2話 血を吸うと皆……ジュルリ

「ドウカシタノカ」

「いや、予想以上にレベルが上がって驚いただけだよ」

「ゴジュウハタオシタカラトウゼンダ」


 もちろん、本音はそこじゃないんだけど。

 吸血鬼の真祖って何だよ。名前からして普通の吸血鬼よりも強そうなんですけど。ましてや、ステータスも千を超えているしで……まさか、これで低いなんて言わないよね。


 他のところで言えば熟練度と経験値が多く貰えるところだったり、ナビゲーションとかいうスキルがあるしで……突っ込んだらキリが無い。まぁ、何も無いよりは間違いなく良いんだけどさ。


 こう、なんだろうなぁ……強くてニューゲーム感がして嬉しくない気持ちもある。死ぬかもしれない世界だからこそ、そんな願いは甘えではあるんだけどね。


 とりあえず……求めていた空間魔法はあった。闇魔法だって覚えているんだ。それ以上は特に求める必要が無いかな。考えて答えが出ないのなら程よいところでやめた方がいい。他に知りたい事といえば……今の僕の姿を確認したいって程度だね。


 オークの住処にある物をかき集めてみるか。鏡とかがあるかもしれないし、他にも使えそうなものがある可能性もある。性欲しか考えていなさそうなオークが建物を作ったとは思えないし、廃村を乗っ取ったとかの方が可能性が高そうだからな。


「……まぁ、これだけあれば十分かな」

「フフン、テツダッタ」

「助かったよ、夜叉丸」


 夜叉丸が手伝ってくれたおかげで十分程度で使えそうな物は集められた。価値のあるものは魔眼のおかげで区別付けられたし。


 こういう人手が欲しい時に仲間がいると助かるな。文句も言わずに手伝い始めて使えるかどうかも聞いてくれたし……案外と性格は可愛いのかもしれない。


 今だって誇らしげに胸を張っているし。

 顔や腹を見なければ胸がプルンって震えて興奮できるんだけどなぁ。……早く夜叉丸には人型になってもらおうか。そしてムフフな事を……今から楽しみだね。


 さてと、鏡は……これでいいか。

 プライスザオープン、もとい、今の僕のお顔はっと……おおう、イケメンじゃないか。細顔に短めの金髪で鋭いながらも少し大きめな目……犬歯が長めなところ以外は普通の男の子と大差無いね。


「カッコイイ」

「ありがと、僕もそう思うよ」

「ジシンガアルノハイイコト」


 褒められるのは悪い気がしないね。

 たださ、僕の事なのに夜叉丸が胸を張るのはどうしてなんだ。アレか、自分の主に自信があるから大きな胸を張っているのか。早く可愛い女の子にさせてあげないといけないな、うん。


「とりあえず……これだけあればいいか」


 一番、錆びていない片手剣。

 加えて短剣が四本だけど……まぁ、本当に護身用に持っているだけだね。僕が使うのは魔法と決めているんだ。近接戦で戦うのは怖いから遠慮しておきたい。


 一応、仮の宿は見つけた事だし……後は魔法の練習でもしておくか。他にしておきたい事も特には無いからなぁ。あるとすれば……腹が減ってきた事くらいか。吸血鬼の主食って多分だけど普通の食事じゃなくて血だよね。


「ドウシタ」

「いや、何でもないよ」


 さすがにオークの血を吸うのはなぁ。

 一瞬、その考えが過ったけど僕としては可愛い女の子の血以外は吸いたくない。可愛いかどうかは置いておいたとしてもオークの血って美味しくなさそうなんだよ。……いや、他の血を吸える可能性も少ない事を考えたらマシか……?


 これで夜叉丸がいなくなって、メスにすらも出会えなくなったら飢餓と戦う羽目になる。それで我慢するくらいなら今のうちに夜叉丸の血に慣れておくのもアリなのかもしれない。


「メガアカイゾ。ドウカシタカ」

「あー、これは種族特有の症状だから気にしないでくれ」

「フム、キュウケツキダカラカ」


 なるほど、吸血鬼なのはバレていたのね。

 それならさっさと血を吸わせてもらおうか。……いやいや、血を吸わせろって命令するのも何だかな。こういうのも合意があってこそだろ。僕が吸いたいからって襲ってしまったら、それこそオーク達と何も変わらない。


「ハラガヘッタノカ」

「……まぁ、減ってはいる」

「ベツニスッテモイイゾ。コロサナイノナラナ」


 あらら、夜叉丸は許してくれるんだな。

 でも……あー、すっげぇ抵抗感がある。血を吸いたいって欲望と人としての自分を捨てたくないって気持ち、それと夜叉丸で吸血童貞を捨てたくないって思いだ。……はぁ、ワガママを言ってはいられないか。


