第26話
☆☆☆
家に戻ってすぐに自室へ向かおうとしたミハルだったが、リビングから出てきたお母さんに呼び止められてしまった。
「なに?」
気だるそうに返事をしてリビングへ入る。
「今日の調理実習はどうだったの?」
その質問にミハルは仏頂面になってしまった。
黙り込んでいるミハルを見てお母さんは軽く笑う。
「ケーキ作りなんて今までしたことがないのに、急に作るとか言い出すからビックリしたのよ?」
「でも、夢の中ではうまくいったし」
お母さんには聞こえないような声で答える。
「もう1度、ちゃんと作ってみない? 今度はお母さんと一緒に」
「え?」
「ほら、材料はもう買ってきてあるんだから。早く手を洗って準備してきなさい」
お母さんに急かされて、ミハルは言われるがままに洗面所へと向かったのだった。
☆☆☆
それから2人でケーキ作りを始めた。
今度はしっかりとケーキ作りの本を見て、忠実に再現していく。
「わぁ、スポンジがフカフカ!」
オーブンから取り出したスポンジケーキは学校でつくったときの倍は膨らんでいた。
それでもまだ少し膨らみが少ないくらいだったが、ミハルの心は高鳴った。
「いい感じじゃない。次は生クリームね」
スポンジを横に半分にカットして生クリームを乗せていく。
どれだけ慎重に包丁を入れても、やっぱりスポンジはガタガタになってしまった。
「これはまぁ、練習あるのみよね」
お母さんに言われて力なく頷く。
それからトッピングを乗せて完成だった。
学校でつくったものよりも幾分マシな気もするけれど、まだまだお店を持てるような状態じゃないことは一目瞭然だった。
本に書いてあるとおりのことも作れないなんてと、落胆してしまう。
しかし、出来上がったケーキを取り分けて一口食べると、美味しさが口いっぱいに広がった。
「うん。美味しいじゃない」
お母さんも頬をピンク色に染めて何度も頷いた。
「本当だ美味しい」
お店でこんなケーキが売ってあっても絶対に買わない。
それでもこんなに美味しいと感じるのは、やっぱり自分でつくったからだろうか。
「あのねミハル。夢はそう簡単に叶うものじゃないから、夢なのよ」
ケーキを食べ終えてお母さんが言う。
ミハルは素直に頷いた。
「だからね、みんな夢を叶えるために努力をしているの。中途半端じゃなく、一生懸命」
ミハルは膝に置いた自分の手を見つめた。
指先に少しクリームがついてる。
「ミハルはまだまだ将来がある。だからいそいでひとつの夢に決めることはないから、ゆっくり考えなさい。お母さん、ミハルがどんな夢を追いかけても応援するから」
「うん。ありがとう」
ミハルは頷き、指先についたクリームをペロリと舐めたのだった。
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