エピソード6 攻略方法2

 黒から白へと視界が変わる。

 もう何回目か分からないその空間で、サクヤはゆっくりと目を覚ました。

「何回目か分からない、じゃないよ。十回目だよ、十回目。あと二回で一ダースだよ。干支も一周しちゃうよ」

「何だよ、干支って?」

「ああ、そうか。この世界には干支なんてないもんね。でもキミは前世では丑年だった。だから食べるのも遅かったんだ」

「よく分かんねぇけど、それは偏見じゃねぇか?」

 そんなどうでもいい話をしながら、サクヤはゆっくりと起き上がる。そういえば、今回は拍手で迎えてくれないのだろうか。

「拍手なんかする気もないよ。まさか女の子の部屋を漁るとは。変態の風上にしか置けないよ」

「なっ、し、仕方ねぇだろ! あそこがエリーの部屋だなんて知らなかったんだからよ!」

「しかも箪笥の引き出しを開けようとするなんて、バカじゃないの? エリーの怒りを買って当然だね」

「あ? そういや見られたらマズイモンが入っているって言ってたけど……何が入っていたんだ?」

「……」

「はっ、また仕様とか言って答え……」

「パンツとブラだよ」

「え、パ……?」

「良かったね、開けていたらキミの称号は変態剣士になっていたところだったよ。ある意味史上最強の勇者だね」

「……」

 無言で固まるサクヤに、創造主は冷たい溜め息を吐く。

 そうしてから、彼女は改めて彼を冷たく見据えた。

「それにしても何なんだい、そのザマは。女の子の部屋を漁って殺されて帰って来るなんて。呆れて物も言えないよ」

「言ってんじゃねぇか」

 それから自分のプライドために言っておくが、殺された原因は女の子の部屋を漁ったからではない。いつも通り魔王城に侵入した結果、何だかんだで殺されてしまっただけである。

「だいたい、それについてはお前が言ったんじゃねぇか。死ぬの前提でいつもとは違う行動をしてみろって。その行動の結果、死んで帰って来て何で文句を言われなきゃなんねぇんだよ?」

 自分で言っときながら何だよ、とサクヤは反論するが、それでも創造主は呆れたように溜め息を吐いた。

「そういう意味で言ったんじゃないんだけど」

「じゃあ、何だよ?」

「何って……」

 本気で分からないらしいサクヤに頭を抱えながら。創造主は仕方がなさそうにその続きを口にした。

「いいかい? キミは今、このゲームをどうやったらクリア出来るのかが分かっていない。それが分からない以上、キミはどうやっても死んでしまう運命にあるんだ。もちろん、次の十一回目だって死んでしまうだろう。だったら一度ゲームをクリアする事を諦めて、視点を別の場所に向けるべきだ」

「別の場所?」

「エリー以外にだよ」

「は?」

 そのアドバイスに、サクヤはキョトンと目を丸くする。

 エリー以外に目を向ける? エリーをどうにかしなくては、世界は救えないのに?

「だから、そのエリーをどうにかしようとして、十回も死んでいるんでしょ? だったら一回くらい、エリーなんかほっといて、別の事に目を向けてみたらどうだい? そこに、何かヒントが転がっているかもしれないだろ?」

「ヒントって……もしかしてお前、何かあるって知ってんの?」

「そりゃ知っているよ。だって私は創造主なんだから。全部知っているに決まっているだろ」

「じゃあ、何が転がっているんだよ?」

「それは教えられないよ。仕様だからね」

「ちっ、使えねぇ創造主だな」

「あ? また記憶消したろか?」

 とは言ってみるが、そんな事をしたら尚更クリア出来なくなってしまうので、止めておこうと思う。

「で、サクヤなりにいつもと違う行動を取ってみて、何か分かった事でもあった?」

「あ?」

 突然変えられたその話題。それについてサクヤは少しだけ考えてみる。

 カグラに悲しそうな顔をされて、魔王城で迷子になって、エリーの部屋を見付けて、それで……。

「分からなかった」

「うん?」

「エリーが泣いていたんだ。でも、その理由は分からなかった」

「……」

 エリーが泣いていたその理由。その理由を知る前に死んでしまった事。ここで死ぬのを残念に思った事……。

 それを今、思い出した。

「それを、知りたいと思ったの?」

「それも知っているのか?」

「知っているよ。創造主だからね」

「じゃあ……」

「教えられないよ。仕様だからね」

「その仕様、何とかならねぇのかよ?」

「どうにかなっていたら、さっさとキミに攻略法教えて、とっとクリアしてもらってるよ」

「ああ、そうかよ……」

 はあ、とサクヤは残念そうに溜め息を吐くが、そこで彼はふと気付く。

 攻略法を教えてクリアしてもらってる?

 と、いう事は……、

「お前、どうやったら世界が救えるか知ってんのか?」

「はあ? 私は創造主だよ? 全部知っているってさっきも言っただろ。何度も同じ事を言わせないでくれよ」

「じゃあ、その方法……いや、ヒント! ヒントをくれ! いや、くださいっ!」

「えー……」

 攻略方法を頼んだところで、どうせ仕様がどうとかで教えてくれないのだろう。ならばちょっとしたヒントだけでも教えてもらえないだろうか。

 パンッと両手を合わせ、この通りだと頭を下げれば、その必死な思いが彼女にも伝わったのだろう。創造主は「じゃあ」と重い口を開いた。

「サクヤはさ、ゲームをクリアするために必要なモノって何だと思う?」

「努力と根性と時の運」

「そういうんじゃなくってぇ……」

「知るかよ。オレにはお前の言う『ゲーム』ってのが何なのかも、よく分かんねぇんだからよ」

「アイテムだよ」

「は? アイテム?」

 とは言われても、それが何なのかも、いまいちよく分からない。

 アイテムとは道具。では、一体何の道具の事を言っているのだろうか。

「薬草とか、毒消し草とか安価なモノじゃなくってさ。大事なモノとか貴重品とかに分類される、ゲームの進行に欠かせない重要なアイテム。それを探してみなよ。一つでも手に入れる事が出来れば、ゲームの流れは変わるかもしれないね」

「は? 言っている意味が全く分か……」

 しかしそう反論しようとしたところで、地面がパアッと光り輝く。

 どうやら次のゲームが始まる時間のようだ。

「残念。そろそろ巻き戻りの時間だ」

「なあ、これ、お前の都合が悪くなったら光ってねぇか?」

 前回もこんな感じだった、とサクヤが眉を顰めるが、創造主はそれに対しては何も答えず、ただニッコリと微笑んだ。

「それじゃあ、サクヤ。少しでも良いアイテムに出会えるように願っているよ」

 地面から放たれた光が空間を覆い尽くし、そして一気に消える。

 創造主が微笑んだ先には誰もおらず、その空間には彼女の姿だけが残された。

「前世でも彼女は泣いていたんだよ。キミのせいでね」

 いや、そもそもの原因を作ったのは自分だったか。

「でも私だって、本当はみんなに楽しんでもらいたいから作ったんだ。誰かを不幸にするためじゃない」

 ポツリと呟かれた彼女の本音。

 それが誰かに届く事は、きっとない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る