エピソード11 続、十一回目の世界
ゆっくりと目を開ければ、そこは先程までいた白い空間とは対称的な薄暗い部屋。どうやら気を失っている間に夜になっていたらしい。今は何時頃だろうか。
「気が付きましたか?」
聞き覚えのある事が聞こえ、サクヤはゆっくりと目線を向ける。
そこにいたのはヒナタ。どうやら自分が気を失っている間、ずっと傍にいてくれたようだ。
「ずっとではありません。私だけではなく、カグラさんとエリーさんも交代であなたに付いていたのですから」
「そっか、悪かったな」
「いえ。それよりも大丈夫ですか? あなた、突然倒れたんですよ?」
ボロボロの布団の中、ゆっくりと体を起こせば、ヒナタが心配そうな目を向けて来る。
そんな彼女に対して、サクヤは「大丈夫だ」と柔らかい笑みを向けた。
「何があったんですか?」
「何か、色んな記憶がゴチャゴチャと流れて来てパニックになっただけだ。悪かったな、心配掛けて」
「色んな記憶って?」
「さあな。ゴチャゴチャしていたから、よく分かんねぇ」
前世の記憶を思い出した、とか、ここはゲームの世界だった、なんて言えるわけがなくて。
サクヤは適当な理由でヒナタに返事をすると、それ以上突っ込まれる前に話を切り替える事にした。
「ところで今何時だ? オレはどれくらい気を失っていたんだ?」
「まだ日が沈んでからそんなに経っていませんよ。サクヤさんが気を失っていたのは、五、六時間くらいでしょうか」
「そうか」
「エリーさんとカグラさんは、村のみなさんが開いてくれた簡単な宴に参加しています。村長さんも今はそこに。魔王軍から解放されたお祝いと、私達へのお礼も兼ねて宴を開いてくれたんです。だから誰も参加しないわけにはいかなくって。それで私達は交代であなたを看ながら、宴にも参加する事にしたんですよ」
「そうか……」
もうすぐカグラさんと交代の時間なんです、と説明をしてくれるヒナタの声をどこか遠くで聞きながら、サクヤは十回目までの事を思い出す。
この村で処刑されるルート以外では、必ず開かれていたこの宴。サクヤが倒れた事など今まではなかったから、これまでの世界では全員で参加し、それぞれが好きなように宴を楽しんでいた。
その中でカグラとヒナタがどのような行動を取っていたのかは知らないが、この宴でもエリーは必ず……、
「ヒナタ、そろそろ交代……って、サクヤ! 目が覚めたのか!」
と、そこでカグラがタコ串を持って戻って来る。
そしてサクヤを見るなり、ホッと安堵の表情を浮かべながら駆け寄って来た。
「気が付いたんだな、良かったよ! もう大丈夫なのか?」
「ああ、もう大丈夫だ。悪かったな、心配掛けて」
「いや、大丈夫ならいいんだ。ところでどうしたんだよ。何があったんだ?」
「いや、何か色んな記憶がゴチャゴチャと流れて来て、パニックになって……」
「色んな記憶?」
「その、色々すぎてオレにもよく分かんねぇんだけど……。でも、とにかくもう大丈夫だ」
「ふうん。まあ、大丈夫なら良かったよ。じゃあこれ、快気祝い。食ってくれ」
「え、これ、食べ掛けじゃあ……」
「気にするな! 美味いぞ!」
「え、あ、ありがとう……」
ズイッと差し出されたタコ串を、サクヤは渋々に受け取る。
それに満足そうに頷くと、カグラはその視線をヒナタへと移した。
「ところでエリー知らないか? こっちには戻って来てない?」
「エリーさん? いえ、こちらには来ていませんけど……。一緒ではなかったんですか?」
「うーん、途中までは一緒だったんだけど、気が付いたらいなくなっていてな。サクヤの事を心配していたから、もしかしてこっちに戻っているのかと思ったんだけど……。違ったみたいだな」
(……)
カグラの話を聞いて、やっぱりかとサクヤは思う。
バルトでの宴が開かれる度、エリーは必ずリオンと密会する。自分が倒れた事で何かが変わるかもしれないと思ったが、どうやらそのイベントは必ず発生するようだ。
(そうだ、エリーとリオンは繋がっている。二人は恋仲で、協力して世界を滅ぼす……それが十回目までのオレの記憶だ。でも前世のオレの記憶では、オレもエリーも、リオンを倒した平和な世界で幸せそうに微笑んでいた。これは一体、どういう事なんだ?)
エリーは魔王側の人間で、今はリオンと世界を滅ぼす計画を立てているか、二人の甘い時間を楽しんでいるかのどちらかだというのに、前世の朔矢がそれは違うと主張する。
一体何が本当なのだろうか。リオンとエリーが会っている現場に行けば、何かが分かるのだろうか。
「サクヤさん? どうしました、難しい顔をして?」
掛けられた声にハッとして我に返る。
顔を上げれば、心配そうに自分を見つめるヒナタとカグラの姿が目に入った。
「タコ、不味かった?」
「いや、そうじゃなくて……」
そういえばこれまでの十回の世界で、カグラとヒナタがエリーとリオンの密会を知った事は一度もない。何を言っても信じてはくれず、その現場を見ようともしてくれなかったからだ。
でも今回の世界はどうだろうか。いつもとは違う流れのこの世界であれば、二人は自分の言葉を信じてくれるだろうか。
「エリーの事、オレにちょっと心当たりがあるんだが……」
「心当たり? エリーさんの行き先にですか?」
「ああ。ちょっと一緒に来てくれるか?」
「……?」
エリーの行き先に心当たりがあるとはどういう事だろう、と二人は戸惑いの表情を浮かべる。
それでもいつになく真剣なサクヤの表情に、何か思うところがあったのだろう。二人は顔を見合わせた後に、初めて首を縦に振ってくれた。
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