「いいのか」

「アルジノタメダ。ソレニタスケテモラッタオレイモシタイ」

「……なら、遠慮無く」


 アレだ、これは未来のハーレム予定候補の嫁達のために練習するだけだな。いざ、可愛いお嫁さんとするって言う時に腑甲斐無い事をしたくない。せめて、僕がリードしなければいけないんだ。


 そう、これは人としての自分を捨てるわけじゃない。吸血童貞を捨てるわけでもない。彼女と初めてをする前に風俗店で練習をしておくのと一緒だよ。夜叉丸の血を吸ったとしても素人吸血鬼である事には変わりない。素人童貞はしっかりとした人族の女の子で捨てるんだ!


「いただきます」

「はぅ……」


 夜叉丸の首元に牙を立てた瞬間、その時に喘ぐような声が聞こえてしまった。相手はただのオークのはずなのに……少しだけ動揺してしまうのは普通のはずだ。その声を我慢しているのも若干だけど愛らしく思えてしまうし。


 アレ? 夜叉丸ってオークだよね?

 やめろ、無心で吸うんだ。夜叉丸を殺さないように、それでいてお腹が満たされるように……ゆっくりと探り探りで味わいながら……。味自体は少しだけ甘くて酸味がある感じ、その酸味自体もアクセントみたいなものだから不快感は大して無い。


 初めて味わうにしては美味しいかもね。

 これが毎日吸えるのなら……それでいいかな。もう少しだけ、もう少しだけ夜叉丸の血を吸っていたい。だけど、これ以上は殺してしまうかもしれないんだ。


「夜叉丸、辛かったら辛いって言ってくれ。途中で止めるから」

「マダ……ダイジョウブ……」


 声を抑えているからか、少しだけこもっているけど良いというのなら吸わせてもらおう。無意識に夜叉丸を抱き締めていたけど……少しだけ細くなったか? さっきまでは両手を重ねる事は出来なかったような……?


「モウチョット……シテホシイ……」

「ああ、吸わせてもらうよ」


 吸う程に……小さくなっていく。

 夜叉丸が細くなっているのは気のせいじゃない。全体は見えていないけど今は完全に両手を重ねる事ができている。間違いなく先程まではできていなかった事だ。


 アレなのかな……夜叉丸の悪い血を僕が吸っているとかなのか。僕の吸血にデトックス効果があるのかもしれないね。科学的に効果が期待されていない血液クレンジングとは違って本当に効果のある美容方法……そう考えると美女からモテそうだね。


「ぷはぁ……さすがにお腹いっぱ……へ?」

「ドウカ……シタカ……?」


 えっと……どちらさまですか?

 いや、高身長なのは変わらないよ。肌も少しだけ緑がかっているけど……顔は美しい女の子になっている。いや、少しだけ豚鼻だから名残はあるのか。でも、体は普通の女の子より少しだけぽっちゃりしているだけでオークとは思えない。


 本当に分からなさそうにしているから……自覚は無いんだろうね。だったら、この鏡を手渡してっと。


「コレガ……ワタシ……」

「ああ、すっごく可愛いよ」

「……アリガトウ。ウレシイヨ」


 くっ……中身が変わっていないだけに破壊力だけが強くなってしまった。夜叉丸はもっとゴツくて欲情すらしない存在だったはずなのに……これじゃあ、ただの美女だよ! ふざけんな!


「めっちゃ抱きたい」

「ウン? ドウカシタカ?」

「イエ、ナンデモナイデス」


 あぶねっ、心の声が漏れた。

 はぁ……これからはこの魅力に抗いながら生きなきゃいけないのか。いいじゃねぇか、出来る限り抗ってやるよ。そして、夜叉丸が僕に好意を持った瞬間に嫁の一人にしてやる。


 くっくっく、今に見ていろよ。

 夜叉丸が僕以外を見れないようにしてやるからな。そして夜叉丸みたいな美女をたくさん手に入れてハーレムを築いてやる。今ので僕が血を吸うと女の子が可愛くなるのも分かったからな。美女だけの血で生きてやるよ!


「ナンカコワイナ」

「いや、夜叉丸を手に入れてよかったって心の底から思っているだけだよ」

「ワタシモアルジニデアエテヨカッタ」


 くっ……我慢だ我慢。

 後で一人で済ませておこう。






 何がとは言わないけどね!

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