏れていましたか?

 リンは驚いたような顔をしていて、ランは少し恥ずかしそうに、夜叉丸は何を言っているのか分からなさそうに首を捻っている。……えっと、どこから僕は口にしていましたか……?


【「嫌だー! そんなの嫌ー!」と言って】


 やめい! 僕の声を再生するなぁ!

 でも、そこだけならまだ大丈夫か。……考えろ、何と言えば三人、特にランとリンに疑われずに済む。


「あ、いや……強い敵と戦うのが嫌だなと思っていただけだよ。この森って時々、見た目に合わない魔物が出てくる時があるからさ。ソイツらに乱入されたら大変だなって」

「そこまで見据えているとは……さすがです」

「お、王子様は賢いもんね!」

「なるほど……」


 うーん……ランだけは気が付いていそうだ。

 さすがに視線がランの方に向いていたのかな。いや、昨日の今日だからさすがに意識するなと言われても無理だよ。だって、顔を見るだけでも恥ずかしくなってくるのにさ。無意識的な部分まではどうにもできない。


「とりあえず二人はどこまでなら倒せるか教えて欲しいな。その魔物がいそうな場所に向かうからさ」

「オークが五体までなら大丈夫です」

「それならオークが五体以下の場所に向かうよ。勘で歩くからあまり期待はしないでね」


 って事で、ビビに後は任せる。

 単純な近場なら超音波でどうとでもなるけど少し離れたら本当に何も分からない。だから、細かな部分は第三ノ眼で離れた場所まで見ているビビに任せるしかないだろう。何を倒せるか聞いたのだってビビが返答をしやすくするためだ。


 まぁ、言ってしまえば僕と夜叉丸だけなら魔物の種類とか関係なく喧嘩を売って、そのまま倒し切るだけだからなぁ。さすがにオーク程度には負ける事も無いだろうし。もちろん、夜叉丸のような変異種とかは別の話ね。


 お、何も言わないけど小さな地図が視界の端に現れたぞ。今の細かな状況までは分からないけど、どこら辺に何がいたのかは分かるみたいだ。恐らくだけど出ている矢印の先にオークがいるのだろう。


「こっちに行ってみようか」


 三人の先を歩いて森の中を進む。

 いつもと変わりのない景色ではある……ただ、いつもよりも僕にかかる負担は大きい。いつもは夜叉丸に対して何かをする事はなかったからね。それこそ、勝手に遊びに行って敵を倒して帰ってくる事もあったし。


 それとは違ってあまり強くない二人。

 いや、ランの言葉を信じるのならリンが本当に怖いところではある。本当にオークを倒せるのだろうか、そういう心配すらも湧いてくるくらい信用できないんだよなぁ。一言で言えば信用ができないと言うべきなのかな。


 まぁ、魔法があるからどうとでもなるけど。

 それに……強くなりたくない人だったら最初の段階で断っているか。恐ろしい思いをさせないようにとか考えていたけど杞憂なのかもしれない。それでも出来る限り嫌な思いをさせずに済ませようとは思うけど。




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少し忙しめなので一先ず、日曜日までは毎日投稿したい所存……(ただし、できるかどうかが分からない)→やっぱり、無理だったよ……。

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転生アル中吸血鬼は怠惰に過ごしたい〜どれだけ堕落しても才能までは抑えられないようです〜 張田ハリル@m9(^Д^)気分次第だぜ! @huury

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