第9話
☆☆☆
自室に戻ってきたセイコは手のひらに接着剤を乗っけて笑みを浮かべていた。
本当に彼氏ができてしまった。
しかも、小学校の頃からずっと好きだったユウキだ。
告白されたシーンを思い出すと胸の中がキュッと押さえつけられるような感覚になった。
「これさえあれば、欲しい物はなんでも手に入るんだ」
もしかしたら歌にある通り友達100人だって夢ではないかもしれない。
そうやって中の良い子を沢山作ることも面白いかもしれない。
だけどしばらくは必要なさそうだ。
なんていったって、セイコが一番欲しかったユウキを手に入れたんだから。
「また必要になったら、手伝ってね」
セイコは接着剤へ向けてそう言うと、接着剤を大切そうに引き出しにしまったのだった。
☆☆☆
ユウキはとても優しかった。
休憩時間になると必ずセイコの席にやってきてくれるし、ご飯も一緒に食べるようになった。
その分ハルナとカナと過ごす時間は減ったけれど、2人共セイコのことをちゃんと理解してくれていて、邪魔にならないように距離を取ってくれていた。
「セイコ、今度の休み一緒に遊園地に行かないか?」
ある日の昼休憩中。
給食を食べ終えたところでユウキが遊園地のチケットを二枚見せてきた。
「え、行く行く!」
セイコは大きな声で答える。
中学生になってから友達とテーマパークへ遊びに行ったことなんて1度もなかった。
それが、彼氏と一緒に行くことができるなんて、夢みたいだ。
「喜んでくれてよかった」
ユウキがホッとしたように微笑む。
「でもサッカーの練習は?」
「大丈夫。土曜日か日曜日、どっちかに参加すればいいんだ」
それなら甘えても大丈夫そうだ。
セイコは今から休日が楽しみで仕方なかったのだった。
☆☆☆
セイコとユウキが仲良くしている様子を、自分の机に座ったトオコがジッと見つめていた。
トオコの周りにいた友人たちは今はもう誰もいない。
トオコの悩みを聞いてくれていたユウキも、もうそばにいてくれない。
強い孤独がトオコの心を支配しながらも、ひとりぼっちでいたセイコもこんな気持でいたのかもしれないと考えた。
友達に囲まれていた自分には気が付かなかったけれど、セイコはとてもつらかったのかも。
そう思うと、友人や恋人を奪っていったセイコを憎む気にはなれなかった。
暇な休憩時間を潰すために、膝の上でこっそりスマホをつつく。
最初はゲームをしていたけれど、長い昼休憩中の時はほとんど暇つぶしにならない。
5つあった残機はあっという間になくなってしまって、課金しないとプレイできなくなってしまう。
ゲームができなくなった後も、トオコは画面から視線をあげなかった。
まだゲームをプレイしているふりをしながら、クラスメートたちの会話に聞き耳を立てる。
友人たちが急に自分から離れて行った原因が知りたかった。
自分がなにかしてしまって、カナたちの気分を悪くしてしまったのかも。
そういう内容の会話が聞こえてこないか耳をそばだてていたけれど、なにも聞こえてこないままだった。
小さくため息を吐き出してネットサーフィンを続ける。
なにかめぼしい、面白い記事でもないかと探して、都市伝説を取り扱っているSNSを覗いた。
そこで目にしたものにトオコは目を見開く。
「なに、これ……」
小さく呟き、ユウキと楽しそうに会話をしているセイコへ視線を向けたのだった。
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