エピソード4 攻略方法
白で統一された出口のない部屋。
そこで目を覚ましたサクヤの耳に届いたのは、九回目の手を叩く音であった。
「九回目のゲームオーバーおめでとう、サクヤ。今回も何の進展も面白味もない、いつも通りのエンディングだったね」
パチパチと手を叩く創造主の姿を視界に入れながら、サクヤはゆっくりと体を起こす。
ああ、やっぱりまたダメだったか。
「って言うかさ、九回もやって何も進展がないってどういう事? キミ、このゲームクリアする気ある? それともキミは、何度だって嬲り殺されたいドMだったのかい?」
「ンなわけねぇだろ。つーか、この世界に放り込んだ張本人の言う台詞じゃないだろ、それ」
「うん、うん、そうなんだよね。キミがここまで学習能力のないアホだとは思わなかったからさ。こんなにも手こずるんなら、せめてゲームの難易度は上げないでおけば良かったよ」
「誰がアホだ、この野郎」
はあ、と呆れたように溜め息を吐く創造主を、サクヤはギロリと睨み付ける。そう後悔するのなら、今からでも難易度を下げてくれればいいのに。
「そうしたいのは山々なんだけどさ、それをやっちゃうと、色々と不都合が出て来るから無理なんだよね。って言うかさ、これもう九回目だよ? 難易度がどうのこうのと文句を付ける前に、そろそろ自分でこのゲームの攻略方法に気が付いてもいいんじゃないの?」
「攻略方法って言われてもなあ……」
そう口にし、サクヤは困ったように溜め息を吐く。
今のところ分かっているのは、エリーが裏切り者だという事だけだ。だからこのゲームをクリアするには、そのエリーを何とかしなければならないのだが……。
その何とかする方法が、未だにさっぱり分からないのである。
「何、その、分かっているのはエリーが裏切り者だという事だけって。そんなの二回目で分かる事だろ? 九回やってまだそこだって意味が分からないよ」
「ンな事言ったって仕方ねぇだろ。アイツが裏切り者だと分かっても、そこからどうヤツを排除したらいいのかが分かんねぇんだからよ」
「じゃあ、次のゲームを始める前に、そのエリーを上手く排除する方法を考えてみたらどうだい?」
「ええ? あー、そうだなあ……」
創造主にそう促され、サクヤは少しだけその方法を考えてみる。
そして思い付くままに、彼はその提案を口にした。
「じゃあ、エリーに冷たく接して、自主的にパーティから出て行くように仕向けるとか?」
「何だよ、その下級虐めっ子みたいな発想は。それにそれ、いつもやっているけど上手くいった試しなんかないじゃないか」
「仕方ねぇだろ。オレがどんなに冷たく当たっても、カグラとヒナタがエリーを庇うんだから。アイツら、オレの言う事は信じねぇくせに、いっつもエリーの肩ばっかり持ちやがって……っ!」
「それは人徳の問題だから仕方ないね」
「何だとっ!」
「人徳のない人は、ない人なりに、違うやり方を考えなくっちゃいけないよ」
「あー? ……ンじゃあ、いっその事、パーティから排除するんじゃなくって、エリー自身を始末するとか?」
「それはもうやったね。四回目と六回目に」
「え、そうだったか?」
「四回目はリオンとの教会での密会後、背後からエリーを斬り殺した。でも巫女様を殺した反逆者として村の人達に捕らえられ、仲間ともども処刑された」
「……」
「六回目は魔王城に潜入後、エリーに城を案内してもらうふりをして、背後からエリーを斬り殺した。でもその後、水晶玉でその様子を見ていたリオンの怒りを買い、やっぱり仲間ともども殺されてしまった」
「そう、だったっけ……?」
でも……そう言われてみれば、そんな気もする。
「覚えてないの? 前世のキミはもう少し賢かったよ」
「……」
呆れたように溜め息を吐く創造主は腹立たしいが……。でも何故か言い返せないので、ここは大人しく黙っておこうと思う。
「仕方がない。このままじゃあいつまで経ってもクリア出来ないだろうから、一つだけアドバイスしてあげよう」
「何だよ?」
その上から目線な物言いはやっぱり腹立たしいが……。でも貰えるモノは貰っておこうと思う。
「いいかい、サクヤ。ここはゲームの世界だ。つまり、現実の世界とは違う。では、ゲームの世界で出来て、現実の世界で出来ない事って、何だと思う?」
「ええ? 急にそんな事聞かれたって分かんねぇよ。たいだい、そのゲームの世界ってのも、オレにはよく分かんねぇんだからよ」
「じゃあ、特別に教えてあげるよ。ゲームの世界で出来て、現実の世界で出来ない事は、死んでもやり直せるという事だ。ここはゲームの世界。現実とは違い、キミは何度死んでも何度だってやり直せる。それを利用するべきだ」
「利用って言われてもなあ……」
そのアドバイスに、サクヤは困ったように眉を顰める。
確かに創造主の言う通り、サクヤはこの世界を何度も死んではその都度巻き戻り、何度も『サクヤ・オッヅコール』を繰り返している。しかも創造主の機嫌を損ねた一回目以外の記憶は受け継いでいるのだ。
だからそれを利用した方が良いというのは何となく分かるのだが……。
でも、具体的にはどうしたらいいのだろうか。
「どうせ死んでも、また次のゲームでやり直す事が出来るんだ。だったら死ぬの前提で、いつもとは違った行動をしてみたらいい」
「死ぬの前提で?」
「そうだよ。どうせいつもと同じようにやったところで、結局は死んでしまうんだ。だったらいつもとは違う行動を取り、それによって何がどう変わるかを調べてから死に、次のゲームに繋げたらいい。そっちの方が、効率が良いとは思わないか?」
「何だよ、効率って……。言っとくけど、死ぬのって滅茶苦茶痛いんだぞ。いくらやり直せるとはいえ、そう何度も死にたかねぇよ」
「そのくらい知っているよ。私だって、死んだ事くらいあるからね」
「え?」
その一言に、サクヤはパチクリと目を瞬かせる。
死んだ事くらいあるだって? 創造主が?
「それって……」
どういう事?
しかしサクヤがそう尋ねる前に、パアッと地面が光り輝く。
どうやら次のゲームが始まる時間のようだ。
「残念。そろそろ巻き戻りの時間だ。それじゃあサクヤ。次こそは少しでもクリアに近付けるように、頑張ってね」
地面から放たれた光が空間を覆い尽くし、そして一気に消える。
それによってサクヤの疑問は創造主には届かぬまま、その空間には彼女の姿だけが残された。
「サクヤ。キミのせいで私達は死んだ。でも、私達だって本当はキミの事、憎いだなんて思ってはいないんだ」
そっと呟かれたその言葉。
それはサクヤの疑問が彼女に届かなかったように、彼にもまた届く事はない。
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